53.本は、誘う


 ――『ブック・オブ・アカシック』

 

 持ち主の知りたい情報を想い、ページを開くと浮かび上がる。

 眉唾な話だが、言われてみれば最初の数ページは魔法の基礎が記されていたが、しばらくめくると白紙になっていたのはそのせいかと思う。


 作ったヤツが慎重なのか、普通の本を偽装するように最初は埋められているのが面白いとも感じていた。


 さて、そんな怪しい本に選ばれた俺だがこの事実を知ったのはつい最近のことだ。

 魔法の応用や無詠唱などは本から得た知識を使っているが、それ以上いいことも悪いことも起きていない。


 そこで国王の『情報を俺に与えて本で知ることができるか?』という実験を提案された。

 興味深い話だと思う。

 俺は読めば情報が浮いてくるが、他の人間には扱えない。さらに言えば俺が拒否すればなんの役にも立たない本なのだから。


 そんな『ブック・オブ・アカシック』を隣国シェリシンダの女王の知りたいことに使ったのだが――


 ・エリベール=シルディ=ウトゥルンの家は【呪い】によって短命である。

 ・死期は10歳から30歳の間でいつ死ぬかは一族には分からない。

 

 「……呪い」

 「勘は当たったみたいだな。見ろ、続きが出るぞ」


 ・エリベールの死期は16歳

 ・【呪い】をかけたのはウトゥルン家の遠縁にあたる貴族‟ヴィクソン”家の祖先。

 

 「ヴィクソン家ですって!?」

 「遠縁、って書いてるな。知っているのか?」

 「もちろん。一族の会議では集まりますから。しかし叔父様にそんな素振りは……あ、いえ、とりあえず治し方、それは!?」


 ・治療法……【呪い】を解く方法は一つ。ツィアル国の宮廷魔術師の持つ‟梟の瞳”を破壊するしかない。

 

 「なんだと……?」

 「なんでツィアル国が出てくるんですか!?」


 ここで、ようやく解決方法が出てきたが内容は衝撃なもので、俺は訝しみエリベールは声を上げる。


 理由は……どうだ?


 「『ブック・オブ・アカシック』、どうしてツィアル国が出てくる? 100年も前の話だろう? 宮廷魔術師が生きているとも思えないんだけど」


 すると――


 ・ヴィクソン家はツィアル国に唆されて【呪い】をかけた。

 ・王が死ねば乗っ取れると考えたから。

 ・ツィアル国の狙いはイークベルン王国。

 ・宮廷魔術師はエルフで長命。


 <分かりやすいですねえ>


 あー、リグレットの言う通り簡単な図式で助かるわ。

 結局のところ、地位が欲しいヴィクソン家とイークベルン王国が欲しいツィアル国。

 ヴィクソン家が裏切って二国で攻めれば落とせると考えたのだろう。

 実に、分かりやすい。


 ただ、誤算があったのだろう、


 「エリベール、ヴィクソン家の家長は頭がいいのか?」

 「……いえ、態度は大きいですが小心者なので、例えば戦争を起こすようなことはしたがらないかと」

 

 エリベールは賢い。

 本の内容と俺の言いたいことが繋がったのか即答してくれた。

 

 だが、ヴィクソン家はここが好奇だと見ているのではないか?

 ツィアル国もだが、エリベールの父が死亡し、母親も床に伏せっている。

 残す血筋はエリベールだが、ここはランダムでいつ死ぬか分からない。

 

 恐らく、常に同じ年齢で死ぬ、という呪いだとすぐに怪しまれると思ったのかもしれない。だけどこの前の自爆テロの説明がつかない……


 そんなことを考えていると、エリベールが涙を流しながらぽつりと呟く。


 「……もう、ウトゥルン家は終わりね」

 「ん? どうしてだ、黒幕は分かったんだ後はこいつらを詰めるだけだろ」

 「ヴィクソン家はなんとかなるかもしれないわ。だけど、呪いの原因であるエルフはツィアル国にいるのよ?」

 「いや、本によればエリベールが亡くなるまでまだ四年ある。陛下にも相談してこの前のことと含めてツィアル国を糾弾するべきだろう」

 「でも……国家間の争いになるかもしれない……」


 沈むエリベールの気持ちは分かるが、命がかかっているし諦めるわけにはいかないだろう。俺はエリベールの頬を掴み、外側にひっぱる。


 「にゃ、にゃにを!?」

 「抗え。確かに状況は良くないが、お前は黙って死ぬつもりか? なにも分からない状態なら絶望だが、材料はそれなりにある。逆転できると思わないか?」

 「か、かもしえないけろ……」

 「ま、最悪子供を作って血を繋げればいいさ」


 安心させようと俺が冗談でそう言ってやると、顔を真っ赤にして俺を突き飛ばした。


 「も、もう! アルはなにを言い出すんですか!」

 「いてて……その調子だ、前向きに行こうぜ? それとお前の母親は……なんとかしてやれるかもしれないしな」

 「え?」

 「こっちの話だ、近いうちに連れて行ってくれるか?」

 「は、はい! もちろん大丈夫、です」


 先ほどまで沈んでいたが、少しはマシな顔になったな。


 「オッケー、なら今日はそろそろ遅いから帰るとするか」

 「あ、帰るんですね……」

 「双子がうるさいからな……」

 「ふふ、可愛いですよね二人とも」


 そんな話をしながら部屋を出ると、城の入り口まで見送ってくれた。

 重要な話が見れたが、これをどう説明するかだな。

 

 とりあえずエリベールがヴィクソン家を見て態度を変えないよう注意する必要がある。気づいていることがバレたら即日なにかの行動を起こすこともあるしな。


 「それにしても確かに使える本かもしれないな」


 あそこまで詳しく情報が出ると不気味さに拍車がかかるな。

 もう一度おさらいしておくかと本をめくってみると――


 ・エリベールには恩を売れ。できるだけ、高く。


 ――そんなことが書かれていた。


 「……どういうことだ? 助ける以上になにかするってことか?」


 それ以上はなにも表示されなかったのでそのままの意味だと思う。

 

 変な文章だと思いつつ、俺はゼルガイド父さん達に今日のことを話す。

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