61.作戦開始
「うう……ごほっごほ……」
「ディアンネス様、あの、普通にしていただいて大丈夫ですから……」
「あらそう?」
と、ベッドでわざとらしい咳をするディアンネス様を窘める俺。
やらなければならないことを整理し、エリベールとディアンネス様と話をし、今後の指針を決定していた。
結果として欲しいのは【呪い】を解くこと。
そのために必要なことはヴィクソン家をさりげなくツィアル国の宮廷魔術師と繋がりがあることの証拠を取ること。
そのための下準備としてディアンネス様はまだ床に伏せって貰わないといけない。
……後、不本意だがもう一つの策を使う。
「……本当に俺を結婚相手として紹介するのか?」
「ええ! 私ももう二、三年すれば子を産めます。アルは二つ年下ですが、相手としては十分でしょう」
「まあ、それはそうだけどさ」
<なにか不満でも?>
リグレットが面白そうな声色で言ってくるが、問題は山積みだ。
結婚相手ともなれば今後『イークンベル騎士団長の息子』がピックアップされるだろう。
ツィアル国が警戒するのではという懸念。
それとなし崩しに囲い込まれる可能性だ。
学校卒業……とは言ってももはや形骸化しているが、それ以降は俺の気持ち一つでライクベルンへ戻るために行動を開始しなければならない。
婚約者が居なくなった、となればエリベールたちの立場が無い気もする。
だから紹介するのは……と思ったのだが。
「大丈夫よ、アルはゼルガイド様のご子息だし、出自が分かっているから逃げられないでしょ?」
とのこと。
うーん、エリベールには伝わらなかった。
「いや、俺はライクベルンへ帰るし、偽装婚約なら他の人の方がいいと思うんだけど」
「ええー……アルは私を見捨てないわよね……?」
「う……」
その顔はずるい……
とはいえ、この地に骨を埋めるわけにはいかないので、なんとか説得しなければならない。というか俺と結婚したいと思わないだろうし。
「と、とりあえず、フォランベル家とビキリ家はいい人そうだったな」
「フォランベルはお母様の妹、私の叔母が嫁いだ家ですしね。ビキリ家は今の領地運営だけで手いっぱいというのもありますけど、ご家族仲が良く満足していますからね」
「なるほどね。それにしても200年もよく続けているな……ツィアル国もアテにしているとは思えないんだけど」
「それは……そうですね」
エルフにとって200年はそれほど長い時間ではないけど、人間にとっては三世代は王が交代するほどの時間だ。
もし宮廷魔術師がツィアル国のためにシェリシンダ国を狙っているなら、悠長とかそういうレベルの話ではないと考える。
「……考えても分からないか」
「なにがです?」
「いや、なんでも……って姫様が一般人にくっつきすぎだろ!? ウチの双子じゃあるまいし」
「ケチですねアルは」
「エリベール、もっと押さないと」
口を尖らせるエリベールを椅子に座らせていると、メイドが扉をノックしながら声をかけてきた。
「王女様、ヴィクソン家のご夫妻が見えられました」
「……っと、本命だ」
「そ、そうですわね」
「エリベールは黙ってニコニコしていればいい。後はディアンネス様と俺が口を合わせておく」
ディアンネス様が俺の言葉に頷き、メイドへ招き入れるように指示を出す。
不満気なエリベールをよそに、俺は緊張しながらその時を待つ。
「ご機嫌よう、ディアンネス王女」
「お加減はいかがですか?」
「ごほっごほっ……よく来てくれましたね、エドワウ、ミスミー」
「ああ、すみませんご無理をなさらず……。エリーも久しぶりですね」
「こんにちは、ミスミーさん」
ふむ、エドワウと呼ばれた男は茶髪で糸目をした、狐のような印象を受ける容姿だな。衣装は貴族らしく良い生地を使っているか。
奥さんのミスミーは優しそうな女性で『お嬢様』という言葉がよく似合うと思う。
緑の髪にたれ目がちな瞳。
おっとりしていると言えばそういうことだろう。
……ただ、注意しなければならないのはエドワウが婿養子。本家の娘はミスミーである。
故に、エリベールが警戒した顔をしているのだが、これはあまりよろしくない。
ちなみにエリーはエリベールの愛称だ。
「エリー、難しい顔をしているよ」
「ふえ!?」
「あら、そちらの可愛らしい坊やは?」
俺が後ろからエリベールの頬を引っ張ってやると、ミスミーが食いついて来た。
すぐにエリベールの横へ回ると、お辞儀をして自己紹介をする。
「初めましてミスミー様、エドワウ様。私はアル=フォーゲンバーグと言います」
「これはご丁寧に……というか、フォーゲンバーグだって?」
「イークンベルの騎士団長と同じ姓……?」
そこでエリベールが椅子から立ち上がり高らかに宣言する。
「そうです、彼は由緒正しきフォーゲンバーグ家のご子息。そしてわたくしの許嫁です!」
「まあ!」
「そ、それは本当かい!?」
……さて、驚いた顔をするのはミスミー。そして驚愕の声を上げたのはエドワウだが……エドワウの目は訝しむような感じだった。
二人とも『そうである』可能性が高いな。
では、演技を続けるとするか――
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