195.さりげない流れで
派手に魔物を倒しながら、結局は野宿を一泊するくらいには鈍足だった。
簡易コテージはロレーナに使ってもらい、ディカルトが夜這いをかけようとしたのを全力で阻止したりと連れてくるんじゃなかったと思いつつ、前線で戦わせてやった。
そんな行軍をしながらなんとかオファリャの町へ到着した俺達はサッと宿を取って一泊。
人が動き出す時間を見計らって情報を集めるため市場へ向かっていた。
「王様の顔を知っている人がいるかしらね?」
「どうだろうな。貴族ならなんだかんだで顔を合わせることがあるけど、平民だとパレードみたいなお祭りがないと見る機会が無い。王都なら確率は上がるけど、それでもって感じだよ。ギルディーラが似顔絵を用意してなかったら詰んでたんじゃないかな」
「画家に書かせたとか言ってたが、信憑性があるのかねえ?」
まあ、似顔絵自体は問題ないと本が言っていたしディカルトの疑念は解決している。そしてどこにいるのかも知っている。
後はそれらしい情報を得ることが出来れば……いや、ピンポイントで向かってもいいか? でもディカルトのは『ブック・オブ・アカシック』の存在を言ってないし、そうと知れたら変なことしでかしそうだから普通にやるか。
「すみませーん! こういう人見なかったですか?」
「いや、知らんねえ」
「悪ぃな爺さん、知らねえかこういう顔」
「あー? なんだって?」
「知らねえかって聞いてんだよ、この似顔絵のヤツ!」
「婆さんは昔からかわいくてのう……」
「くそ……!?」
市場は適当に聞き込み、後はギルドがいいかと突撃。
その中には顔を知っている者も居たが、不審者扱いされたのが困った。
「陛下の似顔絵なんて持ってどうする気だ?」
「いやあ、探してるんだ。なんか行方不明らしいけど、知らない?」
「マジか? だったらギルドに捜索依頼が来てもおかしくねえだろうが。ちょっと話を聞かせろや」
「お、なんだ? 喧嘩腰かよ、拳で分からせるかアルフェン? おが!?」
いかついおっさん達を笑いながら威嚇するディカルトの両頬を俺とロレーナが殴って挟んでやり、話を続ける。
「国王が変わったのは知ってるだろ?」
「まあな。だが先王が居なくなった話は聞いていない。どこから出た話だ?」
「今、城で雇われている『魔神』ギルディーラからよ。私達は別の国の人間だけど、先王様に用があって来たの。だけど、居ないから探してるのよ」
ロレーナがさらっと無理のない話を通すと、冒険者やギルドの受付が唸る。知らされていないことについて半信半疑のようだ。
「まあ、知らないならいいよ。他の町を当たってみるし」
「よくわからんが、こっちでも調べておくか……」
「あ、そうだ。小耳に挟んだことがあるんだけど、水神様って知ってる?」
「ん? ああ、おとぎ話で聞いたことがあるな。その昔、ここら一帯を荒らしまわっていたっていう邪竜だったらしいぞ。封印されたとされるジェンリャン渓谷がそうらしくて、神殿がある。小さい子のおねしょが治らない親が連れて行って祈願するんだよな」
冒険者が俺を見て『おねしょ治してもらえよ』とか言ったので膝を蹴ってやった。
なるほど、先代はこの干上がった状況を見て雨ごいでもしようって思ってたりして?
「……ま、いい大人がそりゃないか」
「とりあえずもう少し探してみる?」
「だな」
「見つかるのかねえホントに」
◆ ◇ ◆
「ダーハル様、子供と女、それと戦士のような男の三人が‟死神”と別行動を取ったようです」
「へえ、よく分かったね?」
「……恐れながら、ギルディーラ様が夜分、外に出られておりましたので後を」
ダーハルはその言葉に口元を歪め、手にしたグラスを飲み干す。
少し考えた後、部下に指を向けてから口を開いた。
「なにかを企んでいる、ということか。……いや、まあ父のことだろうな」
「いかがいたしましょう? 差し向けますか」
「……監視役だけつけておこう。見つけてくれたら私としても好都合だ、聞きたいこともあるし」
「承知しました。もう一つ、進軍はバルケン殿が渋っておりますが……」
「7日で準備するよう伝えてくれ。‟死神”に刺客は?」
「ギルディーラ殿と数人を」
「良い。では頼んだぞ」
ダーハルが下がるよう指示を出すと、部下は頭を下げて謁見の間を出て行く。
自室へ戻ると、机の上にあった手紙を手にして複雑な表情を見せる。
「……いきなり私に王位を継承して失踪とはどういうことだ父上……『お前は心配せずバルケンと協力して国を運営しろ』。帰ってくるつもりが無く逃げた男が言うことか!」
激高して机を叩くダーハルの目には涙。
いきなり国を任されてできることなど多くはなく、引継ぎのようなものを少し残された程度であった。
資源の枯渇、砂漠化……それらを鑑みての侵略。
「私に任せるというならやってやる……国が潰れても文句を言うなよ――」
もはやこれしかない。
『魔神』がここに来たのは僥倖だった。実際に自分も行方が分からないのだ、捜索させてもいいし戦争で使うのも悪くない……。
七日――
戦争開始までの秒読みが始まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます