78.クズたちの宴


 「んー!」

 「むぐー……」

 「うああああん! おかあちゃーん!」

 「うるせえ!」

 「おい、やめろ! ……ぐっ!?」


 ガラガラとうるさいを立てながら進む馬車の荷台では俺を含めて五人の子供達が詰められていた。

 すでにあの港町を発っており、そこで都合四人の子供を誘拐し今に至る。


 積み荷のチェックも特に無かったため、俺達が連れ去られていることが判明することも無かった。


 「四人か、逃げられたのも多かったし仕方ねぇか」

 「一人、10万ルクスはもらえるから、ひと月は余裕ができるぜ」

 

 ごろつき達がほくそ笑む中、子供達は泣きわめく。

 猿ぐつわを嚙まされて声を出せない子も居れば、先ほどのように大声で泣いて蹴られたりしていた。

 一人を泣き叫ばせ、痛い目を見せることで大人しくさせる目的だろうがあまりにも酷い。


 中には双子と同じくらいの子供も居るので、誘拐されたと知った親が奔走する姿を思い浮かべて俺は歯噛みする。


 「クソ過ぎて笑えないな。よりによって小さい子ばかりを」

 「おお、ガキ。悪かったな、ちょっと大人の階段を登るには難しいガキばかりだったぜ。まあ、次の町に期待だな」

 「こういうのが好きな変態も居るだけどな?」

 「いやあ……!?」

 「止めろ!」


 俺と同じくらいの女の子のスカートをはぎ取ろうとしたので、俺はごろつきの顔面に蹴りをくれてやった。おお、いいところに入ったな。


 「てめぇ……カーランの荷物だからって黙っていれば調子に乗りやがって……!」

 「やるか……!」


 御者に一人取られているので、ここに居るのは三人。

 手は縛られているが魔法を撃てなくはないと、俺は立ち上がり子供達を庇うように立ちはだかる。

 屋根がタイプの荷台なのでこいつらは立ち上がれない。


 「<ウォーターウィップ>!」

 「うお!?」

 

 「こいつ! ……ぐあ!?」

 「黙っててくれ」


 スカートを剝ごうとした男を水の鞭で拘束し、続けて襲い掛かって来たもう一人の細身のおっさんの顎を屈伸の勢いで頭突きをして打ち上げる。

 俺はしっかり立てるから、威力は出せるのだ。


 「……ガキ、殺しはしないが痛めつけちゃダメだとは言われてねえんだぜ……!!」

 

 激昂して中腰のまま掴みかかってきた。

 俺はすぐに大将の手を払い、頭突きをかましてやる。


 「おう!? ……へっ、それだけか?」

 「っと……!?」


 だが、パワー負けしたらしく大将は一瞬怯んだがすぐに不敵な笑みを浮かべて俺の胸倉を掴んで引き寄せる。


 「くらえ!」

 「ふん、そんな力が入らない体勢の攻撃なんざ効かない……ぜ!」

 「ぐあ!?」


 俺は後頭部を掴まれ、そのまま床に顔面を叩きつけられた。

 鼻に冷たいものが伝わり、鼻血が出たのだと直感で思う。


 <アル様!!>

 「さて、お仕置きをしないとな! おらぁ!」

 「大将、俺にも殴らせてくれよ……!」 

 「ぐふ……!?」

 「知らないおにいちゃん!?」


 女の子が叫ぶのを聞いて手で制す。


 「ぐえ……!? この……!」

 「いてっ!? まだ元気だな、クソが! 船の時から生意気だと思ってんだよ!」

 「ぐあ!?」

 「お前等、騒ぐんじゃねぇぞ? このガキみたいになるぜ?」

 「あ、あああ……」


 戦慄する子供達。

 その間、俺は殴る蹴る暴行を受け続け、意識を失いかけたころ、ようやく終わった。


 「ふう……ふう……クソガキが……!」

 「う、うう……」

 「こいつ、そこの女のガキに色目を使ってたな、宿についたら目の前で犯してやろうぜ」

 「や、めろ……」

 「こりゃ楽しみだな」


 くそ、こいつらに目が行かないよう暴れたのにこんなことになるとはな。

 エリベールに回復魔法を教わってなかったら危なかった。

 あんまり治せないが塵も積もればってやつだ、あの子が襲われるまでには治療しておこう。


 ここで暴れても良かったが、町に着いた方が助けを呼びやすいので標的を俺だけにした。

 クソエルフのところまで連れて行ってもらおうと思ったが、話が変わった。

 子供達をなんとか逃がすところまで頑張らないとな――


 ひと騒動あったが、馬車は次の町までただひたすらに進む。

 俺は痛む体を横たえ、ひたすらマナを消費して傷を癒す。顔はバレるので、全身を少しずつだ。


 「だ、大丈夫……?」

 「にいちゃん、死ぬなよ……」

 「お、おう……お前等、助けてやるからな……もう少し辛抱して、大人しくして居ろ……」

 「う、うん……」

 「うわあああん……」


 俺の痛々しい姿に顔を歪める子供達。

 そこへ、酔っぱらった細身の男がぬっと姿を現す。


 「へへ、ガキ同士仲良く寄りそうってか? お前いくつだ?」

 「じゅ、十歳……」


 俺と同い年だったのか。

 体が小さいし、ガリガリだからもっと下だと思っていた。


 「ふん、ガキだな。おお、そうだ、お前の初めてはお前を守ってくれたこいつにやれよ、その後に可愛がってやる」

 「ひっ……」

 「汚い手で……触るんじゃねぇ……」


 女の子の肩に顔を近づけて笑う男の顔を睨みつけて言うと、不快感を露わにして酒を口に含み、俺の顔にぶちまけた。


 「うわ……!?」

 「消毒だ消毒。へっへっへ、早く宿に行きたいだろ? 次の町でもう少しいい女を攫うかねえ」

 「クソが……」


 俺は悪態をつくも、今はまだ我慢だ。

 宿についたら破滅させてやると心に誓い、黙って馬車で酒盛りをするごろつきどもを睨む。


 ようやく俺達に興味を失くしてくれたところで、女の子が困った顔で俺の顔を撫でながら口を開いた。


 「ありがとう……わたし、ニーナ」

 「俺はアルだ……ごほっ……よろしくな」

 「あんまり喋るなよ兄ちゃん」

 

 残りの子供は、

 ディアンド8歳、男の子。

 ハク4歳、女の子。

 ケント7歳、男の子。


 というメンツだった。

 次の町まではまだ二日ほどかかるようなので俺達の貞操は守られているが、どんどん遠くなっていくことに少々不安が残る。

 送り返す方法があればいいが。


 だが、その心配もあまり無いようで――

 

 「親御さん今頃心配しているだろうな」

 「あー、そこはどうかな。僕とニーナは両親が居ないから毎日ゴミあさり。ハクは飲んだくれの父親しかいないし、ケントは?」

 「ウチは両親揃ってるよ。あの町じゃマシな方だけど、いつディアンド君たちみたいになるかわからない」

 「この国、そんなに貧困なのか?」


 俺が尋ねると、ディアンド達は顔を見合わせた後、溜息を吐いて話し始めた。

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