36.ラッド王子
妖怪の類かと思ったらラッド王子だった。
なにを言っているか分からないと思うけど、そういうことだ。
「やっと見つけたよアル! どの教室を見ても居ないから先生に聞いて来たんだ」
「流石にびっくりしましたよ……」
「あはは! 敬語なんていいよ、僕達は友達じゃないか」
「え?」
「え?」
いつ友達になったのだろう?
俺はラッド王子と会ってから今までのことを思い出すが――
「いや、ちょっと話しただけじゃないか!?」
「お互い名乗ったじゃない? だから友達だ!」
「ええー……」
「ふふ……」
まずい、この王子頭の中がお花畑だ。
俺の手を握って目を輝やかせるラッド王子に俺はあからさまに嫌な顔を向ける。
ミーア先生が教諭用の机で静かに俺達のやり取りを聞いて苦笑する。
とりあえず俺の嫌な顔に空気を読む様子も、気にした風もないので俺は聞いてみることにした。
「俺を探していたみたいだけど、なにか用かい?」
「うん、入学式の時、一人だけ凄い魔法を使っていたからね! 話をしたいと思って探していたんだよ。僕も結構頑張ったつもりだけど、まさか『ハイクラス』まで使える子が居ると思わなかった! 凄いねえ!」
「あ、ああ……」
<ふふ、可愛いお子さんです>
本当に凄いと思っていたようで、力強く、そして鼻息を荒くして真っすぐ俺を見る。
眩しい笑顔で、子供らしいと言えばきっとその通り。
中身が年老いている俺が捻くれているだけなのだ。
「それにしても、あんなに凄いのにどうしてこんなところで一人授業を受けているのかな? アルなら僕と同じAクラスでも良さそうなのに」
「ラッド王子、世の中には変な性格の子も居るものなんですよ。アルはあの入学式で校長の私と取引をしたんです」
「取引ですか?」
訝しむラッド王子。
まあ、嘘では無いので俺から説明しよう。
「ああ、俺は魔法も剣も同い歳の子供より上手く扱える。勉強もかなりした。だから他の俺より下の子と一緒に居ても意味が無いと思って一人のクラスを頼み込んだんだ」
「アル……」
俺の言い草に呆れたような、それでいて悲し気な声で呟くミーア先生。
もちろんそこまでは思っていないが、このままラッド王子が友達だと言ってここに来るのは困るのであえて嫌な言い方をした。
友達すら必要ないと思っているのに、王子が来るとか勘弁して欲しい。三年間静かに修行だけさせて欲しいのだ。
これだけ言えば引くだろう。
なんせ、俺以外のやつは雑魚だと言っているようなものだからな。いくらラッド王子がお花畑でも理解してくれるはず……
「……そっか」
「そうだ。ほら、俺みたいなのに関わらないでクラスに戻りなって。ラッド王子は人懐っこいし、友達ならいくらでもできるよ」
「うん……僕決めたよ」
どうやら分かってくれたらしい。
決意の表情で頷くラッド王子に、俺も頷き返す。
すると――
「校長先生、僕もこのクラスで勉強します!」
「だな、それがいい……って、なんだってぇぇぇぇ!?」
ミーア先生に振り返って力強く言い放つラッド王子に俺は噴きだして叫んでしまう。しょ、正気か!?
「お、おい、ラッド王子……? 今、俺は他の子を貶したんだぞ……?」
「うん、それ、嘘だよね。だって、そう思っているならそんな苦しそうな顔はしないと思うよ?」
「……!」
そんな顔していたか?
俺は全然そんな意識が無かったので、そう言われて息を飲む。
するとさらにラッド王子は困った顔で俺に言う。
「……それに、一人は寂しいじゃないか」
「……」
――それは俺がいつか誰かに言った言葉だ。
あんな生き方をして来た俺。
その中で俺みたいになっちゃいけないやつをたくさん見てきた。戻れるヤツも多かった。
一人でいい、なんて言う奴も居るが、ホントはそんなことない。
できれば誰かと一緒に居たい。ただ、すれているだけ。だから俺は言ってやるのだ。
一人は寂しいだろ、と。
だけどまさか、生まれ変わった俺が言われることになるとは思わなかった。
「俺は――」
「というわけで僕もここで授業を受けますね! 友達と一緒がいいです! いいですよね先生!」
なにかを言いかけた俺にはお構いなしでミーア先生の前で力説するラッド王子。
俺がガクッとなっている中、先生は苦笑しながら口を開く。
「うーん、流石に王子を問題児と一緒にするわけにはいかないかねえ……」
「じゃあ担任の先生と父上が許可したらいいですか! 行きます!」
「え、それはちょっと……あ、待ちなさいラッド王子!」
満面の笑みで教室を出て行くラッド王子。
同時に授業を開始する鐘が鳴り響く。
「ねえ先生、ラッドの方がよほど問題児な気がするんだけど……」
「陛下に聞かれたら酷い目に合うから止めなさい。……私もそう思ったけど」
俺達は顔を見合わせながら、多分同じことを考えていたであろう。
「はあ……」
同時に、大きなため息を吐くのだった。
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