23.色々な意味での誕生日
「はーい、ごちそうができたよー♪」
「うわ、凄い!? カーネリア母さんはお料理が上手いんだね」
屋敷に帰ってから数時間。
俺は料理ができる間、部屋でリグレットと話しながら時間を潰していた。
手伝うといったが、カーネリア母さんは今日はゆっくりしろと言ってさせてくれなかったのだ。
とりあえずリグレットと分かったのは、まずこいつが驚くほど淡泊なヤツだということ。
<アル様がやること以外に興味になるものはありません>
と、信者みたいなことを言っていた。
まあ、いつの間にか俺の『中』に生まれていたらしく、自分のことが良く分からいのが本音みたいだったけどな。
リグレットが理解しているのは二つ。
【
【
という、この世界には似つかわしくない【スキル】のこと。
しかし発動条件は不明、効果も不明。
リグレット曰く『その時』が来れば分かるのだそうだ。役に立たない。
<今なにか不穏なことを?>
役に立たないけど、正体不明の力をおいそれと使うほど大胆な人生は歩んでいないので、これは保留でいいだろう。
なので、リグレットは本格的に役立たずというわけだ。
……名前からして、右腕の方はやばそうだしな。
<お返事を?>
それはともかく今は誕生日のお祝いをしてくれるカーネリア母さんと過ごそう。
目の前には立派なローストチキンに、ピザ、サンドイッチに大森林の家から持ってきた野菜たっぷりのスープが並ぶ。
母さんはお菓子が得意だったけど、カーネリア母さんは身一つで生活していたから料理が得意のようだ。
<しくしく……>
「もう、喋れないんだから察してよ」
「ん? どうしたのアル?」
「な、なんでもないよ」
頭の中でわざとらしく泣くリグレットに言及し、カーネリア母さんに両手を振ってなんでもないアピールをする俺。まったく、部屋で説教だな:
「ならいいけど。さ、どんどん食べて大きくなるんだよ。お誕生日おめでとう、アル」
「うん! カーネリア母さんもおめでとう!」
「……!」
「わぁ!? ソースが服についちゃうよ!?」
「ふふ、他人のあたしを『母さん』って呼んでくれるの、本当に嬉しいよ。明日からは魔法の授業をしようねえ」
いきなり抱きしめられて驚く俺に、優しい顔でそんなことを言う。
よほど気に居られたなあと思っていると、来客を伝える魔法のベルが聞こえて来た。
「……来たかしらねえ」
「来た?」
「ちょっと待っててねアル」
カーネリア母さんが微笑みながら玄関へ向かい、やがて人を引き連れて戻ってくる。
「――大森林で迷子になっていた子を保護したのか」
「そうだよ。知っての通り、あたしに子は宿せないからね」
金髪イケメンの男性とカーネリア母さんがなにやら神妙な顔で俺のことを話していたようだ。あの赤い鎧から発されていた声と同じなので、どうやらこの人が旦那さんか。
俺は椅子から降りて二人の前に立つと、お辞儀をして男性に挨拶をする。
「こんばんは。さっきお会いしましたよね?」
「こんばんは、アル君だったかな? 分かるのかい?」
「はい、声でそうだと思いました!」
「……なるほど」
「五歳にしては賢いことを言うだろう? いや、今日はこの子の誕生日なんだから六歳だね」
カーネリア母さんが俺を抱っこして得意気に言うと、男性は顎に手を当てて俺をまじまじと見つめながら口を開いた。
「確かにな。声色で判断できなくはないが、兜の下からだとくぐもって聞こえるからよく気づいたな。おっと、それより自己紹介だ。俺はゼルガイド。ゼルガイド=フォーゲンバーグだ、よろしくなアル君」
「はい!」
抱っこされたまま握手をすると、にっこりと微笑んで頭を撫でてくれた。真面目な顔はキリっとしてカッコいいけど、笑顔はとても優しいなと感じた。
カーネリア母さんが俺を椅子に座らせ、二人も着席するとゼルガイドさんが肩を竦めて口を開く。
「誕生日ならなにか買ってきたんだけどなあ」
「はは、知らないなら仕方ないよ。それより、食べていくかい?」
「ああ、話をもう少し聞きたいし、なにより君の手料理を食べたかったからなにも食べていないんだ」
「なにも無かったとは思わないの?」
「アル君が居て食事を用意しないはずはないからね。それじゃいただこう! アル君、誕生日おめでとう!」
「「「かんぱーい!」」」
それぞれジュースと酒が入ったグラスをカチンと合わせて食事の続きが始まった。
ゼルガイドさんにことの経緯を説明すると――
「うう……苦労をしたんだな……」
「生きているだけでも幸運でした。ただ、両親の仇はいつかきっと……」
「復讐に身を任せるのは危ういが……」
「ゼル、それは言いっこなしだよ。言って納得できるようなものじゃないのは……分かるだろう?」
「……」
ゼルガイドさんはゼルって呼ばれているのか。確かに呼びやすいかも。
それにしてもカーネリア母さんの言葉には重みがあるな……過去になにかあったと考えるべきか。俺のが復讐を口にしても止めろとは言わなかったんだよな、そういえば。
そんなことを考えながらやりとりを聞いていると、ゼルガイドさんが急に俺の肩に手を置いて俺に言う。
「……よし、なら今日から俺がアル君……いや、アルの父さんだ!」
「えー!?」
「くく、そういうと思ったよ」
――白蓮暦1189年。
六歳の誕生日に俺は新しい両親を得ることになった。
これが吉と出るか? それはまだ、俺にも分からない――
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