153.ゴブリンとウォルフ族


 「ギガァァァ!」

 「俺よりチビなくせして力が強いな……!」


 襲い掛かってきたゴブリンの攻撃をいなして蹴りをくれてやると、そいつをオーフが背中から斬り伏せる。


 「それでもオーガやトロルに比べりゃ全然マシなんだぞ? アルフェンここは任せていいか? ロレーナを頼む」

 「オーフはどうすんだ!」

 「遊撃に回る! 最悪、獣人兄弟と一緒に逃げろ。なーんか嫌な予感がするんだわ」


 それは待ち伏せについてだろうか?

 さすがにこちらほど多くは無いが、それでも上から見て黒い塊がうごめいているのを見て息を飲む。

 それに他の魔物もなだれ込むように山から下って来たので完全に場は混乱した状況になっていた。

 それでも俺達はまだ冷静に対処している方で、コウやセロも戦いに参加している。


 「おらぁ!」

 「ギェ!?」


 コウはその辺の木を棍棒代わりにして力任せに殴り、


 「えい、えい!」

 「ブフォォ!?」

 

 セロは拳を大きな狼の手にしてゴブリンにワンツーを決める。

 ゴブリンと背丈はほぼ同じなのでキレイに決まっているな。

 あ、首が飛んだ……グロ……。

 しかしあのでかい肉球は興味深いな。クリーガーのはまだ小さいし、落ち着いたら触らせてもらおう。


 「きゅんきゅん!」

 「はいはい、大丈夫だって! <アイシクルダガー>!」

 

 肉球に関してのことか危険を知らせたのかそれは分からないが、クリーガーが俺の背中をぺちぺちと叩きながら吠える。

 左に目を向けると迫りくる4体のゴブリンが見えたので魔法を放ち絶命させ、そのまま回り込まれないように素早く後退して巨木を背にすると、追いつめたと認識したのかヤツらが一気に突っ込んできた。


 「まあ、そこそこ賢いってのは逆に罪なのかもな? 一か所に集まってくれて助かるぜ! はあああああああ!」


 すかさず射線上に誰も居ないことを確認してファイヤーボールをどこぞの格闘漫画のように撃ちまくりゴブリン達を直撃した。


 「「「ギャァァァ!?」」」

 「……人間じゃないといっても気分は良くないもんだな。おっと、ロレーナはどこだ?」


 数体のゴブリンを蹴散らした俺はコウとセロが危なげなく戦っているのを確認した後、周囲を見渡す。


 「ほらほら、こっちよー! ……よしよし、坂道を上がってくるスピードは遅いわね。みんなも居ないしこれならいけるかな」


 見れば近くで逃げ惑うロレーナを。

 彼女は目を忙しく動かしながら革袋を手にして駆け上がってくるゴブリンへ向く。

 そして革袋の中身……火薬を派手に空中へばらまいた。


 「うお!? マジかよ!」

 「だーいじょうぶよ♪ 『ゆるやかな風よ』<ウインド>」


 俺が慌てて急停止すると、ロレーナは風の魔法で火薬を風に乗せてゴブリン達へ向かわせる。

 意図が読めた俺はコウたちのところまで後退すると、ロレーナがニヤリと笑い、さらに魔法を紡ぐ。


 「『小さき原初の力よ』<ファイア>」

 「ギャァァァァァ……!!?」


 バックステップしながら火を放つとその直後、空気中に漂っている火薬に引火。

 エクスプロードを使ったかの如く爆発が起こり、ゴブリン達が爆ぜていき、血と硝煙の臭いがあたりに立ち込めた。


 エクスプロードなら俺も使えるが小規模で、ゴブリンの頭をぶっ飛ばすだけという範囲で爆発させたことが素直に凄いと思った。

 もしエクスプロードで俺が同じことをしたら木の何本かは折ってしまうだろうし、味方に当たるかもと考える。


 「よし、ゴブリン達が怯んだ! 流石は灰燼のロレーナだな、今の内に魔物を蹴散らすぞ!!」

 「「「おおおお!!」」」


 冒険者や兵士が雄たけびを上げて自らを鼓舞し、魔物へと向かう。その後を追うようにロレーナが動き出したので俺もコウとセロを引き連れて駆けだす。

 

 「行くぞ二人とも。もうひと踏ん張りだ」

 「ああ! ……お、この匂いは――」

 「兄ちゃん!」

 「? どうしたんだ?」


 二人が尻尾をピンと立てて色めき立つ。

 そして視線を別の方へ向けたので俺も倣うと、そこには犬耳をした獣人が魔物をぶん殴りながら突き進んで来ていた。


 「コーウ! セロー!! 無事かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「父ちゃんだ!!!」

 「こっちだよー!!」

 「おお! 息子たちよ!!」


 親父さんらしい。

 グラディスくらいでかい男が満面の笑みでこちらに気づくが、そこへ熊型の魔物が立ちはだかった。


 「うぬ……! ロックグリズリーか!」

 「あいつは硬い、援護をするぞ!」

 「大丈夫だぞ」

 「え?」


 コウが逃げるゴブリンに投石しながら軽く言う。

 すると親父さんは怯むことなくロックグリズリーへ突っ込み、鋭い爪を低く屈んで回避。そのままアッパーでかち上げてから自分も空中へ。


 「おお……!?」

 「貴様に恨みは無いが、息子との対面を邪魔するなら……くたばれ!」

 「グォォォン……!?」


 熊を逆さにして足を掴み、自身の足は熊の腕の付け根に置いてそのまま地面に首から叩きつけた。

 熊は自分の体重プラス親父さんの体重が首にのしかかったのでゴキリと嫌な音を立てて絶命する。


 「やったー! 父ちゃん強いや!」

 「セロぉぉぉぉ!!」

 <感動の対面ですねえ>


 コウとセロが親父さんと抱き合っているのを見てリグレットがほんわかと口にし、俺は苦笑する。

 まあ、親子が再会できたのは良かったと思いながら、あっちは大丈夫かとロレーナと合流し残りの魔物を倒しにかかる。


 「いやあ、ウォルフ族はやっぱ凄いわねえ。ほっ!」

 「あんなのでロックグリズリーを倒すとは思わなかった。ロレーナの活躍が一気に持って行かれたなあ」

 「ええー……折角頑張ったのに!」

 「ま、見ている人は見ているって」

 「そうだねー」


 別に悔しくも無さそうに舌を出して笑い、戦闘を続けること数十分。

 ようやく魔物は動かなくなり、残ったゴブリンも劣勢と見て退散していった。


 「お、終わったか?」

 「はああ……みたいね……」


 最終的にはウォルフ族も加わってくれたので思ったより早かったが、


 「あんまりいい状況じゃないな」

 「そうね……何人か攫われたかも?」


 全体的に消耗が激しいと感じた。

 もちろん手練れも多いが、スタンピードのような魔物の動きにゴブリンの集団はなかなかエグい戦いだったからだ。


 周囲を警戒しながら緩やかな場所へと移動し、俺達は一度休息をすることにし、ウォルフ族との会話をする。

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