96.集う前


 ――港町――


 アルフェン達がツィアル王都へ移動し始める少し前、グシルスはまだ港町の聞き込みを行っていた――


 ◆


 「よそ者と知ってかしらずか……ギルドもアテにならないなこりゃ。さて、そろそろ港町の聞き込みも限界かねえ」


 俺は外でタバコに火をつけながらどうするか考える。

 一番目撃者が多そうな港ならとあたりをつけて聞き込みをしてみたがまるで手ごたえ無し。

 実際、顔色すら変わらないので本当に知らないのだろう。ギルドに居る冒険者連中にも話を聞いてみたが、首を振るばかりだった。


 「どうしたもんかね……アル、死んだりしてねえだろうな?」

 

 一緒に過ごした期間は少しだが、あいつは強くて賢いと思っている。そんなアルが簡単に死ぬとは考えにくいがまだ10歳の子供だからなあ……

 もし死んでいたら、ツィアル国を攻めるだろう。そこで宮廷魔術師とやらを倒してエリベール様の【呪い】が解けて助かっても笑顔は戻ってこないだろう。


 「頼むぜ……マジで」


 とりあえず今日、有力な情報が得られなければこの町から次の町へ移動する予定で、最後だと思い、汚い町の一角へ足を運ぶ。

 

 「……治安は悪そうだが、子供はウロウロしているんだな」

 

 ホームレスみたいなのがあちこちに居るな。こういう場所は強盗やスリなんかが多いんだよ。

 うーん、おっさんと子供……どっちに話しかけるべきか。

 悩んだ末、俺はアルと同じ年くらいの子供に尋ねてみることにした。


 「やあ、少年。聞きたいことがあるんだが、ちっといいか?」

 「ひっ!? だ、誰か――」

 「おっとっと、怪しいもんじゃねえ。ほら、ギルドカードだ」

 「……ぼ、冒険者でも信用できないよ……僕、冒険者にさらわれたことがあるんだ」


 ……!

 いきなり手掛かりになりそうな子供を見つけたぞ!


 「誘拐か、確かに怖いな。俺も誘拐された子供を探しているんだ」

 「え? そ、そうなの?」

 「ああ。もう随分立つから死んでないか心配なんだが……アルって名前、聞いたこと無いか?」

 「! アル兄ちゃんを知っているの!?」

 

 驚く子供に、俺も驚く。こりゃビンゴ中のビンゴか!?

 一旦、深呼吸をして落ち着くと、そのまま距離を保って口を開く。


 「アルはアッシュブロンドの髪をしていて、そうだな……貴族っぽいいい服を着ていなかったか? 後は……そうだな、黒い剣を持っていたか」

 「うんうん! そうだよ、僕達を守ってくれたんだアル兄ちゃん!」

 

 僕『達』ね。

 どうやら誘拐はそれなりに日常茶飯事と見ていいのかもしれないな?

 それはともかく、アルと一緒に誘拐されていたならどこかに居るか?


 「間違いねえな……アルはどこにいる?」

 「えっと……それが……」


 がっくりを肩を落とす様を見てぎくりとする。だが、その後に続いた言葉はあいつらしいというか呆れるというか――


 「魔人の村に行ったって……よく生きてたな……」

 「みんないい人だったよ!」

 「んで友達は魔人の国に行って、アルは魔人と旅立ったと」

 「うん。僕は両親が居るからこっちへ帰って来たけど、アル兄ちゃんはやることがあるからって」


 あの馬鹿、もしかしてツィアル王宮へ行くつもりか? 魔人が居るとしても一国を相手取るにはいくらなんでも無理だ。

 ……いや、エリベール様を助けるなら宮廷魔術師だけを決め打ちすればとか考えているんじゃねえか……?


 「おじさんはアルのなんなの?」

 「あいつに死なれたら困る人間の一人ってところだな。アルは女を待たせているから連れ帰らないといけないんだ」

 「へえ! やっぱりアル兄ちゃんは凄いや!」


 拳を握り目を輝かせる子供に笑いかけていると、女性の大声が耳に入って来た。


 「ケント! あんたまたフラフラして!! こっちに来なさい!」

 「あ、ごめんなさいお母さん」

 「早く!」

 「大丈夫だよ、僕を助けてくれた子の知り合いだったから」

 「……そう」


 さすがに誘拐された直後なので母親はピリピリしているようだ。帰って来たのは奇跡みたいなもんだから無理もねえか。

 必要な情報は手に入ったし、ここは退散を決め込んだ方が良さそうだ。


 「はは。それじゃ俺は行くぜ」

 「うん。アル兄ちゃんに会ったらよろしく言っておいて欲しいな」

 「ああ。アルの手掛かり、助かったぜ、じゃあなケント!」

 「バイバーイ!」


 さて、と。

 乗合馬車みたいなものは無かったから徒歩か。いや、それだと遅い。

 幸い金はあるし、馬を買うのもアリかね。


 「おっと……手紙を出しておくか。一応、生きているのは確認できたしな――」


 俺は腰の剣をさすりながらほくそ笑む。絶対連れ戻すからな、姫様。

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