187.大陸に思いを馳せて


 「……明日からサンディラス王都を目指す。ライクベルンの者はここに残って私が帰るまで待機だ。宿代は証明書をもらっておけよ。それと数人は国へ戻って陛下に現状を報告。メンバーは任せる」

 

 というわけでイーデルンの指示の下、ライクベルンの騎士や兵士は精鋭を揃えてこの町に留まることになった。

 俺と爺さん、ディカルトにイーデルン、それと数人の騎士。

 ……まあ、イーデルン派ってやつらしいとはディカルトの弁だ。


 ジャンクリィ側はオーフ・ロレーナと3人だけ連れて行くらしい。あんまり多いといざという時に動きにくいからだとか。それでも他に指示を出していたみたいなので、作戦はあるようだが。


 そんな感じであまり歓迎されていない今、先が気になって夜に『ブック・オブ・アカシック』を開いてみると――


 ‟今の国王は戦争をしたがっているからヤツを止めろ。……できれば前王を探して対峙させることができれば自体の収束は早いかもしれない”


 ――ということを教えてくれた。

 渋々って感じではあったが、死人が出るのは避けたいということと、リンカをここに連れてきていないことがこの先の未来に繋がるとか言いだして予言してくれたわけである。

 ちなみにもしここにリンカがいたらどうなっていたか? という問いには答えてくれなかった。


 まあ、連れてくる気はなかったし王都のお城で過ごしている限り俺も安心だから、今は彼女よりも目の前のことに尽力しよう。


 「イーデルン、将軍に坐するのであればまずは見本となるように働かねばならん。なにも為さずに戻るなど言語道断だからな」

 「くっ……は、はい……」


 イーデルンは爺さんに任せておけばいいか? 逆恨みされそうな気がするけど、牽制にはなるか。


 「くっく……追い落とした爺さんに説教食らうとはアホだねえ」

 「いいのかそんなこと言って」

 「構わねえよ。さっきも言ったがオレはもう部下じゃねえんだしな。一般人になってんだから言い返せばいいのに、それができねえのは小せえ証拠だぜ」

 「戦いばっかり求めてるお前には言われたくないだろうな……」

 「いいんだよオレぁアホだと認識してっから。おら、稽古するか稽古? 魔法ありでいいぜ」


 ディカルトの暑苦しい顔をとりあえず遠ざけて俺はオーフ達のところへ行く。ただでさえ暑いのにディカルトに構ってられないからな。


 「そっちも固まった?」

 「ああ、行くやつはもうオッケーだ。俺達が知っている顔だからこっちは問題ない。にしても……」

 「あいつがアルフェン君達を陥れた人間でしょ? だいじょぶ?」

 「まあ、爺ちゃんが居る限りは……って感じかな。戦って勝てる人はこの中に居ないだろうし、陛下もこの件は知っているから暗殺はしないと思うけどね」

 「お前が狙われないように注意しろって話だ。んじゃ、出発みてえだし行くか」


 というか撤退しようとして、進軍を促されたわけだからイーデルンの気持ち的に爺さんや俺どころじゃないだろうし、警戒だけしとく感じかね。


 そんな感じで麓の町を出発し、少人数になった状態でサンディラス王都を目指す。

 ここからは徒歩ではなく、ラクダに乗って進む。

 俺は爺さんと一緒に乗り、快適な旅行ライフとなっていた。


 「眠そうな顔してるなあこいつら」

 「元気なんだけどねー。そういえばアルベール様とアルフェン君、荷物は? 随分軽装だけど」

 「ああ、俺の収納魔法に全部入れているんだ。武具も全部あるよ。ほら」


 俺が爺さんの剣を空間からずるりと出したところで、横を並走していたイーデルンがぎょっとした顔でこっちをみていた。


 「あー、いいなあ。わたしも預かってもらおうかな。パンツとか」

 「お前のきたねえパンツなんざ入れさせんなっての」

 「……!!」

 「あぶ……!?」

 「気をつけろよ、スナザメって魔物が見える」


 ま、人数が少ない方が楽は楽、か?


 ◆ ◇ ◆


 ぽっくりぽっくりと眠そうな顔のラクダたちに揺られること二日。

 簡易コテージが大活躍した道中も終わり、俺達はいよいよサンディラス王都へと足を踏み入れた。

 ちなみに道中だが、麓の町から南西へ数百キロ……俺達は一路王都を目指す……って感じのドキュメンタリーができそうなくらい、夕焼けや朝焼けがキレイだった。

 

 で、俺が流された川の近くに王都はあった。ちょっとした崖になっているところもあるから、ウチ屋敷のすぐそばに川があるのはなかなかレアケースっぽい。


 「大きな町だね……ってでかすぎない?」

 「ここが一番の水場でもあるし、人が集まるからな。後はいくつか村や町もあるが、オアシスになっている場所くらいだろうな。人が多いからはぐれやすい、気をつけろ」

 「うん。オーフはどこ見ているんだ?」

 「ジャンクリィから伸びているトンネルの出口にも一つ町があったなって。後はもっと南にある大橋の前にもあるはずだぜ」

 「ああ……」


 川の向こうに目をやるとうっすら大陸が見え、恐らくシェリシンダかイークンベルだろうなと思う。

 もうちょっとで手が届きそうなのに、と、エリベールや双子のことを思い描く。一年経ったし、双子は大きくなったかな?


 「行くぞ、アルフェン」

 「あ、うん」

 <ちょっと残念ですね。双子ちゃんを見たいですよ>


 リグレットがそう口にして俺はもう一度川の方を振り返る。

 もし、この騒動が終われば大橋が開通したりしないもんか……


 「ま、そこはまた別の話か。……あれ?」


 前を向くとそこには爺さんやオーフの姿はなく、行きかう人々だけが目に入る。

 

 「あ、あれ? 爺ちゃんー。オーフ、ロレーナ! ……やば、はぐれた!?」


 忠告を受けていたのに、少し目を離した隙に人の流れに飲まれてしまったらしい。

 ま、まあ、すぐ見つかるだろ。さっきの今だし――

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