198.サンディラス国の真実
「いやあ、全然気づかなかった! ごめんね」
「いいよ、あの状況でよく寝られたよねとは思うけど」
「冷たい!?」
「胆力のある女だのう……それにしても三人でマクシムス様を探そうとするだけのことはある」
リーダー格の男、ベッカードが呆れた笑いをしながら肩を竦めながらそんなことを口にする。
あの激戦の後、ディカルトからロレーナのコテージに突っ込まれて仮眠を取らされたので元気だが当の本人は見張りをするため徹夜をしていたためあくびを繰り返していた。
俺も起きていていいと言ったんだけど、両方ダウンするのはマズイとの判断らしい。まだ信用したわけではないのでその判断は正しいが、ディカルトも戦力として必要なので交代で休ませたかったが進軍することを選んだ。
「ふあ……で、その先代の王はなにやってんだよ。国は戦争をおっぱじめるつもりなんだぜ?」
「……行けば分かる。戦争など取るに足らない危機のため、ジェンリャン渓谷に居る」
「危機……水神ってのと関係があるのかい?」
「知っているのか?」
「ダーハルが呟いていたからね。どうなんだい?」
俺が確かめるようにベッカードの目を見て尋ねると、彼はしっかりと見据えて返事をする。
「水神様は……存在する。おとぎ話では無かった、ということだな」
「マジで!? てことはなんかでかい魔物がいるってこと?」
「そうだ。これ以上はマクシムス様に聞いた方がいいだろう」
それ以上はなにもいわず、残りの仲間も難しい顔で口をつぐんでいた。
オアシスから半日、休憩を挟みつつジェンリャン渓谷へ到着する。
切り立った崖に、まばらに生えている草。
木はまるで立っておらず、なんかよくわからない動物の骨なんかが落ちまくっていて死の荒野って感じだった。
「こりゃすごいな、岩肌に太陽熱が当たって長時間居たら蒸し焼きになりそうだ……」
「こっちだ。洞窟があってそこにマクシムス様がいらっしゃる」
「オッケー」
彼らの後についてラクダを降りてついていくと、崖と崖の間に、物凄くわかりにくい洞窟があってそこにいるらしい。
「まっくら……」
「<ライティング>。これでいいだろ」
「む、助かるぞ坊主」
「いいから先に行ってくれ」
中は入り組んでいて戻るのは大変な感じがする……。
俺は咄嗟にダガーを取り出して分岐点などの要所にこっそり傷をつけていく。
いざ逃げ出す時に迷うのは勘弁だからな。
そうして進んでいくと、鉄格子がある場所へ到着。
ベッカードが開けて先に入り、少し天井が高くなった広場に出る。奥には地底湖らしきものがあり、その手前で祈るようなポーズをする男が膝をついていた。
「陛下、客人をお連れしました」
「ベッカードか。客、だと?」
男がどうやらマクシムスらしい。
俺達を紹介するため前を開けると、男は立ち上がってこちらを確認する。
「君達は……この国の者では無いようだが?」
「お初にお目にかかります。私はアルフェン=ゼグライト。ライクベルンの国に居を構える貴族の一人です」
「わたしはロレーナ、ジャンクリィ王国の使者になります」
「オレはアルフェン様の護衛ですぜ」
それぞれ自己紹介するとやはり分からないといった感じで口を開く。
まあそれはこっちも同じことなんだが。
「ライクベルンとジャンクリィだって? なぜ私を探す?」
「いや、あなたが失踪してダーハル様が私達の国に戦争を仕掛けようとしているんですよ。で、ギルディーラに頼まれて捜索して欲しいということでここにきました」
「戦争……!? なぜそんな……いや、そうかあいつならやるか……」
「どうして黙って出てきたんです?」
ロレーナがもっともなことを質問すると、マクシムスさんは渋い顔をする。
しばらくだんまりだったが、ため息を吐きながら真相を語った。
「……私の一族は昔、それこそ恐怖政治を敷いていた先代よりもさらに昔からずっと王族として君臨していた。そうなった経緯は水神様と関りがあってな、当時も荒廃していた土地だったが、見かねた私の先祖が生贄を水神様に捧げて土地を潤したのだ」
――それから水が豊富にあふれるようになり、川沿いでない地域でも木が生え荒野ではなくなったらしい。砂塵族は潤い、土地も広いので繁栄することに。
……だが、その風習も段々と薄れ、生贄を捧げることも無くなってしまったところで水神様が怒り、水を止めてしまいまた荒野へ。
それでもまだ問題は無かったのだが、ここ最近とみに荒野化が進み原因は間違いなくここだろうということで信頼できる人間を引き連れてここにいるらしい。
「生贄なんてまた古臭い風習を……」
「私もそう思う。おとぎ話かと思っていたが、どうやら真実だったようで、この数年、水神様が夢に出てきて生贄を捧げろと出てきたのだ」
「それじゃあその地底湖に――」
と、ロレーナが口にしたところで異様な気配が場を包む。
水面が静かに震え出し、やがて大きな波紋を作り出すと大きな水しぶきを上げてなにかが飛び出して来た。
『そうだ……代々、王族に娘が産まれた場合、我に寄こすという盟約……久しく絶えていたがもう我慢ならぬ。守れぬというならこの大地を干上がらせてやろうではないか』
それは蛇というにはでかく、顔の付近にはヒレがあり、物語に出てくる竜のような面をした……水神だった。
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