第46話 強化体質
俺はバナーネの皮の
バナナの皮を踏んで滑るとか……そんな古典的な罠、今時引っ掛かる奴いるのか?
この場合、バナーネだけど、意味はほぼ一緒だ。
そもそも皮を踏んだくらいで滑るのか? って話だけど、一応罠アイテム扱いで、踏むと1ブロック分、強制的に前へ飛ばされると表記がある。
ということは、踏んだだけでゲームのような強制力が働くってこと?
マ○オカートとかでバナナの皮を踏むと絶対スピンしてしまうのと同じだって言うのなら、侮れない皮だな……。
それと、1ブロック分っていう具体的な数字が説得力を上げている。
というか、1ブロック分ってどれくらい?
分からないなら試してみるのも有りか。
俺はアイテムボックスからバナーネの皮を選択する。
すると
地面にぺちゃっと皮が放り出される。
「魔王様、何をなさっているので?」
アイルが不思議そうに聞いてくる。
「いやね、このバナーネの皮が罠になるみたいなんだ」
彼女はきょとんとして聞いていた。
どうにも理解が出来ないようだ。
「皮が……で御座いますか?」
「うん、踏むと滑るらしい」
アイルは「うーん」と考え込んだ後、
「不意に踏めば、そういう事が起こる可能性はあると思います。しかし気を付ければ大丈夫なのでは?」
「俺もそう思う」
「??」
彼女は更に疑問を深めた。
「でも、この皮は踏むと確実に滑るらしいんだ」
「確実……ですか。ふと見た感じでは、私が普段見慣れているバナーネの皮と変わらないようですが……」
「踏んでみる?」
「え……」
言われた彼女は一瞬戸惑った。
でもすぐに、
「分かりました。私が試してみます」
覚悟を決めたようにバナーネの皮の前に立った。
「気を付けてね」
「あ……はい。お気遣いありがとう御座います」
俺が忠告したことで逆に緊張が濃くなったようだ。
しかも、誤って滑ったりしないよう現実的な方法を取ってきた。
片足を上げ、その足先を下に向ける。
爪先で皮にちょこっとだけ触れようという作戦だ。
アイルは恐る恐る足を降ろす。
普通はこんなことでは滑ったりはしない。
だが、彼女の爪先が皮の表面に僅かに触れた瞬間――、
ツルンッ
「ふぁっ!?」
アイルの体が宙で引っ繰り返り、そのまま前方に放り出された。
軌道を予測した俺は、そこへ飛び出して彼女の体をキャッチ。
「え? え?」
彼女は何が起きたの分からないといった様子で、俺の腕の中で目を丸くしていた。
そりゃ驚くだろうよ。
ただの皮なのに変な強制力が働いてるんだから。
見てた俺も驚いた。
これほどの力があるものなら罠として充分使えるんじゃないだろうか。
「あ……」
と、そこで腕の中のアイルと目が合う。
途端に彼女の顔が赤くなってゆくのが目に見えて分かった。
「も、もも、申し訳ございません! こんな……あの……魔王様に……あわわ……」
「そんな大したことじゃない。怪我されたら困るからな」
「あ、は……はい! お気遣いありがとうございますっ!」
彼女を降ろしてやりながら考える。
すごく気になることがあるのだ。
アイルやプゥルゥはバナーネの皮にそんな力があるとは知らなかった。
ここまでのことが起きるのだから、今まで知らないで来るなんてことは考え難い。
ましてや普段から良く食べてるわけだし。
ということは、俺がアイテムボックスから出した、このバナーネの皮だけが特殊なのだ。
しかし、そのバナーネはプゥルゥから貰ったもの。他のバナーネとは何ら違いはない。
そんな中でも違いがあるとすれば、アイテムボックス内に一度、格納したことがあるということくらい。
それを証明する為に俺はプゥルゥからバナーネをもう一本もらった。
そして食べる。
むしゃむしゃ……げふぅ。
さすがに二本はお腹が膨れる。
で、残ったこの皮を地面に置く。
そして自分で踏んでみた。
結果――、
何も起こらなかった。
その様子を見ていたアイルとプゥルゥは、なぜだか、
「おお……」
と感心していた。
じゃあ今度は、こいつを一旦格納して……と。
そして、すぐにまた吐き出した。
地面に転がる皮。
さて、これで滑ったら完全にアイテムボックスのせい。
ゴーレムが普通のゴーレムより強くなるくらいだ。
バナーネの皮だって似たような現象が起こってもおかしくはない。
じゃあ今度は自分で踏んでみようか。
そう思って、足を踏み出そうとした時だった。
アイルがこちらに向かって視線を送ってきている。
それは自分がやるとでも言いたそうな目だった。
チャレンジャーだな。
でも、そこには「こういうことは魔王様にやらせるべきではない」というような使命みたいなものも感じた。
ならば……。
アイルは再び緊張の面差しで足を伸ばす。
結果は――、
ツルンッ
「あうっ」
見事に滑った。
だが滑った先に、前の時の皮がもう一つ落ちていて――、
「あうっあ!?」
二度滑った。
でも、さっきの例もあるし、俺にはどこに彼女が飛んで行くかは分かってる。
だから、さっと先回りして、その体を受け止めた。
それはまるで、お姫様抱っこのような状態。
「あ……」
アイルは俺の腕の中で恍惚の表情を浮かべ、キュンとしていた。
「た……度々……申し訳ありません。ハァハァ……」
「いや……」
なんか息が荒いが……。
まさか……こうなることが分かっていて志願した訳じゃあるまいな……。
そのまま、そっと降ろしてやると、なんだか惜しそうにしていた。
しかし、これで立証されたぞ。
俺のアイテムボックスに一度でも入ったものは、少しばかり何かが付加されたり強化されるらしい。
ちなみにバナーネの皮を踏んだことでアイルが飛ばされた距離は約一メートル。
城壁ブロックの一辺の長さくらいだ。
建築系素材は大体この大きさが基準になってる。
恐らく、1ブロック分というのは、そういうことなのだろう。
とにかく、このバナーネの皮は使えそうだ。
普通に罠の一つとして頑張ってもらおう。
特にあの足の速い勇者が嵌まったら面白いことになりそう。
珍しいことに、ちょっとワクワクしている自分がいた。
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