54.危惧される日常
「……それが本当なら大問題どころの話じゃないな。俺達はあの国とはあまり関わりはないが……」
「そうだね。だけどエリベール様だけの問題じゃない、ツィアル国がこの国を狙っているのが明白になったんだから陛下にも協力を仰がないと」
「おかわりー!」
「ぼくもー!」
「はいはい、よく食べるねあんたたちは」
大好物のホワイトシチューに舌鼓を打つ双子をよそに、俺達は深刻な問題として先ほど『ブック・オブ・アカシック』から得た情報を吟味していた。
エリベールの母親を治療する以外、俺個人で出来ることは無い。
できることと言えば『ブック・オブ・アカシック』での情報提供だけだ。
そんなことを考えながらシチューを口にすると、カーネリア母さんが俺を見て口を開く。
「……アル、助かるけどあたしはあの本をあまり使わない方がいいような気がするんだ」
「どうしたの?」
「確かに有益な情報は代えがたい財産だよ。だけどそれを提供するアルはどんどん巻き込まれていくじゃないか。今回のことで知りたいと思う情報はアルを通せば調査できる。逆を言えばあんたが居ればたいていのことは解決できるってことでしょう?」
あー、それは確かに言う通りだ。
特に国王から頼まれたら、流石に両親といえど断りにくいだろう。
野心がある国王なら侵略の手伝いなどさせられそうだし。
……俺がこの国を旅立つのが難しくなることもあるか?
とりあえず今はカーネリア母さんの心配を払しょくしておくとしよう。
「ま、それはそれってことでいいんじゃないかな? もしロクでもない情報を欲しがった場合は誤魔化すようにするよ。俺を殺せば情報も手に入らないし、関係性としてはイーブンを保てるはずだよ」
「うーん、賢いアルだからなんとかできるだろうけど……」
「カーネリア、そこは俺達大人が守らないといけない。アルを戦場に連れて行きたくはないしな」
「ええ……そうね……」
「ふぐ……アルにいちゃ、しんじゃいやだお……」
いつの間に椅子から降りたのか、俺の袖を掴むルーナが居た。
「うわ、びっくりした!? ルーナ、ちゃんとお席で食べないと」
「ううう……」
「ははは、この前アルが血を流してからルーナはべったりだね。転んですりむいたりするから、あれが相当痛いってわかるのかもね」
「呑気なこと言ってないでよ」
「にいちゃ、ぼくのパンあげるー」
「はは、俺はあるから大丈夫だよルーク」
双子の頭を撫でてさらさらな金髪の感触を得ていると、二人とも目を細めてだらしなく笑う。
とまあ、そんな感じで夕食兼家族会議は進み、結論としては国王に委ねるしかないとゼルガイド父さんが言いお開きに。
風呂に入り、部屋に戻ってからリグレットと会話をする。
「……どう思う?」
<『ブック・オブ・アカシック』ですか? 私からはなんとも言えません>
「お前、俺のサポートだろ?」
<あくまでスキルのサポートです。……とはいえ、私はアル様の深層意識から生まれたものなので、思考実験は可能です>
「そうなのか? イルネースがつかわしたとかじゃないのか」
<はい。逆に言えばおおむね答えはアル様に沿う形にはなりやすいですね。現状ですと、情報提供はほどほどにしておいたほうがいいとは思います>
こいつの出自は微妙だったが、まさか俺の内側から生み出されていたとは。
まあ、選択の参考になればいいか。
「アルにいちゃ、一緒にねるー」
「わー!」
「こら、ノックしてから入れって言ってるだろ」
「んー。ごめんなさい」
反省していないルーナがベッドにダイブし、続けてルークが本をもって布団に乗る。
どうやら今日もなにか読んで欲しいらしい。俺はため息を吐きながら布団に入り、両脇の双子に物語を読み聞かせるのだった。
カーネリア母さんとゼルガイド父さんが不憫だ。可愛がっているけど。
そんな話の後、特に何かが起きるでもなく二日ほど過ぎた。
今日はミーア先生の授業で、勉学が進む。最初は国王の決定に渋い顔をしていたけど、今は普通に授業をやってくれている。
校長が居なくていいのかと聞いたところ、
「私の出番が来る時は殆どないから大丈夫。教諭は優秀なのでな。生徒の方が大変じゃ」
そう、俺達を見て口をへの字にしていた。
今日は二属性の魔法を組み合わせるやり方を教えてもらい、風と火を組み合わせた魔法の<ブリーズファイア>を使えるように。
座学はそれなりにやれているので、やはり新しい魔法を覚えるのが楽しい。
「くく……む、難しいじゃないか……」
「イワン、あまり難しく考えなくていいよ。詠唱は『微かな風よ、小さき火の力をのせて標的を巻き込め』だろ? 例えば手をこう、上から下に振り下ろすと風が起きるから、この風にファイアを飛ばすって感じ」
「ふむ……ああ、なるほど……だからこうして……」
「明日やれよ? 更衣室を火の海にしたくない」
あまり上手くいかずイライラしていたイワンにアドバイスをしてやる。
こいつが強くなるのはラッドにとってもいいことだしな。
ぶつぶつと手を広げているイワンを窘めていると、ラッドが声をかけてきた。
「そうだアル、父上がアルを呼んでいたから一緒に来てもらえるかい? ゼルガイド様は魔物討伐に出ているから、エリベール様と四人で会話になるけど」
「うーん、せめてカーネリア母さんが居て欲しいな」
子供だけで話すのは危険が高い。
いくらラッドの父親だと言っても言いくるめにかかるかもしれないのだ。
するとラッドは頭を掻きながら『そうだよね』と笑い、馬車を手配すると言ってくれた。
……話の内容はだいたいわかるが、ゼルガイド父さんが居ないところで話そうとするとは、焦っているのか?
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