48.推察①


 「アルにいちゃ♪」

 「歩きにくいだろルーナ、カーネリア母さんに抱っこしてもらえって」

 「や!」

 

 馬車から降りた俺の背にルーナが飛びついてきたのを窘めると、頬を膨らませてそっぽを向く。


 あの日以降ルーナがさらにべったりになった……気がする。

 俺の膝の上に座るのはもちろん、朝起きると横で寝ていたり、風呂に突撃してきたりと大変なことに。

 もちろん毎度ルークとセットだし2.5歳児をどうこうすることはないが、非常にまずい。


 旅立ちまで卒業する二年後……と勝手に思っているけど恐らくそうなるだろう。

 そこで急に俺が居なくなったらどうなるのか。


 突き放すのは物凄く可哀想なので、両親に相談するべきか。爺さんところは遠いから通学は難しい。むう。

 それにこの二人は可愛い兄妹なので、無下にもできない……


 「にいちゃ!」

 「うーん、アルは赤ちゃんのころから子育てを手伝ってくれていたけど、本当に懐いているわねえ」


 にこーっと笑い、よちよち歩くルークにほっこりする中、カーネリア母さんが呆れたように笑う。


 <ふふ、可愛いです>


 まったくだ。

 前世でまっとうに生きていたら子供は作っていたかもしれないし、可愛い盛りなのでむしろ構いたい……でもいつか別れる。


 まあ、まだ先の話なので中級生の間に考えよう。

 とりあえず背中にルーナ、左手にルークの手を繋ぎ、俺達は城内へ向かう。


 家族全員で。

 爺さんたちもいるので本当に全員。

 ちなみに言うとあの襲撃事件からすでに五日も経っている。

 あの現場に居た当事者を順に集めて話をしているとゼルガイド父さんが言っていた。


 話の内容はおおよそ検討がつくが、問題は奴らの正体まで判明しているかどうか。

 あんなのが毎度現れたらたまったもんじゃないので抑止できるなにかがあるのか気になる。


 特に一番の問題は、ラッドが学校に通っていること。下手をすると学校が標的になりかねない。


 子供のルーナを人質にし、火薬で自爆テロをするような奴等だ。

 学校襲撃→生徒ごとラッドを殺す計画くらいは立てるだろう。まあ、さすがに今後は教諭や護衛を増やすとは思うけど。

 

 そんな感じの予測を立てながら話合いに臨む。



 「来たか、フォーゲンバーグ家よ」

 「ハッ、お招きいただき光栄に存じます」

 「堅苦しい挨拶は良い。まあ、座ってくれ」

 

 国王に言われるままそれぞれ着席。

 対面にラッドが居て、ウインクしてくる。


 「アルにいちゃだっこ!」

 「ダメよ、ママと一緒に居なさい」

 「やー!!」


 ルーナは俺の膝を所望し、カーネリア母さんが窘めるも不貞腐れるため、仕方なくそのまま抱っこする形で進行することになった。

 三歳になったら我儘はもっと躾けよう。


 「フッフ、可愛い双子だな。そっちの子は人質に取られたようだが元気そうで良かった」

 「私の宝物ですよ。……それで話と言うのは?」

 「うむ。まずは先日の賊についてだ。捕虜にしているが、口を割らん。だが、恐らくツィアル国の手の者だろうと推測している」

 「ふむ……根拠はあるのですか?」


 ゼルガイド父さんがそう尋ねると、国王は難しい顔で顎をさする。

 これは……


 「根拠は……正直乏しい。火薬はこの大陸にも、ツィアル国があるヤード大陸にも流通しているものだ。だが、今の情勢で私を狙ってくるとなるとツィアルか砂塵族だが、砂塵族は橋が破損しているのでこちらに来るメリットが無い」

 「確かに。しかし証拠が無ければ抗議もできませんな……」


 ベイガン爺さんも渋い顔で腕組みをする。

 なるほど、火薬はそれなりにメジャー、か。で、砂塵族もこの地を狙っている……だが、橋は使えない。


 となると確かにツィアル国一択だが、奴らが口を割らなければ確証はない。

 そこで俺は手を上げておずおずと聞いてみる。


 「あの、すみません。捕えた人達にツィアル国だと分かる荷物や刺青、みたいなのはないのでしょうか? 例えば訛り、とか」

 「アル?」

 「ほう、君はアルだったか。『ブック・オブ・アカシック』の持ち主の」

 「え、ええ……」

 

 なんか言われるか?

 そう思ったが、


 「ふむ、ミーア先生が言う通り賢いな……そのあたりは我々も考慮している。だが、そういった痕跡はすべて消していてな。それ故に根拠がない、ということだ」

 「そうですか……」

 「アルは気になることでもあるのかい?」


 俺が考え込むと、ラッドが尋ねてきた。


 「ああ、このままなにも進展が無いならラッドは学校に来ない方がいいなってね。あの大勢いたパーティ会場に乗り込める連中だ。今後も警戒するべきだし、護衛が居たとしてもノコノコと危険に身を晒すことはないだろ?」

 「あー……」

 「確かにそうね」


 さっき考えていたことを口にするとカーネリア母さんがうんうんと頷く。

 ラッドは困った顔で笑うが、結構深刻な話だぞこれ。

 そのあたりは国王が分かってくれたらしく、神妙な顔で言う。


 「そうだな。城にすら乗り込んでくるのだ、学校は危険だな」

 「……仕方ありませんね」

 

 ラッドには悪いが騒動が片付くまで学校は諦めてもらうべきだろう。

 それが何年かかるか分からないけど。


 「とりあえず、ツィアル国に対しては一度牽制の書状を送る。砂塵族に対しても橋付近の監視は倍に増やす」

 「魔物も活発ですし、私にできることがあればなんなりと。妻も元冒険者、お役に立てるかと」

 「ありがとうゼルガイド。では、早速頼み事があるのだが」

 「なんなりと」


 ゼルガイド父さんが真剣な顔で頷くと――


 「では、アルをラッドの護衛として城で勉学を学んでもらいたい。教えるのはミーア先生とカーネリアの二人だ」

 「ぶっ!?」

 「アルにいちゃきたないー!」


 俺の話はひと段落していたのでお茶を口にしていると、国王がとんでもないことを言い出した……!?

 おいおい『ブック・オブ・アカシック』を持っている俺を遠ざけるんじゃなかったのかよ!!

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