第158話 マムゥ
俺はプゥルゥと一緒に罠を設置しに行くことになった。
その場所はまず、ダンジョン内よりも魔王城の外が優先だと思う。
敵は出来るだけ最深部より遠い場所で仕留めたいからね。
という訳で俺達は死霊の森に出ることにした。
「ねえ、マオウさま。あたらしいワナはどこにセッチするの?」
森の道を進んでいると、俺の肩に乗っているスライム姿のプゥルゥが尋ねてきた。
「そうだなあ……」
というか、今はそれよりも俺の肩に乗っているプゥルゥが気になって仕方が無い。
横を向けばすぐそこにスライムの顔(?)があるのだが……。
これがさっきの少女だと思うと、どういう反応を示していいのか、いまいち迷う。
だって、不意に振り向くとチュウしちゃいそうに近いんだから。
彼女も彼女で、
「マオウさまのカタにのってもいい?」
ってな感じで気軽に言ってくるもんだから、然程意識しているようには思えないんだけど。
取り敢えず、今は気にしないでおこう……。
で、新しい罠の設置場所だけど、森の道は偽四天王が守ってるし、既に結構な数の罠が仕掛けてあるから、これ以上、新しいものを設置する余裕が無い。
なので、
「今度は森の中にも設置していこうと思うんだ」
「へー」
「敢えて森の道の方を通ろうとしない捻くれた侵入者も現れるかもしれないからね」
「なるほど」
「でも、気をつけなきゃいけないのは、配下の皆が誤って罠に嵌まらないようにしないといけないってこと。鬱蒼とした森の中だと、何がどこに設置してあるのか分からなくなっちゃうからね」
「ふむふむ、そうだね……」
「何か俺達にだけ分かるような目印みたいなものがあればいいんだけど」
「めじるしかあ……」
プゥルゥは体を凹ませて考え込む。
すると、すぐに大きな瞳を見開いた。
「あ……ボク、それにアテがあるよ!」
「えっ、ホント?」
「うん、いいのがある。たぶん、このへんにはえてたとおもう……」
彼女は俺の肩から飛び降りると、ぴょこぴょこ跳ねながら近くの繁みの中へと入って行く。
俺もその後に続いた。
「ほら、あそこ」
彼女が視線で上方を指し示す。
その方向へ目を向けると、木の枝に紫色の実がたわわになっている姿が視界に入ってきた。
実の大きさはミカンくらい。
つるんとした丸い果実だ。
「あれをどうやって使うんだ?」
「まずは、とらないとね」
すると彼女は木の枝に向かって飛んだ。
だが、ちょっと高くて届かない。
「っと、あれ? よぉーし、それじゃあ、こうだ」
彼女はもう一度跳ねると、枝に届きそうな所で人型に変化する。
そのまま枝を掴んで木の上に登る。
そこからはまたスライムの姿に戻って、枝から枝に跳ねながら軽々と登って行った。
「うまいことやるなあ……」
そんなふうに感心して見ていると、彼女は実がなっている場所に辿り付いていた。 いくつかの実をもいで、体内に格納し、そのままスルスルっと降りてくる。
「はい、これ」
そう言って彼女はわざわざ人型になり、そいつを一つ、俺に手渡してくれた。
「それはね、マムゥの実って言うんだ」
「マムゥ?」
変な名前だな……。
「マムゥの実はね、死霊の森の瘴気をたーっぷり吸って育った実でね。こうやって二つに割ると……」
案外柔らかい実なのか、彼女は持っていた自分の分を手で割ってみせる。
すると中から緑の蛍光色のような果汁が溢れ出た。
うへえ……まずそう……。
蛍光塗料みたいじゃん。
「もしかして、これが光って目印になるっていう? それだと敵にも見つかっちゃうけど?」
「大丈夫だよ」
「?」
「このマムゥの果汁は魔族にしか見えない光を放つの。だから勇者とか人間には全然、分からない」
「おお、それは使えるじゃん」
「でしょ?」
プゥルゥは嬉しそうに微笑んだ。
その表情を見ていて思う。
スライムの時には何となくしか分からなかったけど、人の姿だとプゥルゥって、こうやって笑ってたんだな。
なんだか本当に幸せそうだ。
「なら、その果汁を罠を設置した場所に塗っておけばいいんだな?」
「うん」
「よし、じゃあ手分けして搾るか」
「ああ、それなら任せて」
「ん?」
そう言うとプゥルゥはスライムの姿に戻って。取ってきた実を全てお腹の中に入れる。
そして自分の体を雑巾のように捻ってみせた。
ぎゅぎゅぎゅおぉ……。
一瞬にして、彼女の透明の体の中に蛍光緑のジュースが出来上がっていた。
「……」
体、光ってんな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます