19.カーネリア母さんの事情
そんなわけで、生き残りをかけたサバイバルになると思っていたが運良く拾ってもらい家族として行動することになった。
この大森林に引き籠っていたカーネリアさんはこの家を引き払うからと片付け始めたので手伝いながら質問を投げかける。
「カーネリアさんと喧嘩した旦那さんはどんな人なの?」
「んー、悪い男じゃないよ私もまだ好きだしね。だから町へいつでもいけるここに家を作ったの。どちらかといえば旦那の親が煩かった」
「そうなんだ……ウチは仲が良かったから、残念だね」
「あはは、生意気言うねこの子は。えっと、いくつになるんだっけ?」
「僕は五歳で明後日で六歳!」
「かわいい盛りだよ。あ、その鍋をカバンに入れてくれるかい?」
「うん」
いいところの坊ちゃんとかなら跡継ぎができなければ家が潰れてしまうのでありそうだ。これは異世界に限らず、大企業なんかでもそうなので、姑が嫌味を言うなどは茶飯事だった。……金を稼ぐために色々やったなと今更ながら思う。
「ま、あたしの体のことだから仕方ないよ。それでもいいと言ってくれたけど、申し訳ないから身を引いたんだ。それが気に入らないと喧嘩になったんだけどね」
「いい人だったんだ」
「まあね。多分一回くらいは会うかもしれないね、町にいるから」
気まずくないのかと思ったが、その表情は明るい。もしかしたらカーネリアさんも会いたいのかもしれないな。
「そういえば今日が誕生日なんだよね、カーネリア母さんはいくつ?」
「こら、気安く女性に年齢を聞くんじゃないよ? あたしは今年で152歳だね」
「え!?」
さらりと流せない歳を聞いて俺はコップを取り落としながら振り返ると、得意気に笑っていた。
「ふっふっふ、あたしはハーフエルフなんだ。生きている時間は長いけど、人間換算で25歳くらいだね。まあ、これが旦那の親に嫌われている理由でもあるんだけどさ」
「な、なるほど……」
いきなり異世界にありそうな種族に拾われたのか俺は……。
確かにエルフやドワーフと言った亜人種は本で居ることは知っていたけど、あのまま屋敷で過ごしていたら恐らくもっと大人になるまで会わなかったと思う。
そういやゲームなんかじゃエルフって魔法が得意なんだよな。
「カーネリア母さんはやっぱり魔法が得意?」
「うんうん、だから学校に入る前にいっぱい教えてあげるよ。あたしが出来る範囲ならね。さて、荷造りは終わったし魔法の話をしながら行こう」
「うん」
……とはいえ、結構な荷物になったけど大丈夫だろうか? 一人暮らしの荷物なので、現代人に比べれば少ないけど布団などもまとめてあるのだ。
俺がそんなことを考えていると、その考えを見透かしたようにカーネリア母さんがウインクをして荷物に手をかざした。
「『収納せよ』<フリースペース>」
「あ!」
魔法を使った瞬間、カーネリア母さんがかざした手と荷物の間に空間が現れ、そこに荷物がスッと吸い込まれて消えた。
「すごい! これならなんでも持ち運べるね」
「いい反応だわ♪ 子供は素直でいいわ。アルの荷物はいいの?」
「僕はまだ身に着けておきたいんだ。最後の思い出だし」
「……そうだね。立派な剣だけど、それもアルのかい?」
「逃げるときに持ってきたんだ。大きくなったら使えるようになるために」
本当は拾ったものだけど、前世の相棒なので俺のということでいいだろう。
「剣か……あの人なら……」
「え?」
「ううん、なんでもない。さ、行こうか」
笑顔で手を差し出してきたカーネリア母さんの手を握り返して歩き出す。
「それにしてもあっさり家を空けるとは思わなかったよ」
「エルフって種族は放浪癖があるんだ、あたしも例外じゃない。大森林にはいくつかエルフの村もあるけど若い連中ほど一度は外の世界に出て行くね。あたしはこの国を30年位かけて回ったけど、他の国にも行ってみたかった時期があるし」
「ふうん、エルフって放浪癖があるんだ」
「長生きするから、一つのところに留まりたくないって思うのかもね。子供が出来たらだいたい定住するんだけどさ」
そんな話をしながら森を歩いていく俺達。
近いと言っていたが、何気に一日キャンプを挟んでから町へと辿り着いた。
……作ってくれた干し肉をパンで挟んだサンドイッチと野菜スープは本当に美味しかった。寝るときは毛布にくるんでずっと抱いてくれていたカーネリア母さんは本当に子供が好きなんだと感じた。
恩返しは必ずいつかしよう。そう、思った――
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