199.神なんて大層なもんじゃない
「こいつが……!」
「でけぇな、倒しがいがありそうなヤツが出てきたぜ」
俺とディカルトがそれぞれ感想を口にする。
出ている頭だけで2メートルは越えているので全長となるとどれだけになるか想像もつかない。
代々娘を捧げる、みたいなことを言っていたがどういうことだ?
しかし俺の疑問はマクシムスさんの言葉で回答を得ることになる。
「我が先祖が交わした盟約を忘れたわけではありません。が、幾度か子が誕生しましたが王族には男しか生まれておりません。それに他の娘を生贄にするのは王として許されぬこと、申し訳ありませぬが盟約は破棄していただきたい。そのためにここへ来た次第……納得がいかぬのであれば私を食らって溜飲を下げていただければ――」
この人、どうやら水神に契約の解除を申し入れにここまで来たらしい。しかも生きて帰るつもりもない、か。
『くく……それでこの大地はどうなる? 我が恩恵を受けねば干からび、民が死ぬぞ? 生贄の無い状態で我も力を発揮できんのでな。すでに影響は出ているはずだが』
「……その時は運命だったと諦めるのみ。この大地を捨て、他国に頭を下げて移住を提案すればよいだけの話。国が民を作るのではない、民が国を作るのだから」
『愚かな。貴様、自分の娘が惜しいからと反故にしたいだけだろう?』
「私には娘など――」
『ダーハルといったか? 生娘が居るではないか……我と契約をして逃れられると思っているのか? 貴様等の動向など全てお見通しよ』
水神の目がニタリと歪み、マクシムスさんの顔が歪み冷や汗を流す。ダーハルって……あのダーハルが女!?
「あの人って女性だったの!?」
「そうだ……今までは本当に男子しか生まれていなかったから先代、先々代は生贄を孤児や奴隷から選出して与えていた。だが、私の代で……生まれてしまったのだ」
『待ちわびたからなあ、ぜひとも王族を食わねば。そうだな、貴様の娘で最後にしてやろう、それで盟約を破棄してやる』
「断る……! 娘を守るためにここまで来たのだ! ベッカードは戻ってダーハルに戦争ではなく和解の道で解決するように伝えろ。ここにいる他国の方たちも証人だ。君たち、行きなさい」
「陛下だけでは無理です!」
ベッカードがもっともなことを口にするが、マクシムスさんはこいつを退治できる戦力を連れてこいと返答する。
だが、この状況でこいつが逃がしてくれるはずもなく――
『馬鹿め、この場で全員食い殺すまでよ! ちょうど女も居るしな、栄養をいただくとしようか!』
「あれ!? わたしのこと!?」
「ロレーナ以外に誰がいるのさ! とりあえず湖に近づかなければ攻撃もできないだろ、逃げるぞ!」
『逃がさんと言った!』
ロレーナの手を引いて鉄格子の向こうへ行こうと駆け出すが、激しい水音と共に首が地底湖から飛び出し、行く手を阻むように顔が目の前に来る。
「チッ、蛇みたいな体をしやがってよ。……ぐお!?」
「ディカルト!」
首に気を取られていたところに水神の拳がディカルトを吹き飛ばす。それでもまだ体の半分は地底湖の中にある。かなりでかいな……
『さあて、どいつから頂くか。女は最後として……まずは小汚い男からだな』
「ま、待ってくれ! 食われる前に聞きたいことがある! 最後の話をさせてくれないか?」
『ふん、なんだ? いいだろう、言ってみろ』
「アルフェン君?」
ロレーナの唇に人差し指を置いて口を封じると水神へ質問をする。
「水神様……あなたはこのサンディラス国を潤してくれる存在だったようですが……何故この干からびた大地を潤すことができるんですかね……?
生贄の見返りに水を与える。それは理にかなっています」
『そうだな。我が力があれば容易いこと……だが、それには生贄が必要なのだ』
「……なるほど、その力がどういうものか分からないけどお前は一つ嘘を吐いているな? この大地を枯らした張本人、それは水神、お前だな?」
『……!』
水神の目がピクリと動くのを見逃さなかった。
俺はロレーナの寝るコテージに押し込められた際、水神の正体について『ブック・オブ・アカシック』に問いていた。
その結果、こいつはわざと大地を干上がらせて催眠術で操った人間を使って自分の噂を流した。結果、マクシムスさんの先祖が逸れに縋ったというわけだ。
「こ、こいつの自作自演……だと!?」
「そうなんだよマクシムスさん。そしてダーハルを監視しているのは恐らく【呪い】。前にそういうことがあったから分かる。こいつは水神なんてタマじゃない、ただの狡猾な魔物だよ」
『小僧がなぜそれを……』
「それを教えてやる義理はない。さっき俺が『最後の話』と言ったんだが……なぜかわかるか?」
『聞いてやろう』
「……お前はここで朽ち果てるからだ! ディカルト! <ドラゴンブレス>!」
「おお!!」
俺は吹っ飛ばされたディカルトに声をかけ、俺は久しぶりに大技をぶっ放す。こいつは範囲が広すぎて対人戦だと確実に殺してしまう威力があるので、使い時としては今だ。
『ぐお……!? 強力な魔法を使うだと!? それにあの男、身体の中心を斬るか!』
「回り込んでいるのがアダになったな!」
『小僧ぉぉぉぉ!!』
マチェットによる斬撃が噛みつこうと伸ばして来た頭の鼻先に入り、怒りの絶叫を上げる。丁寧に立ち回れば勝てる。
「す、すごい子だ……か、勝てるかもしれん……ベッカード、我等も援護を! イーサンお前は外に出て救援を呼んでくるのだ!」
「は、はい!」
マクシムスさん達も我に返り、迎撃の態勢をとって攻撃を仕掛け始める。
さて、ここでトドメを刺せればいいんだが――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます