97.侵入、ツィアル国の王都


 「うおおおお!?」

 「そろそろ慣れてくれアルフェン」

 「んなこと言っても後ろって怖いんだぞ!?」


 屋敷を出発して一日。

 キャンプを経て、再び馬に乗って走っているがあまりの速さに目を回す俺。

 

 あれだ、バイクの二人乗りで後ろに乗っていると自分でハンドルを握れないから命を預けているだろ? 俺は自分で操作できない乗り物に乗るのは割と怖いのだが、その数倍の恐怖があるのだ。馬怖い。


 「ぶるる……」

 「ああ、お前が怖いってわけじゃないんだジョニー」

 「そんな名前だったか?」

 「知らない。よし、落ち着いた。行こうか」


 馬の首に抱き着いて水を飲んだら落ち着いたので俺は屈伸しながらグラディスへ言う。すると、グラディスが顎に手を当てて口を開く。


 「前が見えないから怖いのかもしれないな、今度は前に座ったらどうだ?」

 「あ、いいかも。背中がくっついていたら安心感あるんじゃないかな」

 「ではそれでいこう」


 グラディスが俺を抱っこして鞍の前の方に乗せてくれ、グラディスもサッとまたがる。なんだかんだでイケメンなので様になる男だ。


 「鞍を掴んでいろよ、ハイヤー!」

 「シルバー!」

 「なんだそれは?」

 「知らない」


 とりあえず調子に乗っていると思うかもしれないが、乗馬の恐怖はノリで誤魔化すしかないのである。


 「うおおおおお!? こっちの方がこえぇぇぇぇぇ!?」

 「大丈夫だ、俺に寄りかかっていろ」


 あらやだ逞しいですねグラディスさん!

 

 「あああああああああああああ!?」


 俺は慣れない乗馬を、存分に、楽しんだ――



 ◆ ◇ ◆



 「魔人……か? 冒険者だな。珍しいじゃないか」

 「まあ、この子の付き添いでな」

 「こっちは人族か? 拾い子? 随分ぐったりしているが……」

 「冒険者になると家を飛び出して来たらしい。危なっかしいので付いている」

 「ふうん、物好きな坊主だな。通っていいぜ」


 あれから二日。

 ついに俺達はツィアル国の王都に――


 「おろろろろろろ……」

 

 ――王都についた安心感からか嘔吐してしまった。

 キャンプで睡眠があまり良くないし、随分揺られたから勘弁して欲しい。


 「うわ!? おい、大丈夫なのか?」

 「すまん。馬に慣れていないんだ。アルフェン、おぶってやるから水で口をすすげ」

 「あ、ありがとう……」


 門番にしかめっ面をされながら俺はグラディスの背に乗り、身体を預ける。

 ようやく敵地に入り込んだのに、緊張感もクソも無いな……


 <うう、おいたわしやアル様……>


 馬鹿にされている気がするな……

 まあ、それはともかくツィアル国の王都、その城下町に足を踏み入れた俺はボーっとする頭を動かしながら街並みを確認する。


 イークンベルの町とさほど変わらない人通りと店が並んでいるのが見えた。

 ……逆に言えば他の町が寂れているのに、ここだけ別の世界みたいな印象だな。


 通りにある噴水にベンチ、治安維持に徘徊する兵士、露店に呼び込みととにかく賑わっている。


 <港町と凄い差ですね>

 「と、とりあえず宿に……」

 「そうだな」

 「……城か。連れ去られた子供達はあそこに居るのかな?」


 ヒデドンの娘さんのことも気がかりだが、生きているかは微妙なところだ。

 オリィもどうなっているかも、本は教えてくれていないから、急ぐ必要はある。


 が、このまま城にこんにちはと行くわけにもいかない。

 ちなみに侵入するにはギルドで大きな依頼を受けて、謁見を受けた後に城で泊めてもらうというプロセスが必要だという。


 「……とりあえず休息だな」

 「ああ、もう少し我慢してくれ」


 グラディスがゆっくりと馬を引きながら町を歩き出す。

 装備も買っておいた方がいいかもしれないなと思いつつ、店先に並んでいた装備の大きさと金額の高さに目を回しつつ宿へと到着。


 「魔人族か、珍しいな。揉め事は起こすなよ?」

 「ああ」

 「ふん、人族の子供と一緒に冒険者か、なにか企んでいるんじゃないだろうな……」


 しかし、宿の店主であるおっさんがやたらと煽ってきたので俺はグラディスの背中から抗議の声を上げる。


 「おい、なんてこと言うんだ! グラディスは俺を助けくれた恩人だぞ」

 「坊主、騙されるなよ? こいつはどうか知らんが魔人族は子供を攫うって話だ」

 「こいつ……! 宿を変えよう、グラディス」

 「他の宿は泊めてくれんと思うぞ。大人しく泊まっていけ。……言い過ぎたな、すまなかった」

 「え?」

 「坊主がそれだけ怒るなら、こいつはきちんとしたヤツなんだろうと思ってな。鍵だ」


 おっさんは気まずいというかバツの悪いというような顔で鍵を俺に渡して来た。

 部屋に向かう途中、グラディスがポツリと呟く。


 「……互い様だということは恐らくみな分かっているのだ。俺とて人を殺すし、人に殺される魔人も居る。誘拐もそうだ。どう取り繕っても、元凶を潰さない限り、人族と魔人族が警戒を解くことはないだろう」

 「だなあ……」

 <グラディスさんはこんなにいい人なのに、酷い話ですよ……>


 人間が始めた魔人誘拐。発端は人族であるなら、魔人たちの怒りは推して知るべしだ。

 まあ、魔人の方が力や能力が高いというコンプレックスがそうさせているのかもしれないが……。


 「ふう……ようやく地面が揺れないで一息つけるよ。ジョニーも馬房があって良かったし」

 「あいつはジョニーで決定なのか……。まあそれはいいとして、明日からの行動だな」

 「ま、ありきたりだけどギルドへ行ってから情報収集と依頼をこなそう。で、謁見を目指そう」

 「分かった」


いよいよグラディスと王都へ侵入した俺。

さっさと終わらせて、と言いたいところだけど、まさかの展開になってしまう――

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