第160話 遭遇
〈勇者レオ視点〉
鳥類のような二足歩行でありながら空を飛ぶ翼は無く、代わりに早足を持つ騎竜。
そいつに跨がり、リゼル王国から東方に向かって進軍を続けること数日。
勇者レオとヒルダ率いる騎竜隊は、魔王城があるという死霊の森の西端に到着していた。
「特に魔王側の抵抗も無く、ここまで辿り付けたが……」
レオは川向こうに見えるおどろおどろしい死霊の森を遠目で窺っていた。
木々の合間からは瘴気が立ち籠め、外界からの侵入者を拒んでいるのが分かる。
――噂では無数のゴーレムが森の周囲を守護していると聞いていたが、ここから窺った限りでは見当たらないな……。森の中に潜んでいるのか?
「どうするの? このまま森に突入する?」
横にいるヒルダが聞いてくる。
「いや、得体の知れない森にいきなり足を踏み入れるのは危険だ。森の周囲に沿って走り、侵入しやすい場所を探そう」
「りょーかーい」
ヒルダが甘ったるい声で答えると、手綱を引いて動き出す。
その後にリゼルの騎竜隊が続いた。
レオも合わせて騎竜を走らせる。
隊はそのまま川を渡る為、畔に近付く。
「水深は、それなりにありそうだな」
辺りを見回すと、少し上流に大きめの岩が川中で連なっている光景が目に入ってきた。
「あそこから渡れそうだ」
あの程度の岩場だったら、騎竜の跳躍力で軽々渡れる。
「向こうから行くぞ」
そう言って動きだそうとした時だ。
「……?」
その岩場の陰に人影を見つけたのだ。
それは十七、八くらいの少女だった。
長い髪を華奢な体に這わせ、可憐な瞳でこちらを見ている。
そして、年齢の割に不思議な色香を感じた。
――こんな場所で……?
レオが不審に思った矢先だった。
少女の色香に惑わされたのか?
レオの真後ろにいた騎竜隊の隊長が声を上げた。
「おい、そこで何をやっている。ここは我が騎士団が通る」
そう言いながら彼は騎竜の頭を少女の方へ向ける。
「我々は人類に仇をなす
そう続けた途端、少女の瞳に鋭さが宿ったように見えた。
隊長はそのまま少女に近付こうと騎竜を進ませる。
「馬鹿っ、止めろ!」
すかさずレオは叫んだ。
次の瞬間、
ザシュッ
「ぐはあぁぁぁぁっ……!?」
太い触手のようなものが、隊長の腹を串刺しにしていた。
大量の血飛沫が辺りに飛び散る。
「うわぁぁぁぁっ……!?」
その光景を目の当たりにした騎竜兵達の間にどよめきが走る。
乗っていた騎竜が怯えて後退りした。
隊長を串刺しにした触手は少女の背中から伸びていたのだ。
それはまるで尻尾のようにも見える。
その尻尾はうざったいものを振り解くように、隊長の体を河原の地面に投げ捨てた。
屍が弾けると、少女は悪魔のような愉悦の笑みを浮かべる。
「……」
――馬鹿が……こんな場所で普通の人間がのうのうと水浴びをしているはずもないことは少し頭を使えば分かることだろうに……。
レオは河原に投げ出された隊長の屍に視線を置きながら嘆いた。
そしてその視線をそのまま少女に向ける。
――こいつ……魔族の中でも相当の手練れのように見えるが……。
まずは、あの尻尾に気をつけなければならない。
伸縮自在で、先端が鋭利になっている。
――どの程度までが攻撃の有効範囲かを見極める必要があるな。まあ、その為の手駒は充分にある。
「レオ」
ヒルダが側で呼びかけてくる。
その視線だけで意図は理解出来た。
「ああ頼む、お前の出番だ」
「了解っ」
今度は歯切れの良い返事だった。
彼女は騎竜から飛び降りると、背負っていた三つ叉の矛を抜く。
それがヒルダの勇者としての聖具だった。
彼女は矛を頭上で回し、唱える。
「呼び覚ませ、その魂。
彼女の周囲に放電現象のようなものが起こる。
そのまま矛先を地面へ突き刺した。
直後、稲妻のような光が地面を走り、転がっている隊長の骸に伝わる。
まるで爆発したように火花が散ると、その光の中からむっくりと起き上がる隊長の姿があった。
その腹に穿たれたはずの穴は無い。
「こ……これは? 俺は……確か……」
復活した本人は、自分の身に起こったことが未だ受け入れられず呆然としていた。
しかし、それ以上に魔族の少女は驚いた表情を見せていた。
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