211.カモフラージュ


 「ブルベエェェ」

 「わんわん!?」

 「はは、クリーガーのやつ、びっくりしてるな」

 「それはそうよ、こんなに大きいラクダに囲まれたら私でも驚くわ」


 ラクダに囲まれて匂いを嗅がれていたクリーガーを抱っこして口を尖らせるリンカ。

 なにごとも慣れだと言いながら彼女を馬車に乗せ、俺は自分のラクダへ乗る。

 残り二頭は相変わらずディカルトとギルディーラにお願いした。


 「愛嬌のある顔をしているわね」

 「呑気そうだよね。ウチは庭が広いから放し飼いにしようかと思うんだけど」


 婆さんが荷台からラクダを見て意外と可愛いというので、柵なんかも設けずうろつかせようかと思っている。

 なんだかんだでリンカも嫌いではなさそうだし、クリーガーも慣れてくれば庭で一緒に遊ぶかもしれない。


 「糞の始末と餌くらいだろうし、ディカルトに任せよう」

 「おお……‟死神”に言われちゃやるしかねえな……いてぇ!?」

 「ワシをその名で呼ぶな」

 『アホだな』

 「いつも通りだよ」


 街道をのんびりと進んでいく俺達。

 そこでリンカがひょっこりと窓から顔を出して口を開く。


 「それで昨日の続きだけど、おばあ様も屋敷に戻って大丈夫なの? 本格的に動き出すなら危ないと思うんだけど」

 「ふふ、いいのよリンカ。あの人と一緒になった時から覚悟はしています。あなたも結婚したらわかるわ」

 「ええー……」

 「大丈夫じゃ、こっちにはギルディーラ殿もワシもいる。アルフェンもディカルトも強いし、町にはスチュアート達が常駐している。如何に黒い剣士が強かろうともタダでは済まんよ」

 「わふ!」


 娘と婿を殺されている形になる爺さんも殺る気満々だ。

 危険なのはやっぱり夜になるけど、今後は屋敷に門番をつけて昼夜交代で見張ることになる。


 そのために――


 「……後ろの騎士と兵士さんが敷地内で護衛してくれるのね」

 「だな。番犬もいるといいんだろうけどそこまではお金がなあ」

 「わふ?」


 リンカの膝で腹を見せているクリーガーには期待できないしと二人で苦笑し、方針などを交えつつ途中の町で一泊して屋敷へ。


 フォーリアの町に帰るなり、町の人から歓迎を受けることとなった。


 「おう、アル坊ちゃん無事に帰って来たか!」

 「おかえり。こっちは何事も無かったから安心していいよ」

 「誰かイリーナに知らせてやれ、戻って来たってよ!」

 「ありがとうみんな!」


 気のいい連中がいつもどおり出迎えてくれホッとする。

 俺が『ブック・オブ・アカシック』を持っているという噂は広めているため、なんだかんだで留守の間奴等がやってきていてもおかしくなかったからな。

 とりあえず裏で脅されているような感じもしないので一安心。

 

 「おかえりなさいませ」

 「ただいま、なんとか帰ってこれたよ」

 「ただいまイリーナさん」

 「なによりですわ。お屋敷は毎日掃除をしていたので綺麗ですよ。あら、見たことが無い動物ですね?」

 「ラクダっていうんだ。ほら、お前達適当に過ごしていいからな」


 ラクダから降りて三頭に呼びかけると、一声鳴いてから庭の奥へ歩いていき、その後をクリーガーがゆっくり後をつけていた。


 「大丈夫かしら?」

 「ラクダはのんびりしているし、噛みつかれたりはしないと思うよ。それじゃギルディーラ、ウチの屋敷へようこそ!」

 『ああ、ありがとう。イリーナと言ったか、俺はギルディーラ。今日から世話になる』

 「はい、よろしくお願いいたします」

 「ほら、アルフェン達、お庭で話すより中に入った方がいいわよ。イリーナ、お茶の用意をしましょうか」

 「かしこまりました奥様」


 言葉通り、出発前と変わらぬ屋敷に感嘆しながらギルディーラの歓迎会について話を進める。ま、サンディラス国の騒動も終わらせたし、少しくらいはね?

 

 <……>


 ◆ ◇ ◆


 「ライクベルンまで本当に行かれるおつもりですか?」

 「『ブック・オブ・アカシック』が目の前にぶら下がっているんだ、当然だろう?」

 「しかし、調査したところこの噂……一年ほど前から急激に出回っているようですぞ」

 「……ほう、罠だと言いたいのか?」

 「左様でございます。ここは少し慎重になられた方がよろしいのでは、と」


 大臣らしき男が主である女王の顔についている傷を見ながら申し訳無さそうに告げる。一瞬、女王は傷を撫でた後、口元に笑みを浮かべてから大臣に肩に手を置いてすれ違う。


 「……あの頃の私とは違うさ。油断もしない」

 「……」

 「だが心配だというなら……そうだな、こういうのはどうか――」

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