155.暴走するおっさん


 「チィ……!」

 「おいおい、どういうつもりだてめぇら!!」

 「その鎧の紋章、ジャンクリィ王国の者だろう? 魔物の増大に乗じてこの地を手に入れんとしようとしているのは知っているのだぞ」

 

 初老と言うには少し若い髭のおっさんが激高しながら剣を振るい、オーフが受ける。

 そこへ騎士団長フェイバンがおっさん目掛けて剣の腹を叩きつけるように払うと、別の騎士がそれを弾いた。

 

 「ふむ……!」

 「やる……! そちらもスリアン国の紋章を背負っているな? 我らが領地拡大を狙っているだと? 自分たちのことだろうがそれは!」

 「なにを! 我らはそんな姑息な真似なぞせんわ」


 直後、控えていたお供も動き出しまさかの遭遇戦に突入する!

 

 「きゅんきゅん!」

 <アル様!>

 「大丈夫、マナは減っているけど戦えないほどじゃない! それより――」


 俺はロレーナに斬りかかって来た騎士の剣を受けながらスリアン国の騎士達に叫ぶ。


 「こっちにはウォルフ族が居るんだぞ! どっちの国でもない種族に襲い掛かるつもりか!」

 「……!? なんだと! い、いや、しかし脅して連れている可能性も――」

 「あるか馬鹿! アルは俺の友達だぞ!!」

 「ゴブリンを倒そうとしているんだから邪魔しないでよー!」


 コウとセロが石を投げつけながら抗議の声を上げる。

 するとおっさんたちはわずかに動揺を見せたので、好機とみて魔法使いたちと一緒に土魔法を使う。


 「<アースウォール>!!」

 「うお……!?」


 攻めて来た騎士達とこっちの冒険者の間に土壁を地面から出して遮ると、坂道を転がっていくスリアン国の連中へ言う。


 「落ち着け! いきなり斬りかかってくる馬鹿があるか、常識的に考えて状況を確認してからだろう」

 「ぐぬ……! し、しかし……」

 「騎士様、彼の言う通りだ。向こうも困惑している、ここは――」

 「この匂い……!? いかん、ゴブリンが近くにいるぞ!」


 見た感じ女騎士……いや、冒険者か? その子がおっさんを窘めていると、親父さんが鼻を鳴らして俺達へ警告する。

 俺達が周囲を見渡すと、巨大な岩が転がってくるのが見えた!


 「ギャヒヒヒ!!」

 「あいつら、俺達に気づいていたのか!」

 「まあ、これだけ騒げばねえ。スリアン国の連中には責任を取って欲しいところだけど?」

 「今は構うな! 魔法使いは岩を破壊しろ、俺達は側面に回り込んでこのまま叩くぞ、アジトに行かれたら面倒だ。確実に殺せ!」

 「「おお!!」」

 「お前等も手伝え、ゴブリンにやられたくねぇだろ!」


 オーフが怒鳴りつけて促すと、先ほどの女の子が剣を掲げて口を開く。


 「スリアン国が勘違いで敵を襲ったとしたらいい笑いもの。まずはゴブリンを蹴散らす!」

 「し、仕方あるまい……」


 見た感じ俺と同じ年くらいなんだがなんか尊大な喋り方をする子だな。そんな子の言うことを聞く騎士達もよくわからんが……


 ま、戦ってくれるならそれに越したことはない。俺も30体程度のゴブリンへ仕掛けることにした。


 「うりゃ!」

 「ギィエア!!」

 「きゅん!」

 「お、よくやったぞクリーガー」

 「きゅんきゅん♪」


 俺が剣で動きを止めているうちにクリーガーの手が容赦なくゴブリンの両眼を突き潰す。怯んだゴブリンを袈裟懸けに切り裂き絶命させてから次へ。

 しかし、巨大岩の攻撃は思ったより被害が大きく、跳ね飛ばされたり足を骨折したりと動けなくなっている者も多いようだ。


 「う、く、来るな……!」

 「ゲヒヒヒ……」

 「下がれ、薄汚いゴブリンめ!」

 「ギャァァァァァ!?」


 尻もちをついた兵士を石を削っただけの棍棒で殴りかかろうとしたゴブリンを、あの女の子が攻撃して首を刎ねる。

 一撃で持っていくとはいい腕をしているなと思ってみていると、崖から彼女へ飛び掛かるゴブリンを発見する。


 「っと! 危ない!」

 「……! あ、ありがとう!」

 「気にするな、数は少ない、小回りが利く俺達が逃げる奴を追うぞ、いけるか?」

 「ええ!」

 「わたしも行くわよ!」


 ロレーナと俺、そして女の子と共に逃走を図るゴブリンを追う。

 他の連中はオーフ達が確実に倒しているので後はこいつらだけだ。


 「くらえ!」

 「ギャっ!?」

 「え!? 詠唱してないの!?」

 「いいから、残りを頼む!」

 「へーい。……よっと!」


 ロレーナのダガーがゴブリンの後頭部に刺さり、そいつを女の子が斬り伏せたのを確認して、俺が残ったもう一体へ斬りかかる。


 「やあああああ!」

 「やるわね」


 上半身と下半身とお別れしたゴブリンは臓物をぶちまけて絶命する。

 そういや前世であいつを殺した時は頭を割ったから内臓って出なかったなとどうでもいいことを思いだしてしまう。


 そこから数分でゴブリンたちは殲滅され、お互いの陣営は肩で息をしながら安堵の表情を浮かべていた。

 一応、水魔法で血を洗い流して埋めておくが、俺を含め、懸念があることを口にしてスリアン国の人間、あのおっさんに詰め寄っていた。


 「とりあえずあんた達の話は後で聞く。こっちはゴブリンに仲間をさらわれているんだ。それに今の奴らが偵察なら帰って来ないことに不信を覚えるかもしれんからこのまま行かせてもらうからな」

 「わ、分かった……しかし、そうすると何故ジャンクリィ王国が領地拡大をしているなどという噂があったのか……」

 「その話は後にすべきだ。私達も手伝うべきだと思う」


 女の子がそう言うと他の人間も頷いて答える。


 「ですね。まだ疑惑は晴れませんが、今の戦いで彼等は後ろから斬りかかるような真似はしないかと思います」

 「魔物の調査も兼ねて来たのです、手伝うか、せめて手を出さない形にすべきです」

 「ぐぬぅ……」


 まともな意見が出るところを見ると、このおっさんが一人で暴走した感があるな。

 実際、最初に仕掛けてきた時はそれほど本気を感じはしなかったからどっかで止めるつもりだったのかもしれない。

 なら最初から止めてくれよと思うが、向こうにも事情があるのだろな。

 おっさん面倒くさそうだし。


 「……後で話を聞かせてもらう。我らはジャンクリィ王国と共同戦線を張る」

 「承知しました」

 「では行軍開始。一気に崩すぞ!」


 向こうは指針が決まったが俺は別の疑問が頭にあったのでオーフへ声をかける。


 「なあ。これだけ騒いだのに魔物がだんまりなのはおかしくないか……?」

 「ん。確かにそうだな……血の匂いで集まってきそうだよな? ま、今はゴブリンが先決だ。今の内に終わらせようぜ」

 「オッケー」


 ……と返事をしたものの嫌な予感は拭えないな。


 そして俺の予感は的中することになる。

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