55.思惑と思惑


 「アル、陛下とお話だって?」

 「うん、だけど俺だじゃ不安だからカーネリア母さんを呼んだんだ」

 「偉いよアルは。ゼルは討伐に出てるんだっけね」

 「そうそう」


 イワンと離れてから少し経ち、カーネリア母さんがバタバタとやって来た。

 この話はやはり寝耳に水だったようで、若干違和感を残しつつ俺の頭を撫でてくれる。


 「にいちゃだー!」

 「わーい!」

 「静かにね二人とも」

 「「はーい」」

 

 俺がそういうと両手で口を塞ぐ仕草をする双子が可愛い。

 足にしがみ付く二人も連れてそのままラッドと謁見の間……ではなく、応接室のような場所へ案内された。


 「来たか。おお……? カーネリアも一緒なのか?」

 「はい。アルがどうしてもと」

 「……まあ、問題は無いか。まあ座ってくれ」


 一瞬、まずいという感じの表情を見せたようだが、もしかして確信犯だったか?

 だとすればこの選択は正解だったということか。

 国王がいわゆるお誕生席の場所に座り、俺達家族とラッド、エリベールが対面に座ると、国王が話を始めた。


 「さて、アルよ。お前を呼んだのは他でもない、ゼルガイドとエリベール嬢から聞いたが、概ね黒幕が分かったそうだな」

 「はい。ツィアル国とヴィクソン家の共謀ではないかという情報は『ブック・オブ・アカシック』から得ることができました。この話は皆さんが集まってからすると思ったのですが……」


 俺は牽制の意味も込めて『なんで重要そうな話を子供だけにしているんだ』と遠回しに言っておく。内容については両親共に知っているけど、ツィアル国をどうこうって話になれば大人たちは必須だと思う。


 「うむ。ひとまずツィアル国については斥候を数人手配する予定だ。黒幕についてで呼んだわけではなくてな、エリベール嬢からの話でアルよ、ひとまずお前を連れて帰りたいとのこと。それについての了承を聞こうと思ってな」

 「あら、どうしたのアル? エリベール様と仲良くなったの?」

 「う、うーん、一緒に本を読んだだけだけど。なあ、エリベール?」

 「そうですね、けどお母さまを何とかしてくれると言ったじゃありませんか。わたくしはすぐに行動に移しますよ?」


……そういやエリベール16になるまで死なないと言うのは分かっているけど、母親の死期までは出ていなかったな。それでこの早さか。

 俺に授業はあまり必要ないし、双子のためにも小旅行としゃれ込んでもいいかもしれない。


 「わかりました。エリベールについて行きます」

 「アル! ありがとう!」

 

 ソファから降り、笑顔で俺の下へ近づいてきたエリベール。

 だが――


 「め! アルにいちゃはルーナのなの」

 「あら、おませさんですね」


 ルーナが俺にひっつき、いやいやと首を振る。なんだろう、取られると思ったのだろうか……2.5歳児がまさかなあ……


 「ほら、ルーナ。お姉さんにそんな顔しない。握手握手」

 「うー……」

 「ふふ、大丈夫ですよ。ルーナさんとは仲良くなりたいですね。ルーク君も」

 「あい!」

 「ルークはエリベールを気に入ったのみたいだけど……」


 元気よく手を上げるルークと威嚇するルーナに苦笑しつつ躾の一環として頬を引っ張ってやる。


 「いひゃいの!」

 「ごめんなさいは?」

 「……ごめなさい……」

 「はい、よくできました♪」


 エリベールが嬉しそうにルーナに手を振り、この場は収まる。

 そこでカーネリア母さんが口を開く。

 鋭い目を国王に向けながら。


 「アル一人で、ですか?」

 「う、うむ、まあそうだな。ゼルガイドは仕事、カーネリアは授業と子育てがあるだろうから、アルに話して後で二人に伝えてもらおうかと……」

 「そうですか。では、申し訳ありませんが、アル一人でというわけには――」


 おっと、過保護とは言わないけどこの流れは良くない。

 今後を考えて俺はカーネリア母さんを制止する。


 「大丈夫、俺一人で行ってくるよ」

 「でも……」

 「ちょっと行って来るだけだし、心配されるようなことは無いと思うしさ。ヴィクソン家はまだ俺達が気づいたとは思ってないし、ツィアル国もじゃないかな? 特にテロに失敗しているわけだし、しばらくは息を潜めていると思う」

 「うむ、アルの言う通りだ。シェリシンダ国はツィアルから遠い、ヴィクソン家に注意すればいいだろう」


 国王が深く頷き、カーネリア母さんが納得いかない顔になる。

 まあカーネリア母さんの気持ちはわかるけど、黒幕が分かっているんだ、そこに注意して行動すれば危ないこともないだろうと俺も思う。


 とりあえず基本方針は決まり、俺はエリベールと共にシェリシンダ国へと行くことになった。

 出発は早い方がいいと明朝発つ。


 さて、目的はともかく新しい国に行くのは結構楽しみだったりする。

 それにしても【呪い】か。

 遺伝子……そう、遺伝子レベルで寿命を削ることなどできるものなのだろうか……?

 『ブック・オブ・アカシック』で調べてみるか?



 ◆ ◇ ◆


 「ふう……カーネリアが来た時は焦ったな。ラッド、お前いらんことをするでない」

 「はは、でもアルだけに話をしてもすぐに返事はくれなかったと思いますよ父上。アルは相当賢いです。下手をすると、エリベール様と結婚させようという目論見がバレるかと」

 「……まあな。国に置いておきたくはない。だが、『ブック・オブ・アカシック』は使える。娘のフローレと結婚させても良かったが、やはり不幸の本は恐ろしいからな……」

 「なら国へ送り返すべきなのでは?」

 「……ライクベルンか。あそこへ行くには海からだが港はツィアル国でも南にある町からのみ。現状、こちらか向かうのは商人以外危ないからな」

 「あー、アルが手紙を送って返ってこなかったと言ってましたね、関係が?」

 「恐らくな。まあ、どちらにしてもアルはこの大陸から出るのは難しい。留めておくのもそう悪いことではないはずだ――」

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