第3話 能力を確かめよう

強欲の牙グリーディファング……?」



 俺は自分の手から飛び出した獣の牙の存在に呆然としていた。



「そのお力があれば、この世界のあらゆるものが魔王様の思いのままになります」

「思いのまま……」



 俺は自身の手をまじまじと見詰める。

 その姿をアイルは嬉しそうに見守っていた。



「そうです! その貪欲な牙は万物を喰らい尽くし、世界を思うがままに作り替える破壊と創造の牙。城を新たに築くなど容易いことです」



 彼女の言うことが本当なら、この牙で建築物が作れるのか。



 そういえば、さっき試しに牙を出した時に、城の壁を少しだけ壊してしまった。

 その際、俺の視界の中に表示されているアイテム画面のような場所に、



[城壁ブロック×1]ってのが表示された。



 そいつは今も表示され続けているんだけど……。

 これって、もしかして……ゲームで良くあるアレみたいな奴じゃないだろうか?



 俺が想像している通りの能力なら多分、出来るはず。

 ちょっと、試しにやってみるか。



 壊れた壁に向かって右手を伸ばすと、そこに再び念を込める。

 途端、



 ボンッ



 と音がして、壁が元通り綺麗に直っていた。



 そのままアイテム画面に目を向けると、先程までそこにあった、

[城壁ブロック×1]の表示が消えていた。



 それで理解した。



 これは前世で言う所のマ○ンクラフトとか、ドラ○ンクエストビ○ダーズみたいな奴だ。



 目に見えるものを壊して素材にし、物を創造して行くゲームと同じ。



 この強欲の牙グリーディファングとかいうものは、差し詰めゲームで言う所のツルハシやハンマーみたいなもんか。



 となると、素材同士の合成とかもできるのかな?

 ちょっと試したくなってきたぞ。



 色々と想像が広がり始めてワクワクしていると、アイルが両手を合わせて喜びの表情を見せる。



「さすが魔王様! 早速、使いこなせているようですね」



 ガッガッガッ



「転生して間も無いというのに素晴らしいです!」



 ガッガッガッ



「この御様子ならば、すぐに打って出ることも可能でしょう」



 ガッガッガッ



「さあ、そのお力を存分に振るい、下賤の者共に魔王様の存在を知らしめましょう。この世界を阿鼻叫喚の地獄に変えるのです! って……さっきから何やってんですかぁぁぁぁぁっ!?」



「え? 見た通り、なんか良い素材が手に入らないかなあーと思って、床下を掘ってる所だけど?」



 俺は一旦、強欲の牙グリーディファングの動きを止めて答えた。



「そ、そんな所、掘らないで下さいぃぃっ! ここ玉座の間ですよ!?」



「何かマズいの?」

「マズいも何も、この場は全ての者に畏怖を与えねばならない厳粛なる場所。そこがこんなことでは……」



「ああ、そういうの俺、気にしないから大丈夫」

「大丈夫……って、そういうことじゃなくてですね!」



 そんなにプリプリしてると体に良くないと思うんだけどなあ。



「それから、このまま掘り進めて城の地下にダンジョンを作っちゃったら一石二鳥かなあなんて思ってるんだけど、どう?」



「どう……って聞かれましても、そのダンジョンとやらは、どうするおつもりなんですか?」



「え? さっき言ってたじゃん。そこへ引っ越すんだよ」

「は……?」



 アイルは、ぽかんとしていた。

 しかし、そうはしていられないといった感じで頭を振る。



「確かに、ダンジョンのような城とは聞きましたが、よもや地下とは思いませんでしたよ! そのような洞窟みたいな場所は魔王様には似合いません! それに魔王様とあろう御方が、そんなふうにコソコソと隠れるようなことをしなくても……」



「いやあ、灯台下暗しと言ってね。まさか魔王城の地下に、本当の魔王城があるとは勇者も思わないんじゃないかなあと思ってさ。入り口も一箇所にしておけば防衛施設として最高だと思うんだよね」



「と、とにかく、一旦掘るのを止めて下さい!」

「えー……折角、調子が出てきたところなんだけどなー」



 仕方が無い。

 魔団参謀である彼女とは今後も長い付き合いになるだろうから、少しは話を聞いてやらないとな。



 俺は強欲の牙グリーディファングを引っ込めると、掘った穴から出る。



 今ので、畳にしたら六畳分くらい、深さ二メートルくらい掘れたけど、どれぐらいの素材が集まっただろうか?

 気になって素材パレットを開いてみる。




[素材パレット]

 城床ブロック×10

 土×46 NEW!

 木材×2 NEW!

 鉄鉱石×1 NEW!




 こんなもんか。

 木材ってのは木の根っこが土の中に埋まってたから、それだろう。



 おっ、一つだけだけど、鉄鉱石が採れてるなあ。

 何かに使えるだろうか。



 そう考えた所で思い出した。

 これがゲームと同じシステムなら素材同士が合成出来る何かがあるはずだ。



 その辺を意識して素材パレットの画面を見ると、端に切り替えタブがあることに気が付く。



 これか。




[合成レシピ]

 土×5 + 木材×2 = 落とし穴×10

 鉄鉱石×2 = トゲ罠



 大当たり。やっぱりあった。

 で、今の素材で作れるのは落とし穴だけか。

 残念ながらトゲ罠を作るには鉄鉱石が一個足りない。



 とりあえず、落とし穴だけ試しに作ってみるか。



 と思ったが、実際どうやるんだろう?

 ゲームみたいに作業台が必要なのか? それとも……。



 そんなことを考えながらレシピ画面を見ると、意識するだけでカーソルが動くことが判明。



 おおっ、もしかして、作りたい物の項目に合わせてクリックするだけで合成出来るのか?



 よし、やってみよう。



 俺は落とし穴にカーソルを持って行き、クリックする。




[素材パレット]

 落とし穴×10 NEW!

 城床ブロック×10

 土×41

 鉄鉱石×1



 お、ちゃんと出来てる!

 じゃあ、今度はこの落とし穴を設置だ。



 同じようにカーソルを持って行きクリックする。

 すると目の前の床に落とし穴が設置された――までは、よかったのだが……。



「ぎゃっ!?」



 そんな悲鳴が上がり、アイルの姿が目の前から消えていた。



「あ……あれ?」


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