第95話 闇の力
リリアは足元にあった魔法の鏡に自分の姿を映した。
「わわわっ!? もしや……私……ダークエルフに??」
変わり果てた姿に驚きを隠せない様子。
さすがにここまで大きく変わるとショックもでかいだろうなあ……なんて、心配していると……。
「やだ、カッコいい……」
小麦色の肌を見つめながら、うっとりしていた。
まさかの自画自賛!?
「私、こういうの憧れてたんですよねー。繰り出す全ての技の頭に〝ダークネス〟をくっつけちゃっても違和感無い、この感じ」
中二病か!
「それにしても、ここまで姿が変われば、もう誰も勇者リアだと分かりませんね。変装する手間が省けて良かったです。一生、フルプレートアーマーを着続けるのはちょっと……って思ってましたから」
それに関しては俺も同意。
仮面を付けるって手もあるけど、どのみち蒸れそうだし。
そこでリリアは含み笑う。
「くくく……新たに授かったこの闇の力で、ラデス帝国に目に物見せてくれるわ……くくく……」
「……」
性格までちょっとダークになったように感じるのは気のせいか?
そういえば、スキルはともかく、彼女の勇者としての力はどうなったのだろう?
闇落ちしたことで勇者らしい光の力は失われていそうだが……。
そんなことを思いながら床に落ちている聖弓に目を向けると――、
「あああぁぁっ!?」
「っえ!? ど、どどうしました??」
俺が急に大きな声を出したもんだから、リリアはびっくりして体を震わせた。
驚いた原因。
それは聖弓の姿にあった。
さっきまで輝かしい光を放っていたそれが、闇の力をまとった真っ黒な弓に変わり果てていたのだ。
「あーっ! 聖弓まで闇落ちして、魔弓になってるー!」
リリアは驚きというよりも喜びが勝ったような感じで、その弓を拾い上げた。
「おー……かっちょいいー」
彼女は魔弓を惚れ惚れするような目で確かめていた。
本当に魔弓になっちゃったのか?
それならそれで別にいいんだけど……。
と、そこで俺はもう一つの聖具のことを思い出す。
そういえば、俺も聖剣を持ってたな……。
なんとなく気になってコンソールを開いて確認してみる。
すると、
[魔剣シュネイル]
魔族専用武器。闇の力を刀身から放つ。切れ味はとても良い。
魔族以外が手にすると闇に侵蝕され、即死する。
こっちも変わってるーっ!
熟成するといいって書いてあったから放置してたけど……。
こういうことなのね。
でも、アイテムボックスの中って時が止まってるはずなんだけどなー。
なのに、熟成って……。
ま、いっか。
魔剣が手に入ったわけだし。
で、この魔剣どうしよっか……。
その使い道を考えていると、リリアが魔弓を手に何かやり始めていた。
「何をしてるんだ?」
「えっ? ああ、魔弓になったら上手く放てるような気がしてきたんで、試しに射ってみようかと」
彼女は前にやった時と同じように弦を引いた。
それで闇色の矢が装填される。
おおっ!? 今度は嫌な音がしないぞ?
リリアは壁掛け燭台に狙いをつけると、即座に矢を放った。
ヒュンと風切り音がして、燭台の火が消える。
「わ……真っ直ぐに飛んだ! やった、やりましたよ!」
彼女はその場で飛び跳ねて喜んだ。
光より闇の方が相性がいいのか?
それとも、俺が絡んだことによる魔王補正なのか?
どちらにせよ、使える戦力が更に増強されたので、こちらとしては嬉しい限りだ。
俺は嬉しそうにしている彼女に告げる。
「良かったね」
「え……」
彼女の表情が固まった。
「ん?」
「……」
なんだ? どうした急に……。
不思議に思っていると、リリアが怪訝そうに尋ねてくる。
「あのー……魔王様……しゃべり方がさっきまでと変わってません?」
「あ……」
そういえば、今は偽魔王の体を借りてしゃべってるんだった。
さっきまで魔王らしい威厳あるしゃべり方をしていたが、事が終わったので思わず、普段通りの口調が出てしまった。
でも、彼女を配下に引き入れた今では、もう隠す必要も無いだろう。
「えっと、今更なんだけど……この魔王、本当の魔王じゃないんだ」
「……へ?」
俺がそう告げると、リリアは狐につままれたような顔をした。
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