219.混迷を極めて行く
「おお、これはライクベルンの! どうされたのですか? 姫様に会いに?」
「違うよ!? ちょっとジャンクリィ王国まで行くんだ」
「はて、こちらからでは遠回りになると思いますが……」
「ちょっと野暮用でな。通してくれ」
「もちろん問題ありませんが……なにかあったんですか?」
見知った顔の兵士が訝しんでくるが、爺さんがやんわりと声をかけると、質問を投げかけてくる。
『他国が動くと面倒だから俺達がここを通ったことをマクシムスには言うなよ』
「わ、わかりました……」
ギルディーラの雰囲気にただ事ではないと悟った門番はそれ以上口を開くことなく通してくれた。
実際、サンディラス国へ救援を呼び掛けてもいいと思うけど『ブック・オブ・アカシック』曰く‟そこは予測できない”と言うので下手なことはしない方がいいだろう。
俺達は進路を南東へ取り、ジャンクリィ王国へ繋がるトンネルを目指す。
以前はあたり一面が砂だったけど今は緑もチラホラあるので馬でもそれほど足を緩めずに走ることができるのはありがたい。
「ブルベエェェ」
「お前は元気だなあ」
ペロの首を撫でながら苦笑する。言うことを聞いてくれる優秀なペットで、情も移っているから結構かわいい。
さて、それはともかく国境を越え、途中にある町で一泊し、二日ほどかけてトンネルへ。
初めてきたけど思ったより整備されていて、山をこれだけ繰り抜いた労力は計り知れないと感じた。
「ひんやりしていて涼しいな……。それにこれだけの穴をよくくり抜いたもんだよ」
「交易は国の為になるから、当時の人間も必死だったのだろう。何十年とかかってもやり遂げたことが凄いのだ」
「うん」
前世での復讐もそうだが諦めないことが重要で、結果はいずれついてくる。
なにをやるにしてもそうだけど慌てても仕方がないのだ。今回の黒い剣士もその一つだと思う。
そしてジャンクリィ王国へ辿り着いた――
◆ ◇ ◆
「報告します。三日前、ライクベルンから我が国を救った英雄が通ったようです」
「ん? アルフェン君がか?」
「はい。アルベール将軍とギルディーラ殿、それとお付きの男が」
「ああ、水神と戦った時に奮闘した彼か……。しかし、こちらには来ておらんぞ」
ディカルトの名は忘れられていることに苦笑しながらマクシムスは首を傾げる。
この国へ来たらいつでも立ち寄ってくれとも言ってあるので訪問してこないのはおかしいと。
「なにやらただならぬ雰囲気でジャンクリィ王国へ向かったと聞いております。なにかあったのでしょうか?」
「うーむ、なにも聞いていないからな……」
「パパ、今アルフェンの名前を出さなかった!?」
「お前、部屋に居たのではなかったか?」
玉座近くのドアからダーハルが興奮気味に顔を出し、呆れた声を出すマクシムス。
とりあえず現状を話すと、眼鏡の位置をなおしながら口を開く。
「ジャンクリィ王国へ行く理由がなんなのかが分からないけど、面子が物騒だ、ここと同じようなことがあったのかもしれないよ」
「水神レベルの災害か?」
「恐らく。旅行ならライクベルンの国境を越えればいいだけだもの。考えられる原因としてはライクベルンから追われているか、国内の主要拠点を抑えられたあたりかな」
意外と冷静に判断するダーハル。
頼る人間が居ないと暴走するが、元々頭は良いため、分析はできていた。
「ボク達も追って話しを聞いてみるべきかもしれない。恩を返すチャンスが早まったと思えばさ」
「うむ。では、アルフェン君を追うためジャンクリィ王国へ数人ほど派遣しよう」
「はーい!」
「姫様はちょっと……」
「なんでだよ!? いいじゃないか、好きな人に会いに行……アルフェン君のピンチかもしれないし」
「いえ、彼がピンチになる状況なら、姫様は足手まといになるのでは、と」
「ハッキリ言うね!?」
「まあまあ。まだ予測の段階だ、まずは会って話をしてみるべきだ」
マクシムスはそう言って部隊編成の指示を出す。
『ブック・オブ・アカシック』の予測という歯車はすでに大きくずれていた――
◆ ◇ ◆
「到着……!! 久しぶりだな、この町も。お前のせいで一回戻ってくることになったんだよな」
「ああ、国境の話か。命令だったから許してくれよアル様」
「悪びれた様子もないな……。まあ、ディカルトはそんなもんか」
くっくと笑うディカルトの足を蹴飛ばしながら周囲を見渡す。
少し前の話だけど懐かしさを感じるなあ。
あの時はたまたまオーフ達が居たけど、さすがにいないか?
「わー、変な動物ー」
「首が長ーい!」
「おう!?」
立ち止まっているといつの間にか子供たちが集まってきてペロを物珍しそうに見ていた。ラクダはサンディラス国にしか居ないみたいだし確かに珍しいな。
「お兄ちゃん、こいつなんなの?」
「ラクダっていう動物だ」
「変な顔!!」
子供は容赦ない。
しかしこう群がられると移動できないな……
「……よし、ペロ。挨拶をしなさい」
「ブルベエェェ!!」
「うわ!? 鳴いた!」
「こわーい!!」
聞きなれない鳴き声に子供たちは蜘蛛の子を散らすかのごとく逃げて行った。
ダミ声みたいだから初めて見たら確かに怖い。
「さ、それじゃ港町に続く門で待機していようか。イークンベルの一家を待つならそこがいい」
『はっはっは、子供の扱いが慣れているな』
「まあ、それこそ今から来る双子には手を焼いていたからね」
ペロを歩かせながらギルディーラに答えていると――
「変な生き物だー!」
「だー!」
『双子か、その子達みたいな感じか?』
「え? ああ、そうそう――」
また子供が近づいてきたらしいので遠ざけようとしたところで、俺は気づく。
見慣れた頭を。
そして――
「この子なんていうの! ……あ!!」
「あ!?」
「「アル兄ちゃんだぁぁぁぁぁ!!」」
――俺を見上げた顔はよく知った顔だった。
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