202.水のある場所に棲む者


 「騒ぎがない……まだなにも起こっていないようだな」

 「急ごう、城へは私が先導させてもらう」


 王都の門が見えるくらい近くまで帰って来た俺達はまだ騒ぎが起こっている様子がなく、安堵する。

 ただ王都の真上に黒く渦巻く雲が不吉な予感を出しているのでダーハルが心配なマクシムスさんはラクダを早足にさせて前に出る。


 「なんでダーハルさんには真実を伝えなかったんですか?」

 「伝えてしまえば必ず私を探すと思ったからだ。黙って探すなと伝えておけば後は兵士長あたりとうまくやってくれると思っていた。……まさか戦争を起こすとは思わなかったが……」

 「逆かなって思いますよー。お父さんに見捨てられたって考えちゃって、どうしようどうしようと考えるけど答えが出ない。でも国は守らないといけないからどうにかしないと……そうだ侵略しよう! ってなったんだと思います」


 ロレーナが旅行会社のキャッチコピーみたいなことを言いながら説明し、俺もそれには賛同できると思った。

 水神とかち合って食われる可能性を考えれば置いて行ったことは分かるけど、まだ20歳いかないくらいだったし混乱したんじゃなかろうか。


 「むう……母親を早くに亡くして私も執政ばかりだったからな……それも良くなかったのだろう。教育係に任せていた節ことは否めない」

 「娘さんが大切ならもっと向き合ってあげればいいと思いますよ?」

 「そうだな……」


 ロレーナが珍しく真面目な口調でそんなことをいい俺はびっくりしていた。

 オーフもそうだけど捨てられた兄妹として思うところがあるのかもしれないな。

 そんな話をしながら街門まで到着すると、門番の兵士が目を見開いて口を開く。


 「へ、陛下!? お戻りになられたのですか!」

 「ああ、城へ戻る」

 「お通りください!! ダーハル様が戦争の準備を整えております!」

 

 敬礼をする兵士に片手を上げて返すと、マクシムスさんを先頭に町中へと入っていく。

 町は平和で問題も起きておらず、このままダーハルを逃がすなり隠すなりすれば俺達の目的は達せられる。


 そう思っていた矢先、黒く渦巻く雲から大量の雨が降り注いできた。


 「うわ!? いきなり土砂降りかよ!」

 「急すぎる、向こうは晴れているのにここだけってのはおかしい……! 急ごう!」

 「ちょ、なにあれ!?」


 ロレーナが叫んだ瞬間、町のあちこちから巨大な水柱が上がり、建物やひとをふきとばしていくのが見えた。


 「水神の仕業か!?」

 「どうやらそのようだぜ、水柱の中に影がみえらあ」

 「城に向かっている!?」


 傷だらけの水神が水柱から飛び出し、空中を漂う。

 全長15メートルはありそうな長い身体をくねらせてゆっくりと城へ向かっていた。


 「俺は魔法で牽制しながら進む、ロレーナとディカルトはダーハルを!」

 「オッケー!」

 「正面からぶった切ってやるぜ!」


 向かう先は同じだが俺は少し速度を下げてファイヤーボールなどの魔法を次々に撃つ。


 『ぐっ……!? もう追いついたのか小僧……! だが、その位置からでは間に合うまい!』

 「くっ!!」


 水神は体を伸ばして一気に城へ接近し外壁を突き破る。どこまで探知できるのか分からないが頭が見えなくなったのでトドメを刺しきれない。


 「中に行くしかない……! 戦争準備中なら兵士もいるだろ!」


 ラクダを操り、降りずにそのまま城の中へ駆けていく。

 水神の身体が城のあちこちを破壊しながら恐らくダーハルを探しているのだろう。


 「ディカルトたちは……」


 (チッ、邪魔くせえ)

 (さっさと斬っちゃってよ!)


 「上か!」


 空いた天井から声が聞こえてきたが、どうやら足止めを食らっているらしい。

 俺はラクダを乗り捨ててマチェットを抜き、階段を上っていく。

 胴体を真っ二つにできないかとも思ったが、床が崩れて安定しないため頭を狙った方が早そうだ。


 そして――


 ◆ ◇ ◆


 『く、くく……! 見つけたぞ、王族の娘!』

 「な、なに……!? ま、まさか水神、様……。実在していたなんて……」

 『光栄に思え、娘。貴様の血肉は我の傷を癒すのに使われるのだ。そして盟約を果たすのだ』

 「なに? なにを言っているんだ? 意味が分からない……! なにをしている、早くこいつを殺せ!」

 「ハッ!」

 

 水神はダーハルを捉えていた。

 念願の獲物を前に舌なめずりをしながら説明をしていると、ダーハルにより兵士達が水神へ攻撃を開始。


 『馬鹿め、人間が少し居たところで我を倒せると思うな!』

 「ぎゃぁぁぁ!?」

 「うおおお!? ダ、ダーハル様、お逃げください!」

 

 水神による一撃である者はかみ砕かれ、ある者は爪でズタズタに引き裂かれて絶命する。地底湖のように広い場所でないため簡単に攻撃を受けやすいのだ。


 「あ、ああ……」

 『さて、と。長い間待たされたからな、ゆっくり味わうとしよう……』

 「あ、いや!? た、助けて!? パパ! パパぁ!!」

 『諦めろ、ここにはもう――ぬ!?』


 爪でダーハルをつまんでいたが、攻撃を受けて取り落とす。

 そこには、


 「はあ……はあ……ぶ、無事か!」

 「パパ!!」

 「陛下、お下がりください! ここは我等が引き受けます!」


 マクシムスとベッカードたち近衛兵が居た。

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