46.妹を返せ
「くそ……やっぱりか!」
町のあちこちで火の手が上がり、人を掻き分けて兵士や冒険者らしき人達が現場に向かうのが見える。
確かにこの状況なら住人の救助が先決だろう。
だが、これは確実に陽動だ。どれだけ入り込んでいるのか分からないが、狙いは間違いなく――
<アル様、城から人が!>
「分かってる! ルーク、ルーナ無事で居てくれよ……!」
――間違いなく城だろう。
どこで『完結』する計画か謎だが、誕生祭に仕掛けられたという事実、犠牲者が出たという事実があるこの時点で7割は完遂していると見ていい。
後は本命に対して突撃できれば計画は完璧だ。
戦争や抗争でもあるが相手の『信頼』を失墜させるのが目的でもあるので『なにをしていたんだ』と糾弾ムードに持って行く手があると見ていい。
俺を協力してくれた怜香の組織に利があるよう色々やってたことを思い出すぜ。
「ぶ、武装した奴らが……一体どこから……」
「窓をぶち破って入って来たんだ」
さて、現場は貴族らしく豪華な衣装に身を包んだ男女や子供が我先にと出てくるのをすり抜けていく。
気になるワードがちらほら聞こえてくるが、俺はとりあえず心に刻み込んで一番人が出てくる場所を視線で探す。
「……あそこか!」
二階の東側にある大きな扉が開け放たれている場所。
そこから人が多く出てきているのでそうだろうとあたりをつけ入ると、覆面の集団五人と、ゼルガイド父さんや騎士、イワンの親父にラッドが国王を守るように立ちはだかっていた。
「貴様ら何者だ? ツィアル国の者か……?」
「名乗る馬鹿が居ると思うか? さて、俺達も暇じゃない。この子供の命が惜しければ道を開けて国王を殺させてもらえると助かるのだがな?」
「ああああああああん ぱぱぁぁぁぁ。ままぁぁぁ!」
「ルーナ……!」
「すみません、僕が迂闊に攻撃したばかりに……」
「王子のせいではありません。陛下のところまで行かせなかったのはさすがでした」
「ふふふ……実に惜しい。王子もなかなかの手練れ、しかし臣下の子を見捨てて次代の王になれますか――」
その瞬間、ルーナの首根っこを掴んでぶら下げている男の肘から先が無くなる。
「がたがたうるせぇ、ルーナを返せ」
「え?」
斬った腕に捕まっていたルーナが俺の腕に落ちてくると同時に、返す刀で両足の太ももを切り裂く。
なにが起こったか理解できない顔をしている男に、追撃でファイアーボールを撃ってその場から移動する。
「ぐあ!?」
「なに!? いつ詠唱した!?」
チッ、もう一人くらい斬る予定だったが、こんな作戦を立てるくらいだ、勘はいいようで即座に距離を取られた。
「にいちゃ!!」
「アルにいちゃだ!!」
「おう、怖かったな。もう大丈夫だ、カーネリア母さんルーナを」
「アル、あんたどうして……」
「にぃぃぃちゃぁぁぁ!」
「話は後。ルーナを人質に取ったあいつらを撃滅するよ」
俺から離れようとしないルーナをカーネリア母さんが引きはがしてくれている中、ゼルガイド父さんが怒りの表情で剣を握り直していた。
「……そうだな、アルの言う通りだ。お前も下がっていろ」
「嫌だよ、ルーナを怖がらせた奴らをぶちのめさないと気が済まない」
「にいちゃがんばって!」
妹をまた失うところだったのだ、俺の怒りは半端ではない。
ルークが拳を握って応援してくれているのも後押ししてくれる。
「はあ……もし死んでも自己責任だぞ」
「分かってる」
「アル!」
「下がってろラッド! あいつらは俺が叩く!」
ラッドが声をかけてくれたが振り向くことなくマチェットを構えて駆けだす。
「……お前達、いくぞ!」
「「「おおおお!!」」」
「しゃらくさい……ひとりでも多く道連れにしてやるよ!」
ゼルガイド父さんが一歩踏み出し、その言葉で騎士達が一斉に攻撃を仕掛け始める。俺も倒れた覆面を乗り越えて、ペラペラと喋っていた覆面に斬りかかる。
「国王様の命が狙いか、随分ガバガバな計画だな!」
「子供が……! よくもガルバを!」
「テロと子供を人質に取る奴らが仲間の心配をするな! <ファイアーボール>!」
「なんと……!?」
剣を振り被ると見せかけてのファイアーボール。
これは予測できなかったらしく、慌てて剣で切り裂いた。その反応は敵地に仕掛けてくるだけはあるかとマチェットを振り下ろす。
「チィ……!」
「っと……!」
情報は欲しいので頭は避けたが、しっかり剣で受けきっていた。そのまま俺を弾き飛ばし、首を狙ってきた。
ゼルガイド父さんの教えは『目を切るな』。
冷静に屈んで躱し、足を狙う。
「手加減するか、小僧! 小賢しい……!」
これはステップで回避されたが、これは予測済み。着地に合わせて<ウインド>を置いておく。
「うお……?」
「たあああ!」
「うぐ!? 舐めおって!」
「いてぇぇぇぇ!?」
「ア、アル!!」
浅いか!
さっきの奴は油断していたけど、子供の体じゃ力負けする。それに実力もきちんとあるようだと、ゼルガイド父さんと戦っている男や騎士に囲まれても反撃をするヤツを見て思う。
だけど、ゼルガイド父さんの言う通り自己責任あいては俺がする。
騎士も手を貸してくれる素振りをみせてくれるが、俺が派手に魔法を撃つので踏み込めないでいるようだ。
「後悔して死ね!」
肩から血を出す俺に対し、好機と見て襲ってきた覆面の剣を受け、切り結ぶ。
段々腹が立ってきて俺は怒声を浴びせる。
「どいつもこいつも死ね死ねうるさい! 俺は『黒の剣士』を殺すまで簡単に死ねないんだよ!」
「それがどうした!」
「おっと!?」
ガードした瞬間、大きく後ろに滑らされ、先ほど倒した男の体に足を引っかけてよろけてしまう。
「もらったぞ!」
「<アクア――>「<ブラストウインド>!」
覆面の凶刃が俺に迫って来たその時、俺の背後からミドルクラスの魔法が飛んできて相手を吹き飛ばす。
目を向けると、ラッドが口をへの字にして小さく頷く。今のは助かった……!
「サンキュー、ラッド! くらえ!」
「この! ……け、剣が折れた!? ぐおおおお!?」
勝負あり。
渾身の一撃で剣を折ったその勢いで、胸部鎧を破壊し、さらに踏み込んだ一撃で胸板を深く切り裂いた。
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