210.迎撃の準備を
山を越えてライクベルンに入り、そのまま馬ならぬラクダを走らせて王都へ向かう。馬より遅いけど十分だろう。
そんな調子で草原を走っていると武装した騎士団一行がこちらへ向かってくるのが見え、掲げた旗の紋章からライクベルンのものだと分かり近づくことにした。
近くなると先頭には爺さんや見たことのある将軍、騎士団長が居たので戦争のための行軍だろう。
「おおーい! 爺ちゃん!」
「む? ……おお、アルフェンではないか!! 無事だったか!」
俺の声に反応してくれた爺さんが駆けつけてくれ、久しぶりの再会を果たす。
「して、サンディラス国の王を探しに出ていたのではなかったのか?」
「ああ、それなんだけど――」
と、オーフに話したようにここへ帰って来れた経緯を話す。肝は戦争が無くなったことを告げると、控えていた将軍たちが肩を竦めて俺の頭をくしゃりと撫でた。
「まったく、将来有望なお孫さんですな。まさか戦争と止めてくるとは」
「ワシも驚いたが……アルフェンならできるだろうな」
「買い被りすぎだと思うけど……。あ、マクシムスさんから預かった書状、渡しておくよ」
「それはアルフェン君が直接陛下に渡してくれ。今回の功労者は間違いなく君だしな。報奨も期待できるんじゃないか?」
そんな話を交えつつ安堵していると、爺さんがギルディーラの姿に気づき声をかけた。
「『魔神』ではないか。護衛を務めてくれたのか?」
『いや、そうではない。しばらくアルフェンのところへ厄介になろうと思ってな。例のマクシムスの失踪と水神。それに関わっていた者がアルフェンの探す黒い剣士と同一人物かもしれんのだ』
「……!」
爺さんの表情に緊張が走り、周囲がどとめく。
そこへちゃんと戻っていたらしいイーデルンが口を開いた。
「黒い剣士って屋敷を襲ったとされる連中でしたか。……そういえば、私がアルベール様を襲わせたのも黒ずくめだったような……」
「なに? 貴様、黙っていたのか?」
「いいいい、いえ!? 【呪い】の話はいま初めて聞きまして、そんなことを言っていたことを思い出したのです」
そういえばイーデルンには各地で起こった詳しい話はしていなかったな。
爺さんの腕が呪いでやられ、黒ずくめの人間に唆されたというのであればそこも同じなのかもしれないな。
「……どちらにせよ、もうそいつらの確認はできまい。取り急ぎ城へ戻るぞ。念のため国境付近に何人か兵を向かわせておこう」
爺さんの言葉で俺達は再び移動を始め、特に問題なく王都へ戻ることができた――
◆ ◇ ◆
――ライクベルン王都――
「よくぞ無事に戻って来た。そして戦争回避についても書状で確認させてもらったが、大型の魔物をアルフェンが倒したとのこと。ライクベルン国王として鼻が高いわい」
「全て成り行きなれば……」
「謙遜をするな。お前が倒さねば国王不在の国が出来ていたかもしれん。……しかし、気になるのは黒い鎧の者だな」
戻った早々に謁見の間へ回され、俺は騎士達に囲まれながら何度めかになる経緯を説明する。書状を読んでくれていたから話はだいぶカットしたのですでに話は黒幕についての話へシフトしていた。
「一体何者なのか……。それに直接手を下さないというのも気味が悪いな」
「そうですね。私の探している者と同一人物であればこの手で必ず倒します。引き続き情報を集めようかと」
「うむ。目立つと思うが噂すら聞かんのも気になるがな……。だが、傾国させんと企む輩であればライクベルンも危うい。全員、警戒をさらに怠らぬようにな」
陛下の言葉で鬨の声があがる。
もし水神が力をつけて暴れまわっていればサンディラス国は危なかったかもしれないということが分かっているからだろう。
「ご苦労だったアルフェン、アルベール。褒美については後ほど通達が行くはずだ。屋敷に戻るのか?」
「ええ。『魔神』も居ますし、王都だと刺激が強いかと思いまして」
「逆に助けになるならありがたいがな? しかし、黒い剣士が屋敷に来るかもしれんと考えれば戻っておいた方が得策か」
「はい。なにかあればすぐに駆けつけます」
俺は頭を下げてそう告げると、頼むという言葉と共に謁見が終わる。
リンカと婆さんにようやく会える。
が、その前に爺さんに今後の確認をするため話しかけることにした。
「爺ちゃん、将軍に戻ったんなら屋敷には帰らない?」
「うむ、本来ならそうなるだろう。だが、そこはもちろん交渉済みだ」
「え? どういうこと?」
「黒い剣士の狙いは『ブック・オブ・アカシック』ということは分かっておるだろう? なら一番危険なのは誰だ?」
「え、っと……俺かな」
頬をかきながら呟くと爺さんがニヤリと笑いながら俺の頭に手を置く。
「そうだ。だから黒い剣士からお前を守る任務を陛下から承った。だから屋敷へ戻るぞ」
「マジか……!?」
まさかそんな話を交わしていたとは驚いた。
それならギルディーラと同じく心強い存在だし、迎撃も可能だろう。
俺の噂を聞きつけて早く俺の前に現れて欲しいものだ。
とりあえずギルディーラとディカルトには宿を取ってもらい、俺達は爺さんの屋敷に戻る。リビングに近づくとクリーガーの嬉しそうな声が聞こえてくる。
「どうしたのクリーガー? あ、まさか……!」
「そのまさかだよリンカ。ただいま!」
「アル! おかえりなさい!」
それはそれとして、ひとまずの休息をしようかとリンカに笑顔を向ける俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます