49.推察②
「どういうことです、陛下?」
俺をラッドの護衛に、勉学を共に学ぶという話。
聞いたゼルガイド父さんが一番初めに疑問を口にする。
『ブック・オブ・アカシック』についてと、俺のことは国王が知っているからこそ、あの日、ラッドは元のクラスに戻ったのだ。
俺は持つ者が不幸に見舞われる本を持つ、忌むべき存在のはずだが。
「今、進言した通り。近いうちに城へ通ってもらうことになるか、住み込みでここに滞在してもらおうと考えている」
「それはどうしてでしょう? ……私の孫は不幸を招く、それで王族と関わらないよう通達があったと記憶しておりますが」
モーラ婆さんが少々きつめの声で詰問する。
元々きつい感じはある婆さんだが、分かり合った後のカーネリア母さんや俺達孫にはすこぶる優しい。
……もちろん怒ると怖く、それこそこの前の戦いの後、くどくどと説教を受けたしな……
それはともかく、続きを聞いてみるとしよう。
「確かに半年ほど前にはミーア先生の助言もあり、そう取り決めた。しかし、先日の戦い、それとお前達に双子を与えてくれたという奇跡を考え、そこまで悪いものではないのでは、と考えたのだ」
「私達にとってはそうですね、アルが来てくれたからこうやってまた夫婦とやっていけています」
「うむ。伝説は伝説にすぎん。本人に不幸があっても、周りに影響を及ぼさないのでは、と考えたのだ。……それに、クラスが変わってからラッドのやつが目に見えて落ち込んでおってな」
「それは言わなくていいです父上。そういうわけで受けてくれるかい、アル?」
ラッドが笑顔で国王の手を叩き、俺達は苦笑する。
なんというか、それでいいのだろうかとも思うが、決定なようだ。
「……まあ、陛下と王子に逆らうにはいきませんしね」
「お。……くくく、生意気を言いよるわ! では、住み込みと通いどちらにする」
「うーん……」
俺は膝の上で、手をこねくり回しているルーナの後ろ頭を見つめる。
ふむ、少しずつ変えていくか。
「……では、通いで。カーネリア母さんも教諭としてくるなら、一緒に来るのがいいかと」
「そうか、そうだな。一家そろって城で働くなら住み込みで良さそうなものだが……」
「やはり家で団欒は取りたいですし、家でゆっくりさせてください。メイドに暇をやるわけにもいきません」
最後はゼルガイド父さんが笑いながら締める。
これでいい、とりあえず通いにしておき、徐々に泊まりを増やしていけば俺が居ない日が徐々にでき、慣れてくれるだろう。
話はこれで終わり……かと思われたが、国王は仕切り直しさらに続ける。
「……アルを引き入れたのはもう一つ理由があるのだ。その、問題とされた『ブック・オブ・アカシック』。ミーア先生の言では所有者の知りたい情報が浮かんでくるのだと聞いている」
「ええ」
曖昧な返事をしていると、国王はなかなかファンキーな提案を口にする。
「例えばだが……私の知りたい情報をアルに伝えて、それをアルが『知りたい』と思えば本にその情報が浮かんでくるのかどうか、というのを試してみたいと思ったんだ」
「!」
……なるほど、それは確かに面白いかもしれない。
ただ、それは本当に『俺が知りたい』と思わなければ浮かんでこないと思うので、知りたいこと次第だろう。
しかし、恐らくその情報は一致しているはず。
「襲撃者のこと、ですね?」
「うむ。さすがに話は早いか。そうだ、もしあらゆる知識が詰まっているというのであれば可能性はあると思わないか?」
「承知しました。すぐにでも……」
「まあ、今日のところは話だけだ。城で過ごすようになれば機会はあるだろう」
と、収納魔法を使おうとしたが止められた。
冷や汗をかいているところを見ると、なんだかんだで『ブック・オブ・アカシック』の存在は気味が悪いと思っているのかもしれない。
まあ、不幸を呼ぶ本と言われていればそれも致し方のないことだ。
そう思いながら胸中で笑っていると、ラッドが立ち上がり俺の横で手を伸ばして来た。
「それじゃ改めてよろしく頼むよアル!」
「ったく、元気になって」
「ルーナちゃんもよろしくね!」
「はーい!」
ルーナは片手を上げて返事をしてにこっと笑う。
「可愛いね、僕の妹は歳が近いからこう小さい子は見たことがないんだよね。ルーク君は……寝ちゃってるか」
「まあ、退屈だからなあ」
「アル、退屈とはなんだ?」
「あ、やば……」
「ふふ、口は災いの元だね、アル?」
ゼルガイド父さんが腕組みをして片目を瞑って俺に苦言を呈し、カーネリア母さんが笑う。
そこでラッドが思い出したかのように国王へ言う。
「そうだ父上、エリベール様をお呼びしなくていいんですか?」
「あ!? そうだったな」
「エリベール様がどうして? 帰ったのではなかったのですか?」
エリベールって誰だ?
ゼルガイド父さんが不思議そうに尋ねている間に、ラッドが部屋を出て呼びに行く。
「うむ、その、アルに会ってみたいというのでな」
「俺?」
「アルにいちゃ……ねむい……」
「はいはい、寝ていいからなルーナ」
急に話を振られてきょとんとしていると――
「お連れしました!」
「申し訳ない、エリベール様。こちらの話は終わりましたので、どうぞ」
「ありがとうございます、フォルネリオ様」
「あ」
国王の名前はフォルネリオというのか……いや、それよりもエリベール様だ。
目の前に現れた人はあの時、俺の傷を治してくれた女の子だった。
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