197.様子見してる場合かな?


 「<ファイヤーボール>!」

 「でかい!?」


 威嚇のため足元に放った火球避けるため不審者左右に散る。二人と三人のグループならディカルトと二人でなんとかなるか?

 

 「チッ、見た目に惑わされるな、強力な魔法使いだ」

 「しかしこちらは五人……仕掛けますぞ」

 「お褒め頂きありがとうってね! 三人任せていいかディカルト」

 

 子供だと思って甘く見なかった男が恐らくリーダー格だな。数も二人組の方だし、俺がそいつをロックオンしてディカルトに声をかける。


 「もちろんだぜ! 多い方をくれるとは流石だぜアル!」

 「こいつ……!?」

 

 喋り終わる前に間合いを詰めながら大剣を振るうディカルトを前にし、男たちに動揺が見られる。襲撃したつもりがまさか先制されるとは思っていなかったのだろう。

  

 「殺すなよディカルト」

 「おう! でりゃぁ!」

 「一人で突っ込んでくるとはな、囲むぞ」


 さて、あっちは任せてもいいだろう。あいつはホント腕だけは立つし。

 そんなことを考えながら俺は収納魔法からマチェットを取り出してリーダー格を庇うように立つ男へ斬りかかる。


 「今、どこから……!? チィ!」

 「残念、その武器じゃこいつは止められないよ」

 「馬鹿な!?」


 片刃でシャムシールのような湾曲した剣を両手で持ち、俺の一撃を受け止めようとしたが残念ながら真っ二つになり剣としての役割を果たせなくなった。

 驚愕する男の胸元に左手を向けて魔法を放つ――


 「恐ろしい小僧め……!」

 「ストーキングしてきたあんた達には言われたくないけどな!」


 ――ことはできず、リーダー格の男が振ったダガーを避ける俺。


 剣を失った男に蹴りを入れて距離を取ると、そのままリーダー格へアイシクルダガーを肩と太ももに投げつけた。


 「フッ……!」


 だが、踏ん張りの聞きにくいはずの砂地を蹴って俺の斜め前まで移動。

 そこから姿勢を低くしてダガーを刺してくる。


 「足場の悪い砂地でよく動く」

 「それはこちらのセリフだ。戦い慣れているな小僧……!」

 「実戦経験は豊富なんでね」


 ダガーを潰すためマチェットで集中的に狙う。

 短期決戦なら相手の攻撃力を低下させるのが一番効率がいいという爺さんの教えだ。

しかし、リーダー格の男は先ほどの武器破壊を見ていたため、打ち合いには応じず、避けながら小回りが利く特性を活かした立ち回りで俺の肩や腕を攻めてきた。


 「防戦一方か? 観念したらどうだ」

 「っと、それをするにはまだ早いな!」

 「なんと!? ぐお……!?」


 俺はなにも唱えずにファイヤーボールを足元に撃ち出して爆発させた。

 最初に言葉を発したのは、無詠唱が出来ることを悟らせないためで、見事に引っかかってくれた。


 砂埃と砕けた石がリーダー格の身体に巻き上がる。

 目潰し効果もあるが、そこは砂漠の民らしく慣れた動きでダガーを俺の方へ突いてきた。


 「やりおるわ小僧! だが、貴様とてこの視界では見えまい」

 「……」


 わざわざ喋って位置を教える必要もないと、黙ったままさらに魔法を使う。

 その瞬間、リーダー格の男が水の泡の中へとすっぽり収まった。


 「これは……!」


 自身で生み出していないアクアフォームは一瞬の拘束ができる。力技で破れるけど意表を突くにはちょうどいい。


 「ガキが、調子に乗って!」

 「そうやって舐めているからこういうことになるんだよ!」


 背後から襲ってきた男には気づいていたので、振り返って型通りの動きで左肩と脇腹を切り裂いてやる。徒手空拳が使えたとしても剣を持った相手に突っ込んでくるのは無謀だ。だからこそ舐めていると判断したしな。

 俺はぶっ倒れた男の腹を踏みつけてから首筋に剣を当ててリーダー格の男に向き直る。


 「イーサン!?」

 「どうする? あっちの仲間に戦闘を止めさせるか、こいつが死ぬか。あんたが選べ」

 「ぬう……! 機転が利く上に容赦なし、か。仕方あるまい、皆の者、剣を引けい!」


 その瞬間、ディカルトとやり合っていた男達は苦い顔で距離を取って戦闘を停止。

 やや物足りぬとアホが口を開く。


 「いいところだったのに止めんのかよ?」

 「ディカルト、俺達の目的は殺しじゃないだろ。あんた達、サンディラス先代の王のことを知っているのか? そっちが思っていたように俺達はその人を探している」

 「なんのためにだ? 見たところ異国の者。マクシムス様に何の用がある?」


 リーダー格の男は目を細めて俺に尋ねてきた。隠しても仕方がないので、正直にここまでの経緯を説明すると、値踏みするように俺とディカルトを見比べる。


 「……ギルディーラ様が遣わせたとは……」

 「俺も手紙の一つでも貰っとくべきだったかと反省しているよ。まさか襲われるとは思わなかったし。というわけだけど、どこに居るか知らないか?」

 「ふん、この方角……分かっているんだろう?」

 「まあね。でも確証は欲しいじゃないか」


 俺が肩を竦めながら足元の男を回復魔法で治療してやると、リーダー格の男がニヤリと口元を歪めていう。


 「くっく……面白い小僧だ。ワシはベッカードという。戦争が起これば砂塵族は壊滅的被害が起きる。それは避けたい。しかしギルディーラ殿が来なかった理由はなぜだ?」

 「万が一の防波堤、だろうな。万が一ダーハルが隠していたら殺すかもしれないだろ」

 「なるほどな。良かろう、先代ところへ案内してやる」

 

 深夜の大立ち回り。

 意外とあっさりカタがついたのは罠か実力か……? まあ、行ってみればわかるかと、俺は空に浮かぶ月を見ながら一つクリアしたことに安堵していた。

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