246.雪原の亡国へ


 「こりゃ凄いな……」

 『そうだろう、ここから先は蛮族たちも住む地。油断しているとすぐに死ぬことになるぞ』

 『構わん。相手がドラゴンだろうが蛮族だろうが倒すだけだ』

 「まったくだぜ! まさかラヴィーネ=アレルタ本人に地獄へ案内してもらえるとは思わなかったからな」

 「静かにしろ、この寒さでは体力がすぐに無くなるぞ」


 今はもぬけの殻になっているドラッツェル国への道。

 雪国ということで馬やラクダは途中の町にロレーナや母さんと一緒に置いてきた。

 俺達は途中で買ったトナカイに荷物をくくりつけて山を登っている途中だ。


 メンバーは俺、爺さん、ギルディーラ、ディカルト、オーフの五人にラヴィーネ。

 女性陣や双子はもちろん論外で、父さんや母さん、グラディスも来ると言い張ったが、子供が居る彼等になにかあった場合を考えて断わった。


 ……正直に言うと俺だけで来るつもりだったんだが、爺さんはリンカのため、オーフとディカルトは『あの時、死んでいたなら今更』とついてきた。

 ギルディーラは『魔神』の力は必要だろうと独り身であるという理由でこちらへ。

 感謝してもしきれないよな。


 「ふう……それにしてもイルネースはなんとかできるんだろうか?」

 『それについては問題ない、と聞いている。どうするのかまでは聞いていないが』

 「重要だと思うけどな……。それにしてもよくこっちへ遣わせてくれたな」

 『逝く前の最後の仕事というところだな。向こう側の『お前』がどれほどの強さかわからないが私を相手に一人で戦って無事に済むまい。それを見越しての私というわけだ』


 なるほど、そういう話ならイルネースもわざわざ死者を遣わすあたり本気度が伺える。

 後、気になるのは向こうへ行ってリンカを助けたとしてこっちへ戻って来れるのかどうか。まあ、今それを考えても仕方が無いか。


 「それにしても過酷な道だな」

 『私のような者が住むには丁度いいだろう。人間を滅ぼすための【呪い】の研究なども捗っていたな』

 「やっぱりお前が作ってたのか……」

 『そうだな。ドラゴンから抽出したエキスで疑似ドラゴンになれる薬や人がある一定成長すると死んでしまうなど効果は様々だが』

 「全部お前のせいか!」

 『ぐあ!?』


 思い当たるものばかりを口にするラヴィーネの背中をはたく。

 鎧はよく見ると肌が見えているところが多く、その隙間をがあるのに寒くないのだろうかと思いながら空いた背中をさするラヴィーネへ尋ねる。


 『もう死んでいるからだろう。暑いとか寒いという概念はすでに無いな、生きていたころはコートなどを着込んでいたぞ』

 「この際、便利だよな。それにしてもアル様の未来が荒んでいるとは信じられねえな」

 「でも、実際『ブック・オブ・アカシック』が無ければそうなっていたと思うよ。特にエリベールの件は絶対に解決できなかったと思う」

 「そのあたりはアルフェンを止めるための口実を作ったと言えるだろうな」

 「どういうこと? あいつの言う通り俺に嫁をあてがってリンカを諦めさせるんじゃ?」

 「それもある。だが本質は『現時点までを助けた』という免罪を植え付けたかったのではないかと思う」


 ディカルトの言葉に爺さんが白い息を吐きながら答えていた。それにオーフも小さく頷きながら口を開く。


 「あー……友人や知り合いが助かったのは本のおかげだと考えればリンカちゃんを差し出すと思ったのかもしれんな」

 「オーフやディカルトが生き残っているのがいい証拠、か。真相をペラペラと話したことに違和感があったけど成果を認識させたかったんだろうな」


 確かにエリベールを助けることができたのは大きいし、助けてくれたオーフやディカルトがこうして一緒に居るのも奇妙な話だがいいことだと思う。

 

 「そういえばあっちのロレーナはどうなったんだろうな」

 「ディカルトも居ないし案外お前のそばにいたりして」

 「……オーフが死んだら俺が連れて行くかもしれないけど、ロレーナだよ?」

 「おう、アル様がウチの彼女に厳しい……」


 今はディカルトと幸せそうなのでそんな未来はもはやこっちには存在しない。

 そして雪山を登り途中で出てくるスノウドラゴンやよく分からない形をしたサルっぽい魔物を倒しながら雪山に入って三日のキャンプの末、ようやくその場所へ到着した。


 「……ここがお前の国」

 『ああ、ようこそドラッツェル国へ。……とはいえ、今はもう誰も居ない廃墟と変わらないがな』


 廃墟……とはいうが、山の上から見ている限りライクベルン王都に匹敵するほどの敷地が広がっていた。

 この雪山にこれだけの町を作り上げているのはかなり凄いと思う。

 城は比較的小さいものだったがそれでも水晶で出来ている柱や壁は女性らしさがあるなと思う。


 『君達には寒いか、暖を取ろう』

 「助かる。さて、ここからどうするのか……。イルネース! 到着したぞ!」

 「本当に把握してんのかねえ……?」


 謁見の間にある暖炉にラヴィーネが火を灯し、俺は天上に向かって声をかける。

 

 すると――


 『大丈夫、ちゃんと聞こえているよ。……別世界へ行くというのはリスクが高い。もしかしたら戻ってこれないかもしれないことは承知しておいてほしい』

 「やっぱりそう甘くは無いか」

 『そうだね。僕としては向こう側の『アルフェン』を討伐してくれれば言うことは無い』

 「おいおい、それじゃ俺達は捨て駒ってことか?」

 『悪いけど保証ができないからね。後からわかるより先に聞いておいた方が覚悟もできるだろう? 嫌なら行かなければいいだけの話さ』

 「その場合、神の願いである向こう側のアルフェンを倒せなくなりますが?」


 爺さんが鋭くそう言うと、イルネースはくっくと笑った後に俺達へ言う。


 『確かにその通り。だけど、君の孫は行くつもりだ。少なくとも祖母であるアルベールは行くだろう? それでも十分さ』

 「……」

 「爺ちゃん、リンカを取り戻すためには向こうには行くしかないんだ。最悪、俺だけでも行くしね」

 「お前だけ行かせるわけにはいかんよ。死ぬなら老いぼれでいい」

 「婆ちゃんに俺が怒られちまうって。……さ、どうするか教えてくれ」


 するとイルネースは神妙な声で、言う。


 『例の本を出してくれ。それと……アルフェンの中に居る妹さん、君の力が必要だ』

 <わ、私……!?>


 紬……!? 

 頭の中で困惑している声が聞こえるがどうして紬なんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る