151.行軍開始


 俺が滞在しているオルファの町。

 ここがアイゼンの森やスリアン国への最前線なので冒険者や騎士、兵士が集合するには都合が良く、見るからに大規模作戦の様相を伺わせる。


 「遠征のお供に~パンはいかがかね~」

 「飲み水はあるかい? ひとつ200ルブルだ」

 「おいおい、ちょっと高いんじゃないかぁ?」


 まだ陽も上がっていないのに、商売人もここぞとばかりに商品を荷車で引いて売り子をしているのでかなりの混雑。

 そんな中、俺やオーフ、ロレーナは作戦開始を待つ。

 ちなみに総勢で500人弱が南門に居るらしく、先導するのはジャンクリィ王国の数人いる騎士団長の一人だとか。

 イークンベルも騎士団長が複数いたのでこういうものだろう。指揮系統が一人だともし不慮の事故で死んだりしたら場が荒れるからな。


 「……ちょっと少ないわね」

 「スリアン国が関わっているって考えたら確かにそうだな。って、そろそろクリーガーを返してくれよ」

 「えー、もふもふしたいのにー」

 「きゅん!」


 もう満足だろと言わんばかりに鳴いてからポンとクリーガーが俺の胸元へ帰ってくる。そこでオーフが周囲を見渡しながら口を開いた。


 「ま、手練れも居るし戦力としては悪くねえ。問題はスリアン国の動向だな」

 「ああ。ジャンクリィ王国の国王様も肝が太い」

 「?」


 俺がコウたちを見て肩を竦める。

 動きが速い理由はいくつかあるが、その内の一つは森や山に棲むエルフやウォルフ族達も魔物には困っているはずなので、国として救援すればジャンクリィ王国側に融通を利かせやすくなるんじゃないか? というものだった。

 

 もちろん北側にも遠征に出ているので、南だけを救援に出しているわけではないため、そうなったらいいな程度の結果オーライ狙いというやつである。

 

 一応、『ブック・オブ・アカシック』でこの戦いについて確認したところ、命に関わるようなことは無いと書かれていた。

 鵜呑みにするのは危険なので慎重に行動するつもりだが、まあなんとかなるだろう。爺さんについては『わからない』の一点張り。


 それとスリアン国はそれほど妙な国って訳じゃないらしいんだが、どうして領地拡大をしようとしているのかは不明とのこと。

 戦争を望んでいる……ほど、貧困でも国が狭くもないしな。

 この中央大陸のにある三つの国の内の二つがいがみ合う理由もなく、仲も良いとのこと。


 まあ、トップが代わると色々考え方も違うだろうしそのあたりだろうか?

 とりあえず今やることは魔物討伐。

 できるだけ多く倒しておくに越したことはない。

 そこで木箱の上にフル装備の騎士が立ち、高らかに声を上げた。


 「諸君、早朝から集まって貰いありがたく思う! 我々はこれから国外へと遠征へ向かう。まずはアイゼンの森を目指し、ウォルフ族と接触する。

 もし彼等を見つけたら『斬鋼のオーフ』に声をかけてくれ、ウォルフ族の子供達を連れている」

 「やあやあ、皆の衆……見世物じゃありませんよ!」

 「なんでロレーナがキレるんだよ……」

 

 あの兄妹がいるんだ……みたいな頼もしいとも呆れともとれるざわめきが起こり注目を集める俺達。ロレーナが無駄に威嚇するのをひざかっくんで止めていると、騎士団長が咳ばらいをして話を続ける。


 「国境である壁はあるが越えてくる魔物も多い。特にゴブリンは頭も回るから見つけたら報告。必ず集団で戦うことを忘れるな」

 

 「ゴブリンなんているのか……イークンベルやツィアル国には居なかったのに」

 「お、見たことないのか? あっちの大陸は確かに少ないと聞いたことがあるけど。オークやトロールはどうだ?」

 「その辺も、かな。相手は人間が多かったし」

 「なら、いい機会かもね。あいつらは小鬼と呼ばれるだけあって、個々の力はそれほど強くないけど集団になると相当面倒になるの。習性なんかを覚えとくと後で役に立つわ」


 聞く限り他種族を平気で殺しにくるあたり、魔人族やエルフ、ドワーフみたいな一種族として見れなくもないが、好戦的で本能に従って生きているため魔物と言って差し支えないとロレーナは語る。

 そんな話をしていると演説が終わり、俺達はいよいよ出発となった。


 「アル兄ちゃん、食べ物はある?」

 「お前は食うことばかりだなセロ。ちゃんと収納魔法に入れているよ」

 「わーい! クリーガーよかったね」

 「きゅん」


 抱っこすると手が使えなくなってしまうので背負えるリュックみたいなカバンを買ってそこにクリーガーを詰めている。

 前足と頭だけ出ている子狼は可愛いしかない。


 「でもこれで森に帰れるよ、ありがとうアルフェン」

 「まあ……乗り掛かった舟だしな。ヴィダーも謝ってたけど、許したのか?」

 「怒っても仕方ないし、誘拐されたのは俺達にも油断があったからな。森で油断したら即死だって父ちゃんに良く言われているんだ」

 「あー」


 誘拐犯に怒るけど、それと同じくらい怒られる事象ってことか。

 それでもなんだかんだでグラディス達みたいに必死で探していると思うけどな。


 そして――


 「回り込め!」

 「ドラゴンスネイルには魔法使いがいけ! 盾持ちは庇えよ!」

 「ジャイアントタスクが突っ込んでくるぜ」

 「マジか、ドラゴンスネイルが居るのに襲ってくるかよ!?」


 ――出発して数時間で俺達は早速遭遇した。

 

 騎士達のどよめきからして思ったより早すぎる遭遇のようだ。

 それと同時に別の魔物が仕掛けてくるのも珍しい光景だと俺は訝しむ。


 この前のフェンリアーをドラゴンスネイルが追う、ということなら分かるがジャイアントタスクは人間を主食にしておらず、むしろドラゴンスネイルの餌になる可能性の方が高いのだ。


 「数はそうでもないけど、いきなりドラゴンスネイルとは面倒くさいな」

 「だな。こいつがこれだけ姿を見せるのもおかしな話だ。それこそ鹿や兎なんかが主食で人間を襲うことは滅多にないんだが」

 「とりあえず……倒すしかないな。元凶があると思うか?」

 「多分、ね!」


 ロレーナが大蛇の口に火薬をぶちこんで発火させる例の戦法で一匹潰す。

 他の個体も魔法使いが表皮を剥がし、剣で切り裂かれて絶命。


 「あれって皮をあぶって食べると美味しいんだよー」

 「ジャイアントタスクの毛皮が欲しいな」


 野性味が溢れる兄弟のたくましい言葉を聞きながら、俺達は進む。

 まだ遠足気分で進んでいるが――

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