29.問題点
「それで、アル。君は大森林で拾われたことは聞いたが、どこから来たのか教えてくれるかな?」
「あなた、この前6歳になったばかりですし、いいのでは?」
「そうだよ父さん、自宅が賊に襲撃されて川で流されたって話はしただろう?」
「それはそうだが、再婚した以上ある程度は聞いておきたい。孤児院があるだろう」
「あなた!」
うん、まあこうなるよなって感じでリビングのソファにカーネリア母さん達の間に座らされている俺に説明責任を訴えるベイガン爺さんと、対立するゼルガイド父さんと……意外だけどモーラ婆ちゃん。
なんかよく分からないけど俺がなんかしたからカーネリア母さんに子供ができると信じてくれているのと、俺自体が可哀想で可愛いらしい。
さて、ベイガン爺さんの言うことは分からなくない。
で、脛に傷があるわけでもないので話すことに抵抗は無い。むしろ、この貴族一家なら爺さんのところへ送り届けてくれるかもしれないしな。
「えっと……カーネリア母さんには話したんですけど、僕の名前はアルフェン=ゼグライドって言います。ライクベルン王国のイオネア領に住んでいました」
「ん? ゼグライド……だと?」
「え!?」
ベイガン爺さんとゼルガイド父さんが反応を示すが構わず続ける俺。
「先日、住んでいた屋敷が強襲されて両親は目の前で黒い剣士に殺され、僕は追いつめられましたが、メイドのマイヤと一緒に川へ飛び込んでここへ……」
「よく生きていたよ、本当に……」
カーネリア母さんが半泣きで俺の頭を撫でてくれる。
あとは復讐のため、いつか必ずここを出ていくから安心して欲しいことを言うだけだと思っていると――
「ライクベルン王国で……ゼグライドの姓……ま、まさか……」
「気づいたかゼルガイド。アルの祖父はアルバートではないか……?」
「あ、うん、そうですよ。知っているんですね?」
俺がそう言うと、男二人の顔が一瞬で青ざめて頬を引きつらせる。
やっぱ将軍だから、騎士団長の耳には入るんだろうなあ。
「なんと……!? あの‟デスアッシュ”と呼ばれるアルバート将軍の孫!?」
「”天然の魔人”とも言われているあの冷徹なる悪魔の!?」
酷い言われようである。
確かに強いけど、そこまで言われては俺も反論をしなければ気が済まない。
「他の国だと色々言われてるんだ? だけど、僕には優しいお爺ちゃんだから変な名前を付けないで欲しいかな」
「い、いや、申し訳ない……あまりにも驚きが……」
「あ、一応証拠は出した方がいいかな?」
部屋に戻ってカバンにある家紋がついたものが無かったか探そうとソファから降りると、カーネリア母さんに掴まった。
「いいよ、ちょっと驚いたけどアルはアルだからね。それでお義父さん、これで満足ですかね?」
「う、うむ……それは恐ろしいくらいに……となると、アル君は国に帰るべきだが――」
「帰れるの!?」
カーネリア母さんには砂の墓場は通れないと言っていたけど、もしかしたら橋が直ったとか!
そう思ったが、力なくベイガン爺さんは首を振って口を開く。
「……それは難しい。壊れた橋は徐々に復旧しているが、派手に壊されたから後五年はかかるだろう。その後は砂塵族との交渉、それでうまくいけばようやくというところだな」
「やっぱりだめなんだ……せめて手紙で無事を知らせたいけど……」
「手紙を出して届くにはかなり時間を要するが、出さないよりはいいだろう」
それでも、到着までに三か月くらいかかるそうだ。
イークベルンがあるフィットナ大陸からライクベルンがあるカイラーン大陸へ行くには橋を渡り、砂の墓場を通るのが近道。
だけどそれが無い今は大森林を抜けた先にある港から船で大陸へ行くしかない。
厄介なこともいくつかあり、大陸同士は大きな川で分断されているのだが川の流れが急流な場所が多いため、川に船を出せないところだろう。
一度海まで出てしまえばというところだが、港のある町はやはり大陸の端なのでそれなりに距離がある。
そこから戻ればいいんだけど、爺さんの居るライクベルンの城がある場所から港までがまた遠い。
行商人様ありがとうってくらい他国との交易は近場しかできないのである。
そうそう、あの本で地図を調べたところ、ライクベルンとここの直線距離で800kmくらいありそうな感じだ。
日本の本州が1200kmくらいだからまあ結構離れている。
「……とりあえず手紙を書くよ」
「そうだな……。送り届けてあげたいが、港のある町は国境を越える必要があってな、ツィアル国がどうにも怪しい気配をだしているのだ」
以前カーネリア母さんが言っていた「キナ臭い」の部分だな。
「身分がバレてライクベルン出身のアルが国の交渉材料にされるかもしれないからなあ」
「あたしは嫌だよ! アル、無理しないで大きくなるまで一緒に暮らそう? 無事を知らせたらきっと安心するから、ね?」
「うん」
どちらにせよ動くには体が小さすぎる。
すまない爺さん、もう少し待っていてくれ――
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