183.あえて逆らう



 ‟参加する必要は特に感じられない。

 オーフはゴブリンロードとの戦いでお前を庇って死ぬ『はず』だったが、

 予測とは大きくずれた形になる。

 この戦いは勝利が約束されているのだからリンカを連れて危険な地に赴く理由は無いはずだ”


 俺の問いにスラスラと文字が浮かび上がってくるが、内容について訝しむことが多い。

 オーフは死ぬはずだったのにというズレもそうだし、戦いは勝利が約束されている……予言や予測にしては曖昧というか『本の知っている歴史と違う』ような気がしてきた。

 

 ”予測や未来は不確定だからそういうものだ”


 「……それでもズレが大きいんじゃないか? それはどう説明する」


 いつもならだんまりになる質問をもう一度投げかけてみる。

 しばらく沈黙を守っていたのでダメかと思っていたが――

 

 ‟……本来進むべきアルフェンの人生というものがアカシックレコードに刻まれている。もちろん他に手に入れた者のこともだ。

 だがそれとて確実なものではなく本来失われるはずだったエリベールを助けたことでアルフェンの人生は大きく変わったのかもしれない。

 エリベール、誘拐事件、ツイアル国、ゴブリンロード……大まかな流れは同じだが、細部で違う。故に予測が予測ではなくなることがあるのだろう”


 ――存外、口達者に返してきた。


 言うに『少しのズレが大きくなっている』と伝えたいらしい。

 発端はエリベールの生死が一番大きいと確信している口ぶりだが、ツィアル国の騒動まではともかく、オーフにまで関係するだろうか?


 獣人兄弟とは会うのが確定のようだが、リンカは『ゴブリンロードの時点』でついてくる、もしくは俺が連れて行くと言いだすはずだったとか。

 エリベールが居なければ可愛い子を連れて行く、とお前は言いだしたはずだと突っ込まれた。

 いや、知らんけど……。


 とりあえずこのライクベルンに死ななかったオーフが居るという状況は予測できないようなので逆に言えば『勝てるかは未定』となり、オーフが死ぬ可能性もあるというわけ。

 

 見過ごすことはできるけど、オーフには世話になったし死なれるのも嫌だなと思う。ロレーナもあんな感じだけど唯一の肉親だし、それが居なくなったら喪失感は凄いとだろうしな。


 かと言ってみんなを引き連れて行くかと言われれば答えは難しい。

 ライクベルンとジャンクリィ王国の王都で戦士を募っているみたいだが、どうするかな……。


 ‟黒い剣士に備えるべきだ。

 ライクベルンの鉱石には武具に最適なものがあるから買い付けに行くのもいいのではないかな? 戦いに行くのはやめておくといい”


 「なんでだよ?」


 ‟良くない出会いがあると予測されている。リンカや祖母を危険な目に合わせたくはあるまい?”


 二言目にはリンカを引き合いに出してくるなこいつ。

 しかしどれくらいかかるか分からないけど、俺だけが遠征するなら問題はないんじゃないか?



 ◆ ◇ ◆


 「というわけでオーフとロレーナを追ってサンディラス国へ行ってみようと思うんだ」

 「ふむ、あの怪しげな本がそんなことを、か。あの男は本来死んでいて、ここには居ないはずなのに生き延び、さらにサンディラス国では勝利を収める……本当なのか?」

 「でもオーフさんが加入してどうなるか分からないんじゃない?」


 朝食の際に話を切り出してみると、爺さんとリンカが揃って不審な顔でそれぞれの意見を口にする。

 実際は未来の話なので本当にそうなるかどうかは蓋を開けてみるまで分からないと爺さんは言う。


 それを確かめる意味でも赴いた方がいいということと、あの二人になにかあったら困るということで行きたいと説得を続ける。


 「……ワシとしてもアルフェンがまた居なくなると考えれば許可はできんな」

 「むう」

 「そうね。その本が言う通り、別のことをしたらどうかしら? お城の騎士さん達も向かうでしょうし、気にかけてもらったらどう?」


 婆さんも止めとけと釘を刺してきたのでこれは難しいか……

 しかしそこでリンカが俺の助け舟へと入ってくれた。


 「私としてもお二人には世話になったから助けたいかな。おじい様が一緒なら安心な気がするわ」

 「しかしそうなると屋敷の守りが無くなってしまう。いざという時に対処できんでは意味がなかろう」

 「ふふふ……そこはおじい様の人脈を使ってお城に避難させてもらうというのはどう? 向こうのお屋敷でもいいけど、それでも不安は残るし」


 大胆な計画……!?

 あー、でもリンカは昔からそういうところがあったからなあ。使える物や者は最大限に使う主義。だから会社でも即戦力になっていたわけだし。


 「なるほど……陛下なら二人を引き受けてくれるか。メリーナ以外は通いだから三人、都合がつけばいいわけだ」

 「ええ、私も行く――」

 「リンカはダメよ、私とお留守番ね」


 リンカが抗議の声を上げるより早く、婆さんが窘めて彼女は渋々頷いていた。

 まあ、城なら問題ないだろうし砂塵族みたいなのと戦うのは俺だけで十分だ。


 それから陛下へ手紙を送り、良い返事がもらえたのがそれから四日。速達的な感じで出したが、往復はやはり時間がかかるな。


 そこから準備を始め、使用人たちにはしばらく暇があることと、給金に変わりはないんでゆっくり休んでくれと伝えた。もし月をまたぐようならイリーナに給金を配ってもらう形だ。


 あんまり使わないから働いてなくても金がある爺さんは正直すごい……。


 で、警護団で働くスチュアート達へも話をもっていくことに。


 「なるほど。まあこちらも一年、なにもなく平和でしたしここ数日でいきなりなにかが起こることもありますまい。この町はわたしめが守ります。それでもどうかお気をつけて」

 「うむ、呼びたてて置いてすまんな。また埋め合わせをさせてくれ」

 「友達のためなんだ、悪いね」

 「アル坊ちゃんの頼みとあれば私が行きたいところですがねえ。ここの仕事も結構忙しいんですよ」


 そういって俺を抱っこするスチュアート。

 ランク80はある槍使いの彼は頼もしいことこの上ないので、町の安全は問題ない。

 しかしそこで予想外の人間が口を開く。


 「なんだ、戦争か? そうなら俺も行きてえんだが、スチュアート仕事休んでいいか? 俺も連れて行けよアルフェン」

 「ディカルト……お前アル坊ちゃんに襲い掛かっておいたことがあるのにそれはないだろう」

 「いいじゃねえか。イーデルンの野郎とは縁を切ったんだしよ! なあ、爺さんからもなんか……げべ!?」

 「貴様、アルフェンに斬りかかっただと……? そこへなおれぇぇぇ!!」

 「さ、さすが『死神』……ぜひ手合わせを……」


 いいところに入ったようで、ディカルトはその場に崩れ落ちた。

 性根を鍛えなおしてやると、結局ディカルトも加わることになり、変な感じになりそうだ。まあいざというときは盾にしようと思う。

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