47.謎の美人


 「はあ……はあ……!」


 動かなくなった覆面を見下ろし、俺は肩で息をする。

 緊張が解けたせいで左肩に痛みが走り、俺が顔をしかめていると正面からルークとルーナを抱えたカーネリア母さんが叫ぶ。


 「アル、こっちに来なさい!」

 「あ、カ、カーネリア母さん……、ルーナは!」

 「あんたのおかげで大丈夫よ!」

 「にいちゃ!」

 「なら次を――」


 俺は痛む左腕を庇いながら振り返ると、すでに戦いは終焉に近づいていた。

 

 「つぁぁ!!」

 「うぐ……さすが、騎士団長……疾風のゼルガイド……私では一歩及ばず……」

 

 ゼルガイド父さんが振った剣が鎧ごと薙ぎ、胸から血を噴出させる。

 四人いた覆面のうち、一人は俺、もう一人をゼルガイド父さんが。

 残り二人はイワンの親父さんと騎士達で当たっていた。

 

 中には魔法が得意な者も居そうなものだが、腰を抜かして動けない来賓やお客さんの手前派手に撃てなかったのだろう。


 それに他の覆面もかなり激しい抵抗を見せていたようで数人の騎士が呻いていたり、動かなくなっていた。詠唱を考えると難しかったのかも?


 だが、まだ悪夢は終わりではないことは市街地で戦った俺は知っている。


 「よ、よし、拘束した!」

 「くく……道連れだ……」

 「なんだ? 往生際が悪いぞ!」


 やはり。

 自爆用の火薬を持っていたか! 俺は即座に駆け寄り、息のある覆面に魔法を使う。


 「<アクアフォーム>!」

 「なに……!? 小僧、貴様ぁ!!」

 「さっき外に居た奴が似たような袋で爆発していた、中は……火薬だろ? 水に濡らせば爆発は……しない……」

 

 念のため全員を濡らしておけば周囲への被害は抑えられるだろう。

 そういえば火薬ってこの世界じゃメジャーなのか? そんなことを考えていると、覆面が目を血走らせて恨みの声を上げていた。


「おのれぇぇぇぇ……! だが、この被害は無視できまい……せいぜい浮かれているといい……」

 「まずい! 騎士さん、手を抑えて!」

 「む! ダガー!? 自害するつもりか!」

 「させない!」

 「ぐふ……!? 馬鹿な……こんな子供、に……」


 幸いというべきか、鎧は砕け散っていたので鳩尾に全体重をかけた膝を落とし気絶させる。


 「ふう……」

 「なにをするつもりだったのか知らんがお手柄だアル。っと、その前に傷の手当だな」


 尻もちをついた俺に手を差し出してくるゼルガイド父さん。

 

 「ゼルガイド父さん。まあ、これくらいなら――」

 「アルにいちゃぁぁぁぁぁ!」

 「にいちゃぁぁぁ!」

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!? 傷がぁぁぁぁ!?」

 「こら、二人とも! アルは怪我しているんだから離れなさい!」

 「「しんじゃやぁぁぁぁぁ!!」」


 俺が血まみれになっているのが怖いのか、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔でしがみつく双子。

 そのあたりで緊張が解けたのか騎士たちが奔走し始め、医療班らしき人達を呼ぶ声が響いてくる。


 「う、ぐ……い、いいよ……我慢できる……」

 「ふふ、好かれているねアルは」

 「ん。ラッド、無事かい?」

 「おかげさまでね。イワン君も盾になろうとしてくれたり」

 

 視線の先にイワンが後ろ手に組んで顔を赤くしていた。

 まあ、ここに居てもおかしくはない。

 

 「王子は陛下の様子をお願いします。副団長三人で護衛しているから安全だと思いますが」

 「はい。ありがとうございます、ゼルガイド殿。それじゃまた」

 「……」


 俺は無言で手を振ると、困った顔でラッドが手を振り返してきた。

 さて、そろそろ落ち着きそうなのでルークとルーナを引きはがしにかからないと。


 「ゼルガイド父さん、お願い」

 「ああ、二人ともアルが痛いってさ。離れなさい」

 「うー……」

 「いやあ!」


 ルークは聞き分けよく離れてくれたが、ルーナは離れてくれない。

 仕方ない、このまま抱っこするかと、マチェットを収納して立ち上がる。

 すると、いつの間にか俺の近くに物凄い美人が立って微笑んでいた。


 「あ、あなたは……」

 「元気な男の子ですね。お怪我、見せてください」

 「え? あ、うん」

 

 年のころは12、3歳って感じで長い金髪が絹のようでとても綺麗だ。

 まあルーナもゼルガイド父さんの金髪を受け継いでいるのでいつかこうなると思う。


 そんな綺麗な顔を眺めていると、いつの間にか肩の傷が消えていた。

 

 「あ、あれ?」

 「大好きなお兄ちゃんもこれで大丈夫ですよ♪」

 「ありがとーおねーちゃん!!」


 笑顔でルーナの頭を撫でる美人。

 それはともかく、なんと傷があっという間に塞がっていた。

 これは神の魔法ベルクリフってやつか? この子、何者なんだ?


 「ありがとう、痛みが無くなったよ! これはベルクリフ、かな?」

 「これでもう大丈夫。ええ、その通りですよ、お役に立てて嬉しいですわ。……それにしても事態は深刻。わたくしは治療に当たります」

 「お願いします。アルは母さんと一緒に待っていてくれ、俺達は処理にあたる」

 「う、うん、行こうルーナ」

 「はーい!! えへへー」


 俺の背中によじ登り頭をこすり付けてくる小動物を背負って俺はカーネリア母さんと合流する。



 ――その後、町の方で犠牲者が居たことが確認されパーティはもちろん中止。

 

 襲撃者は最初にルーナを捕まえていた男を含めて一命をとりとめていて、あの美人な子により回復に向かっている。

 俺達もあの日はゼルガイド父さんに屋敷へ帰るように言われまったく離れないルーナ達と家に帰り――


 「なにをしておったのだアル! ……なに? 城で賊と戦ったぁ!? ば、馬鹿者!」

 「ぐあ!?」


 爺さんに拳骨をもらうのだった……


 そんな波乱のあった翌日、俺達一家は城に呼び出されていた。

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