212.あの居候のこと
「ブルベエェェ」
「わふわふ!」
「なんだかんだで仲良しになったわねー」
「ラクダがのんびりしているからな。雑草を食ってくれるから意外なところで役に立つし」
「体を綺麗にしたら喜んでたのも可愛かったわね」
――さて、サンディラス国の遠征から早ひと月。
フタコブラクダの三頭は大人しく庭で過ごしてくれていて、クリーガーの遊び相手や雑草処理の役割を果たしている。
最初は婆さんの植えた花をもしゃもしゃと食っていて怒られていたが、教えればちゃんと雑草だけを摘まむようになっていた。
水は俺が流された川が近いのでそこから少しだけ庭へ水路を引いて補給できるようにしたら、後は勝手に運動したり休んでいるので手がかからなくていい。
「……なんでついてきたんだ?」
「楽できると思ったからじゃない? ラクダだけに」
「そのダジャレセンスじゃディカルトと同レベルだよ」
「え、ホント……?」
さりげにショックを受けているリンカに苦笑しつつ、俺は庭に居るディカルトへ目を向ける。
なぜ庭にと思うかもしれないが――
「どおおりゃぁぁぁ!!」
『力任せに振りすぎだ、それでは次の次までこちらが先手を取れるぞ!』
「うごぉあ!? まだまだぁ!!」
「ディカルトのランクは78……中々だが『魔神』相手では子供扱いだな」
――ディカルトがギルディーラ相手に戦いを挑んでいるからだ。一日何回挑戦すれば気が済むのかと思うくらいつっかかっていき、その度にボロボロにされていたりする。
というか真面目に戦うギルディーラが強すぎて爺さんの言う通り子ども扱い。
俺も何度か手合わせをしているけど、魔法が無ければほとんど一撃で倒されていると思う。
水神が『英雄クラス』だと言っていたけど、あの程度じゃギルディーラには絶対に勝てないだろう。
「ぐへ!?」
『そこまでだな。まあ、最初に手合わせした時よりは上手くなっているがまだ隙が多い。お前はなんのために剣を振るうのかが見えん』
「……チッ」
『地面に強く打ち付けたんだ、ゆっくり体を休ませろ。次はアルベール殿か?』
「よろしく頼む。ワシより強き者はそうそうおらんのでな、勉強させていただく」
ディカルトは剣を杖代わりにフラフラとラクダの水飲み場へ向かい、あいつが乗っていたラクダがついて行くのが見えた。
「あの人、アルの命を狙っていたのよね?」
「命令でみたいだから恨みとかじゃないけどな。それが?」
「うーん、なんで騎士団に入ったり、傭兵みたいなことををやっているのかしら? 強い人と戦うだけって理由も変じゃない? あの人、多分賢いし」
アホだから、というくくりで終わらせるのは簡単だけど、なにかあるのかもとは俺も思う。
俺とリンカは顔を見合わせた後に頷きディカルトの後を追う。
「いってぇ……!? くそ、力の差がありすぎんだよ……ランクにするといくつなんだ野郎は?」
「百は越えているだろうね。ラヴィーネ=アレルタの時代から今って底上げされているみたいだし」
「っと、さんきゅー! って、アル様とリンカ様じゃねえ……か!?」
「あ」
水辺で顔を洗っていたディカルトに声をかけてタオルを投げてやると、振り返った拍子に池に落ちた。
慌てて引き上げようとしたところ、ラクダが首を伸ばしてディカルトの襟を咥えて出してくれた。
「ぐえーぺっぺ! くそ、酷い目にあったぜ……」
「ごめんごめん。大丈夫か?」
「え? ああ、手加減されてっから平気だ。つーか、なんでこんなところに?」
「いや、なんだかんだでウチに来てから結構経つだろ? でも俺はお前のことをなにも知らないなって。確かに爺さんは強いし、俺も魔法があれば十分対応できる。ギルディーラも不可抗力とはいえここに居るけど……そもそもなんでそんなに強い相手と戦いたいんだよ?」
俺は一気に思っていることを口にしてディカルトをもう一度池に落とさんが勢いで追いつめる。
すると横へ飛んだあと、難しい顔をして座り込み――
「……面白い話じゃねえが、これもなにかの縁かもな。聞いてくれるか?」
「もちろんだ」
「ええ」
ディカルトは歯を見せて笑うとタオルを頭に乗せてから腕を組むと、ゆっくり語り始める。
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