63.パーティ開始


 「高らかに宣言しますからね?」

 「え、ええ……あくまでも『作戦のため』ですからね?」

 「……もちろんです」

 「なんで今、間があったんですか?」


 さて、今のはどういうやり取りかというと、ディアンネス様が完治したことを全領地の領主を集めてパーティを開くのと同時にエリベールの婚約発表ということらしい。

 盛大にやると言って聞かないんだけど、あくまで作戦のためなのでそこまで必要ないと思うんだよ。

 

 だけど、目の前に広がるパーティ会場はとんでもない規模だった。

 作戦なら仕方がない……。まあ、エリベールほど可愛い子と婚約というのは嘘でも見栄を張れるなと思うが。

 

 「それじゃ、着替えてきてねアル」

 「わかりましたよ。エリベールは?」

 「ふふ、今おめかし中よ。楽しみにね。それと、荒事は大人に任せて、あなたは戦う気満々みたいだけど、子供がやることじゃないわ」

 「はい」

 「意見はとても貴重だから話は聞かせてもらうけど」

 

 そう言ってディアンネス様はウインクをしながら立ち去っていく。


 <期待したいですね!>

 「簡単に言うな。ここからが本番だぞ」

 <そうですねえ……>


 パーティは先日の襲撃事件であまりいい気分はしないが、餌を撒くのは必要かと飲み込んだ。

 騎士や兵士にも襲撃事件の話はしてあるし、今回は火薬に対する手段も備えている。直接、ディアンネス様やエリベールを狙ってこない限り対抗可能だと思う。


 <動きますかね?>

 「動くなら話は早い。動かない場合の方が面倒じゃないかな?」


 犯人が容易に判明するからな。

 ここで動かなくてもディアンネス様が完治していることが分かればなにかしら反応は見せるはず。

 

 ……もし今世代を諦められたら打つ手がない。その時はヴィクソン家に乗り込むかとも考えている。

 そこまでするのかって? まあ、可愛い子をこのまま死なせるのは気が引ける。

 再婚すればまた子供が産まれるかもしれないけど、エリベールは彼女だけなのだ。



 「……さて、と」


 俺は着替えてから会場へ向かう。

 この数日で顔を覚えてくれ、今は給仕をしているメイド達の間を抜けて、来賓席へ。


 「アル!」

 「来た……よ……」

 「どうしたの?」

 「な、なんでもない!」


 首を傾げるエリベールから目を背けて俺は椅子に座る。

 びっくりした。

 それくらい、綺麗にドレスアップされていたのだ。女は化けると怜香がよく言っていたが、本当にその通りだと思う。

 そんな胸中を知ってか、エリベールは顔を赤くしてその場で回る。


 「ふふ、どう?」

 「ああ、うん、いいと思うよ」

 「え、それだけ!? ほら、もっとあ・る・で・しょ!?」

 「うぐぐ……」


 むう、なんかハッキリ言うのは気が引ける。

 俺の顔を自分に向けようと力を込めるエリベールに、後ろから声がかかる。


 「はっはっは、元気がいいね。ディアンネス様も君達に元気をもらったからかな?」

 「ボワージさん。今日ははるばるようこそ!」

 「そりゃあ女王様の快復パーティに来ない訳にはいかないだろう?」

 「その節はどうも」

 「うん、アル君もこんにちは」


 この人はフォランベル家のボワージさん。

 ディアンネス様の妹、ディアナさんの旦那で当主である。

 ちょっと恰幅がいいけど、優しい笑顔のおっさんと言ったところだ。

 先日のお見舞いで挨拶をしていたので顔見知りではある。


 「あら、今日はずいぶんおめかしですね」

 「叔母様! はい、特別な日ですもの、ねえ?」

 「……あ、いっぱい人が来たよエリベール、ディアンネス様も来られた」

 「もう!」

 「アル君は照れているのね」


 大人の女性は鋭い。

 俺がそそくさと離れていると、メイドさんに掴まれて元の位置に戻され、エリベールが隣に座る。


 そして――


 「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。わたくし、ディアンネス=イオネ=ウトゥルンの快復祝い。国王陛下が亡くなられて久しい今、この国の為に尽くしてくれと言っているような気がします。

 わたくしにも未熟な判断があるかもしれません。その時は𠮟咤激励をしていただけると幸いです」


 そこまで言ってから一度目を閉じ、ディアンネス様はもう一度口を開く。


 「このとおり、すっかり元気になりました。ご心配をおかけしましたが、もう安心です」


 直後、割れんばかりの拍手と声援が飛ぶ。

 各領地の責任者とお付の人間が集まるこの会場はまあまあ人が多い。

 俺は注意深く視線を巡らせ、ヴィクソン家の二人を見つける。


 (……少しぎこちない、か? 身体検査はしているはずだから武器は無いはず。というか仕掛けてくるとしたら自由に動き回れる時くらいか)

 

 俺の疑惑の胸中とは裏腹に、ディアンネス様は続けて話をする。

 エリベールと俺の婚約発表だ。


 「――というわけで、イークベルン王国の騎士団長の子であるアル=フォーゲンバーグとエリベールの婚約を認めました。これで子を成してくれればこの国も安泰でしょう」

 「いいですな!」

 「おめでとうございます、エリベール様!」

 

 「ありがとうございます! ほら、アルも!」

 「あ、ああ。あ、ありがとうございます!」


 祝福される中、俺とエリベールが席を立って挨拶をする。

 高い位置から下を見下ろす形なので、皆の様子がよく見える……ヴィクソン家のエドワウは笑顔を作りながらも、渋い顔に見えた。


 なにか起こるか、起こすか。

 もう少し様子を見てみるか――


 「おめでとうエリベール、アル殿頼みますぞ!」

 「アル君年下? いいわねえ」

 「こっち来て話しましょう!」


 ……というか、すごいな!?

 みんなを騙しているのは心苦しいが、これもエリベールのためだ。

 きっと許してくれるだろう。

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