201.不穏な空気
――サンディラス国境付近――
途中に置いてきた部隊を回収し、アルベール達ライクベルン一行は報告のため真っすぐに国境を目指していた。
「……アルフェン君を残して良かったのでしょうか……?」
「あいつは貴様より死線を潜り抜けてきておるし、この一年弱でワシ自ら鍛えている。まだ試験は受けていないが恐らくランク60はあるだろうな。お前は69だったか? すぐに追いつかれるぞ」
「あの年で60、ですか……」
イーデルンが冷や汗をかきながらアルベールの言葉に頬を引きつらせて呟く。
あれだけ大事にし、血眼で探していたのに置いて行ったことに違和感を感じていたが、ほぼ自分と同じランクであれば納得で、さらにアルフェンは魔法が得意という点もあると思いなおし首を振る。
「ディカルトは魔法が下手だが剣の腕は立つし、バランス的にはちょうどよかろう。さて、追撃は無し。ライクベルンへ戻るとするか……む?」
山の麓にある国境に差し掛かった時、背後で気配を感じたアルベールが振り返る。
すると『魔神』ギルディーラが追いついていた。
「……貴殿が追手か?」
「そういうことだ。とりあえずアルフェンは先王のマクシムス探索に出てもらった、後は戦争までに見つかればというところだな」
「加担する必要もあるまい。貴殿ならあの若き王を制圧してしまえば良かろうに」
アルベールがそう口にすると、ギルディーラは王都の方へ視線を向けてから話し出す。
「ダーハルから依頼を受けているからそこは外せんのだ。マクシムスさえ見つかれば後はどうにかなる。……それに、あの子も私利私欲で戦争をしようとしているわけではないしな」
「二国を相手に勝てると思っているのか?」
「無理だな。国力はそれなりにあるが練度の高い兵士が足りない。このままだと負けるだろうな」
「ならなぜそんな負け戦を……。いや、まさか貴殿……」
アルベールがなにかを察し、眉を顰めて口を平こととした瞬間――
「な、なんだ……!?」
「地響き……?」
地面が強い揺れをおこし、馬達が興奮気味に鳴く。
「嫌な気配がするな……。む、曇って来たか」
「確かに胸騒ぎがしやがるな。とりあえず戦争の準備だけしておくよう頼むって話がしたかった。手はある、よろしくな」
「おい、待つのだギルディーラ!」
「頼んだぜ‟死神”のあんたになら頼める」
王都に暗雲が立ち込めている様子を見て踵を返すギルディーラの背に声をかけるが、アルベールの制止を聞かずに駆け出していく。
「どういうことでしょうか……?」
「少しは自分で考えぬかイーデルン。……あやつ、自分の首を差し出すつもりかもしれん」
「え!?」
「急ごう、陛下に報告せねばならんからな」
アルベールは国境を越え、再び険しい山へと向かった――
◆ ◇ ◆
地下水路から脱出して一日が経過した。ここから調査していた町へ戻るより王都の方が早いため直進しているのだが――
「草木が枯れている……」
「さっきの今って感じだな。水神を倒さないと被害が増えるぞ」
「こんな急激に枯れるもんなの?」
ロレーナが顔を顰めるが、『ブック・オブ・アカシック』が言うように龍脈をヤツが抑えていたらあり得ない話じゃない。
いわゆる気の流れがある場所で、そこの吹き出し口「龍穴」に棲む一族は繁栄の一途をたどると言われているもの。
おとぎ話のような話だが向こうの世界の風水では割と信じられている。
概ね出口に注目されるけど、その導線である龍脈にも力があって然るべきで、恐らくあいつの力の源であると同時に移動手段、果てはこの国の生殺与奪を握っていると言えるだろう。
逆を返せばヤツを倒すことによりこの国が豊かになる可能性が十分にある。
恩を売っておく意味でも倒しておくのが一番いい。
「水のあるところを枯らしているんだと思うよ。栄養も根こそぎって感じで。早く倒さないと残った水と草木が根絶やしになる」
「しかし、どこに出てくるかは分からないのではないか?」
「……いや、恐らく水のある場所ならどこにでも出れるんじゃないかと思う。目的はダーハルとハッキリ言っていたし、王都に姿を現すはずだ」
城の中に居れば概ね問題ないと思うけど――
「なんだ? 地震かぁ?」
「大きい揺れだったな……」
「ラクダ君、冷静ね。って、あれ!」
「ん?」
ロレーナがラクダの首にしがみついた状態で空に指を向け、そちらに視線をやると、王都のあるあたりに真っ黒な雲が渦を巻いていた。
「なんだ、あの嫌な雲は……? どっちにしてもただ事じゃない、か。急ごう」
「おう! 次は必ずぶっ殺してやる!」
俺達はラクダの足を速めさせて王都へ向かう。
ここからだとまだ1日かかる。仮眠を取るとして……間に合うか?
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