第2話 引っ越ししよう
「ちょっ……な、何を仰ってるのですか!?」
アイルは俺が言い放った言葉に相当動揺していた。
「だから、この魔王城を放棄しちゃおうって言ってんの」
「ひぃぃぃっ……!!」
「ど、どうした??」
「い、いえ……あまりに大それた発想で気を失いそうになっただけです……お気になさらずに……はぁはぁ」
「そ、そうか……?」
彼女は動悸が激しいのか、胸に手を当て息を荒くしている。
大丈夫なんだろうか……?
「あ、あの……魔王様……宜しければ、この愚鈍な私めに、そのお言葉の真意をお聞かせ願えないでしょうか」
真意? ああ、俺が何で魔王城を放棄したいのか? ってことか。
「だって、死にたくないじゃん」
「……え?」
彼女は話の繋がりが見えないのか目を丸くする。
「それは一体、どういう……?」
「さっき魔団の話をしたってことは敵がいるんだよね? それは普通に考えればアレだと思うんだけど」
「はい、憎き勇者でございます」
「だよねー」
「?」
「じゃあ俺の前の魔王って、どうなったの?」
「それは……憎き勇者によって帰らぬお人に……」
「だよねー」
「?」
アイルはさっきから質問の意図を探ろうとしているようだが、計り兼ねている様子。
だが、俺は続けた。
「ということは、俺もその勇者に殺される可能性があるってわけだ」
すると彼女は血相を変えて訴えてくる。
「いえ、そんなことは! 魔王様があんな勇者ごときにやられるわけがありません!」
「でも実際、前の魔王はやられてるんだよね?」
「う……」
彼女はぐうの音も出ないといった様子で、俯いてしまった。
だが、すぐに持ち直し、
「先代は先代、現魔王様は現魔王様ですよ」
「なにその家は家、よそはよそ、みたいなのは」
「それに先代の魔王様は、私はお仕えしていないので、そこまでの詳しい経緯は分からないのです。なので現魔王様は問題無いかと」
「へえ、そうなんだ。って、問題大有りだよ!」
なんとなく納得させられそうになった。
危険だ。
「俺はわざわざ転生させられた挙げ句、そんなことで死にたくはないわけ。で、さっきの魔王城をなんで放棄するかって話に繋がるんだけど」
そこで彼女はガバッと顔を上げ、興味を示す。
それに対して俺はニタリと笑った。
「魔王城って、そこに魔王がいますよ! って勇者に教えてるようなもんじゃん。そんなのこっちからやられに行ってるようにしか思えないでしょ。だったら魔王城は
「だ……
遠い目をしたアイルは、目眩が起きたかのように体をふらつかせる。
「お、おい、大丈夫か? そんなに深刻にならなくても……。別に壊しちまおうって訳じゃ無いんだし。ただの引っ越しだぞ」
「引っ越し……ですか」
「そうそう、引っ越し」
すると彼女は何かに思い当たったのか、途端に目を輝かせる。
「引っ越し……なるほど! 魔王様のお考えが良く分かりました。この城を囮にして、世界を闇に沈める為の一大拠点をお築きになろうというのですね! それはまさに人類の喉元にナイフを突き付ける行為。さすがです!」
人の話を聞いてるのか、こいつは……。
まあいいや、引っ越しすることには納得したみたいだし。
しかし、実際どこに引っ越すかが問題だ。
ぱっと見渡した感じ、この城デカそうだし、どれだけの人数が居住しているのかも把握できていない。
それなりの規模のものを用意する必要はありそうだけど。
「魔王様、新しい城はどのような形にするおつもりですか?」
アイルが期待に満ちた顔で尋ねてくる。
それはまるで簡単に新しい城が作れるみたいな物言いだ。
「そうだな、まず第一に目立たない場所であること。頑強であることは当然でありながら出来るだけ大規模で、迷路のように入り組んだ内部構造。そして簡単には攻め込まれない……端的に言うのならダンジョンのような作りが最適かな」
「なるほど、では早速作りましょう」
「作るって、どうやって?」
そこで彼女は何かを思い出したようだった。
「そうでした、まだお伝えしてませんでしたね」
「?」
「魔王様にはそれが出来るお力が備わっているはずです。御自身の手に念を込めて、前へ突き出してみて下さい」
「こ、こうか?」
言われた通り、右手に意識を集中させ、前に向かって腕を伸ばした。
刹那――、
ガシャンッ
大音響が城内に響き渡る。
腕の先から巨大な獣の牙のようなものが現れ、近くにあった壁の一部を噛み砕いたのだ。
「な……」
その状況に驚いていると、視界の中にまるでゲーム画面のようなウィンドウが現れる。
そこにはこう表示されていた。
[素材パレット]
城壁ブロック×1 NEW!
なんだこりゃ……。
そう思っているところにアイルが告げてくる。
「それが魔王様だけに備わる力。
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