62.進退窮まる
エドワウとミスミー。
黒幕の一つであるヴィクソン家の夫妻が見舞いに来てからエリベールの爆弾発言。
まあ、動揺するのも無理はないのだが、傍目には祝福ムードを出している。
「おめでとうエリベール。これなら亡くなった陛下もお喜びになるよ」
「そうですわね。それに礼儀正しい立派な男の子、これは将来が楽しみですわね、ディアンネス様」
「ふふ、ありがとう二人とも。ごほっ! ごほお!」
「ああ、お体に障ります。ご無理をなさらないでください」
不自然に咳をするディアンネス様に俺は慌てて駆け寄り止めてくれと頼む。
演技が下手すぎる……
それはそれとして、そろそろエリベールが地雷を踏む頃合いか。
「でも、私不安です……。お父様の家系は代々短命、結婚する前に亡くなるのではないかと……なにかの【呪い】でしょうか……」
「……!」
「か、考えすぎですわよエリベール。もし亡くなるにしても、今まで子供のまま死んだ人はいないのでしょう? 子供を作ればアル様が引き継いでくれますわよ」
「……そうでしょうか? 気持ち悪くない、アル?」
目を潤ませて俺の袖を引くエリベールに胸がきゅっとなる。
演技……これは演技だ……
「大丈夫だよエリベール、お……僕はそんなことで嫌いになったりしない」
「ありがとう……成人したらすぐに結婚しましょうね」
「え? あ、ああ、うん……?」
なんで空いた手で親指を立ててディアンネス様に向けているのかな?
ディアンネス様もこっそり親指立てるの止めろ!?
「は、はは、仲がよろしくて結構ですね……」
「でしょう? 私の病気も結婚式まで持てばいいけどねえ……ほら、結婚さえしておけば国王はアル君になるから、継承でいざこざが起こらなくて済むでしょう?」
「あ、はい、そう……ですね……」
病気は呪いではないが、一応釘を刺しておくかと決めたセリフを言っておく。
国王の椅子が欲しいのだろうが、それをヴィクソン家が手に入るとは限らないことも示唆している。
……ちなみに、ディアンネス様とエリベールが亡くなった場合、王族を引き継ぐのはディアンネス様の妹が居るフォランベル家になると『ブック・オブ・アカシック』が教えてくれていたりする。
なんでそこは分かるんだよ! とツッコミを入れたが、ページは白紙のままだった。
年功序列ではないが、流石に近しい身内の家が継ぐのは当たり前だ。
ヴィクソン家がそれを分かっていないならアホだし、ツィアル国の宮廷魔術師がなにを考えているのかが謎ということになる。
「そ、それではわたくしたちはこれで……」
「あら、もう行くの? もう少しゆっくりして行けばいいのに」
「し、仕事の途中で抜け出してきたので……ほほほ、それではまた……」
二人はそう言ってそそくさと寝室を去って行った。
俺達はメイドさんを部屋から出してから三人でテーブルを囲む。
「……二人とも怪しかったね。これはちょっと押せば口を割りそうな気がする」
「口をってどうするの?」
「そうだな……『ブック・オブ・アカシック』を使えることを教えて【呪い】について突けば――」
俺がそう口にすると、ディアンネス様の顔が険しくなり、しばらく考えていたが首を振る。
「状況によってはダメね。アルが危険すぎるわ、あなた単独でヴィクソン家へ行こうとしてない?」
「い、いや、さすがにそれは――」
――あった。
後で追いかけて言ってやろうかなーとは少しだけ考えていた。
だけど、ディアンネス様の病気が治ったあたりで言うべきかと思い直したからここに座っている。
さて、今後どうするか?
このままだと俺は家に帰れないので、早いところ片付けたいことなんだよな。
「とりあえず、ディアンネス様の病気が治って、ヴィクソン家が王族になれないことを示唆した上で【呪い】について追及しましょう。俺の『ブック・オブ・アカシック』を使っても構わないし」
「アルが危険な目に合うのは嫌よ……?」
「大丈夫、フォーゲンバーグ家の息子だと言ったろ? 牽制の意味を込めているから手は出せないだろ」
「あ、確かに」
なら、どのタイミングで治療が完了したかを通達するかだが――
◆ ◇ ◆
――ヴィクソン家馬車内――
「……どういうことだ、エリベールにもう婚約者だと……」
「それに【呪い】のことを呟いていなかったかしら?」
「ああ……僕も聞いた。これは、まずいかな?」
「あなたが言っていた一族の秘密……ツィアル国の宮廷魔術師と繋がりがあることですか?」
ミスミーは当主になった際に聞いた話をエドワウへ問う。
すると彼は首を振りながら口を開く。
「ああ……このことが知られたらヤツにさらに有利を与えることになる……。なんとかしたいが……」
「向こうにこちらの様子が伝わっているわけではないのでしょう? ディアンネス様に力添えを……」
「どこで見ているか分からない。現に先々代は進言しようとして死んだ」
「あれは発作だったと……」
「わかるもんか。主治医は原因不明だと言っていた。エリベールは不憫だが……僕達も【呪われている】ようなものだ……」
「あなた……」
冷や汗をかくエドワウの肩に手を置き、心配をするミスミー。
そこでエドワウが目を細めて呟く。
「……そういえばアルって子はイークンベルの騎士団長の息子だと言っていたな……あの方は結婚していなかったはずだぞ」
「いえ、離婚されたのでは?」
「そうだったか? どちらにしても年数が合わないような……」
「それよりも、エリベールが子供を産んだらまた王家は存続するわ、そっちの方がまずいんじゃないの?」
「……ああ。椅子を取れなかった人間は消すと宣言してきたからな……くそ、どうすればいいんだ……。いっそあの子かエリベールを亡き者にすれば――」
暗い瞳を見せるエドワウへミスミーが思い出したように口を開く。
「そういえばイークンベルのパーティに襲撃者があったらしいですわ、なにか関係があるかしら……?」
「ああ、そんな話もあったな。しかし、ツィアル国の刺客なら直接やるだろうか? そもそも回りくどいやり方をしているというのに」
エドワウがツィアル国の仕業ではないだろうと締めくくり、夫妻は自領地へ。
そして数日後、彼らは再び登城することになる――
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