200.交戦と不信感


 化けの皮が剥がれた水神へ一斉攻撃を仕掛ける俺達。

 強さとしては『英雄』の一歩手前ということなので、この人数で倒しきれるかどうかというところ。

 最悪、この場を逃れるためだけでもいいのでダメージを取っておきたい。


 「だぁりゃぁぁぁぁ!!」

 『小癪な! ぐ……!?』

 「敵はディカルトだけじゃないぞ! くらえ!」

 『馬鹿な、これほどたやすく我が体を斬るとは……! む」

 「顔を狙え!!」

 『小賢しいわ!』


 口からジェット噴射のような水流を吐き出してマクシムスさん達が吹き飛び、着弾と同時に水しぶきが上がる。

 直撃はしなかったが地面が切り裂かれているのを見る限り、触れたら骨ごと断たれそうな勢いだった。


 「ディカルト、吐き出した水に当たると死ぬぞ」

 「分かってるって! 邪魔な腕から斬り落としてやる」

 『させるか!』


 ディカルトの大剣を打ち払い爪で追い打ちをかけようとする水神の腕にアイシクルダガーを打ち込み、俺自身は水神の顎をマチェットで斬りつける。

 

 高さがあるので薄皮一枚。

 さらに全身を覆う体液が防御幕の役割を果たしているのでいまいち効果が分からないのが厄介だ。

 ならばと俺は懐に潜り込んで一番力の入る高さの胴体へ一撃を加える。


 『がああああああ!?』

 「手ごたえあり……! どわ!?」

 

 肉にまで刃が達し、血飛沫が上がる。

 慌てて返り血を浴びないように避けた後、傷口へファイアランスを叩き込んでやると体をくねらせて俺とディカルトに体当たりを仕掛けてきた。


 「うお!?」

 「いってぇぇぇ!?」

 「アルフェン君、額から血が出てるよ!?」

 「回復魔法を使うから気にしなくていい! ロレーナ、気をつけろよ!」

 「オッケー!」


 血を舐めながら周囲を確認すると、マクシムスさん達がのたうち回る水神へ畳みかけているのが見えた。単独で戦うディカルトはヤツの爪をへし折っていて戦いに関しては真面目に強いとつい口笛を吹く。


 『お、のれ……!』

 「ぎゃあ!?」

 「うあああ!?」

 「ぬう!?」

 

 いい感じに攻めていたがやはり地力はあるか……!

 サンディラスの兵士たちが牙と水流で徐々に血まみれになり、ディカルトも笑顔だが傷だらけだ。

 俺は回復魔法を自分にかけてからロレーナに声をかける。


 「火薬の準備をしといてくれ、恐らく――」

 「……なるほどね。任されたわ」


 彼女は純粋な戦闘力だとリンカとあまり変わらないが火薬という特殊な武装により戦えていたりする。

 さて、正念場だとマクシムスさんを食らおうとした水神の顔にファイアランスを投げつけながら一気に間合いを詰める。

 

 『チッ、小僧……!!』

 「もらった!」

 『貴様から食われたいか!!』


 マクシムスさんを食べるため地面すれすれまで顔を下げていた水神が、滑るように地面をつたい、俺に向かってくる。

 それはそれで好都合だと真正面からマチェットを振る……のではなく、斜め前に移動する。


 こうすることで小回りの利かない頭の横へ回り込ことができ、そして――


 「うりゃあああ!」

 『ぐあああああああ!? 口が裂ける!?』

 「まだ終わりじゃないからな!」

 

 口の端から引き裂くように剣を入れた後、口の端を踏みつけて眼前へ。


 「うらぁ!」

 『ぎゃぁぁぁぁぁ!? 目をぉぉぉ!?』

 「トドメ!!」


 俺が眉間にマチェットを突き立てようとした瞬間、暴れられて一息のところで振り落とされ、血まみれの顔のまま水神はロレーナへ向かう。


 『女……貴様だけでも!』

 「っと、そうはいかないのよね。そんな大口を開けてたら危ないわよ?」

 『なん――』


 水神は最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。なぜなら口に投げ入れられた火薬とファイアの魔法により大爆発を起こしたからだ。

 

 『――!』

 「……っ奮発したなずいぶん……!?」

 「調合もちょっと違うからね! 後はお願い!」


 ロレーナはいつの間に移動したのか鉄格子扉がある場所の向こう側に立って手を振っていた。あそこなら首は入れないから安心だ。


 『お、のれ……貴様等、許さん……だが、ここは一度引かせてもらう……』

 「逃がすとでも思ってんのか?」

 『水の中までは追ってこれまい! サンディラスの王よ、貴様の娘は我が必ず食らってやる! 小僧共も必ず……! 必ずだ!!』

 「ディカルト止めろ!」

 「チッ、速ぇ!」


 ズルルルル……と、物凄い勢いで首を引っ込ませていく水神に、魔法をぶつけながら追う俺と、途中を切断しようとするディカルト。

 

 しかし――


 「くそ、あと一息だったのに!!」

 「しょうがねえ、ロレーナちゃんのアレを食らって気絶しなかったしな。あんだけ痛めつけてあの速さ……タフすぎるぜ」

 「くっ……」

 

 俺は地面を蹴った後、怪我をしたサンディラスの人達の傷を癒してからマクシムスさんに話しをする。


 「あいつの行方はだいたい分かっている。このまま王都へ戻ろう、出兵が始まる前にダーハルを止めないと。ベッカードさんにも追いつけると思う」

 「君は一体……?」

 「いいから行こう、もうこの地底湖に戻ってくることはないはずだ」

 「う、うむ。皆の者、ご苦労だった、ベッカードを追って王都へ戻るぞ」


 それでいいと迅速な動きに小さく頷く。

 ロレーナとディカルトも準備をし、クリスタリオンの谷を後にする。


 『ブック・オブ・アカシック』の話では決戦は王都付近らしい。

 龍脈を通って水のある大地ならどこにでも出ることができるとのことだ。


 「……なあ、ロレーナにディカルト」

 「ん?」

 「なんでい」

 「二人は龍脈って知ってる?」

 「なにそれおいしいの?」

 「聞いたことねえなあ」

 「そっか」

 「「?」」


 二人は顔を見合わせて首を傾げていたが特にそれ以上ツッコまなかった。

 マクシムスさんに龍脈について聞いてみるもやはり知らないという回答だったので、そういうものだろう。


 「……」


 それについて気になることはあるが今はいい。

 この騒動が終わってからゆっくり考えるとするか。そう思いながらラクダを歩かせるのだった。

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