186.いきなりの衝突


 頂上にて一泊し、また半日かけて下山。

 山頂は寒かったけど、下るにつれてじわりとした暑さを感じ始めた。

 日本の梅雨開けくらいから夏にかけての湿度が強い状態と言えばわかるだろうか。


 「同じ大陸なのに山を越えただけでここまで違うものなのかな……」

 「北の大地も急に雪景色になるから、こんなものだと思うぞ。山が風の流れを遮断しているからかもしれんな」


 爺さんはタオルで汗を拭きながら俺に言う。

 まあ異世界だし、赤道がどうのみたいな説明よりかは魔力的ななにかがあると思った方が理解しやすいのかもしれない。『目の前にある事象』が幻ではない限りそうなのだから。


 そんな調子で蒸し暑さを感じつつ、最初の町へと到着。

 道中、砂漠ならではの魔物と戦いながらだったが、こっちは相当数の人数で行軍しているため難なく倒すことができていた。

 

 「夜になると冷えるな……砂漠だなマジで……」


 日が暮れてくると今度は急激に温度が下がり、行ったことはないがサハラ砂漠がこんなのらしいよな。

 そこでロレーナが俺にマントを肩からかけてくれた。


 「マント使う? わたしは初めて来たけど面白いわね。家は殆ど石でできているし、日焼けしまくっているからみんな色黒だわ。というかお風呂入りたいー!」

 「これだけ居たら宿も取れるかわからねえし、野宿かねえ」

 「アルフェンは絶対宿に寝かせるからな。ワシの名誉にかけて」

 「いいよ、そんなところで名誉使わなくても。っと、イーデルンとオーフの話が終わったみたいだな」


 ジャンクリィ側の先導者はオーフなので、責任者として話を聞いていた。

 ただの冒険者って感じじゃないんだよなオーフって。フェイバンと仲がいい、というだけでは説明がつかない気もするが……。


 <あ、お二人の話が終わったみたいですよ>

 「うーん……オーフに話を聞くか」


 イーデルンと顔を合わせると殴ってしまいそうなので、俺達はオーフの下へ。

 ジャンクリィ王国の兵士と騎士に混じって話を聞いてみると――


 「いやあ、面倒くさいことになってきたぜ。ここから先は用事のある人間だけで来いとよ」

 「どういうことだ? まさか国王と交渉する人間だけで行けってことか?」

  

 オーフの連れていた騎士が訝しんで口を開くと、


 「ああ、護衛は10人以下。そうでなければ交渉のテーブルにつかないって話だ」

 「無茶を言いやがるな、おい」

 「要するにそれが嫌なら来るな、ということだろうな。よほど戦いがしたいとみえる」

 「マジかよ、望むところだぜ」


 ディカルトだけノリ気だが、俺達は疑問と困惑の表情で黙り込む。

 国力差が相当あるにも関わらず、交渉にはつかないとなれば理由はいくつかある。

 

 ・交易がなくとも自給自足でやっていける。

 ・意地を張っているだけ。

 ・ガチで戦争をして勝てると確信している。


 で、恐らくガチで戦争をして勝てると踏んでいるのだろう。

 交易がないと木も手に入らないし、食料事情も厳しい。肉が取れそうな魔物は出てこなかったし、野菜もいいものが取れるとは思えないからだ。


 「本気でやる気みたいだな。にしても急にどうしたんだろうな。直近の国交ってどうだったのか気になるな」

 「確かにそうよね、去年とかそんな話なかったじゃない?」

 「ワシが将軍をやっていた時は特に揉めているようなことは無かったな。国王と謁見したこともあるが、気さくな方だった」

 「なにか心変わりしたってことかねえ。ま、偉い奴にはよくあるこった」


 ディカルトがそう言って締めるが、さてどうするの部分が浮いてしまう。

 護衛を少なくして行くのか、それとも引き返すのか。

 そこでイーデルンが俺達のところへやってきた。


 「オーフ殿、ジャンクリィ王国はどうされる? 我々は一度引き返そうかと思うのだが……」

 「あー、そうですか。俺達はこのまま王都へ向かおうかと思っています。トンネルを開通させないと面倒ですからねえ」

 「そ、そうか……」

 

 ジャンクリィ王国はオーフとロレーナ、他8人で対応するらしい。

 ただ、このままライクベルンが引き返すなら俺はオーフについていこうかと考えている。


 だが――


 「ライクベルンも行けばいいではないか。誇り高きライクベルンの将軍が言いなりになって戻るなど笑いものぞ」

 「ア、アルベール殿……」

 「お前も将軍なら覚悟を決めよ。無論、ワシもついていくぞ」

 「くっ……そ、そうですね、では申し訳ありませんがアルベール殿、同行をお願いします。他はディカルト、貴様も来い」

 「へいへい、言われなくても行きますよっと。ただ忘れて貰っちゃ困るぜ、オレぁもうあんたの部下じゃねぇからな? 今はアルフェン坊ちゃんの犬です」

 「うるさいよ!?」

 「ぐあ!?」


 なぜか俺を抱きかかえて真顔になるディカルトにかかとで顎を攻撃して地上へ降りると、俺もイーデルンへ言う。


 「爺ちゃんが行くなら俺も行くよ。こっちの二人とは知り合いだし」

 「わ、分かった。ではそれを踏まえてメンバーを募る」


 俺と爺さんの顔を見て一瞬、嫌そうな顔をしたがすぐに踵を返してライクベルン側の騎士と兵士に声をかけていた。

 あんなのが将軍ねえ、副隊長をしていた時の方が生き生きとしていた気がするけど、俺と爺さんに嫌がらせをしてまで守る地位……本当にあれで幸せなのかねえ?

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