150.オーフからの提案
「ふう……これで帰れると思うと落ち着くな……」
「きゅんきゅん……」
「ものは相談なんだが」
「うわ、いつの間に入って来たんだよオーフ!?」
「きゅぅぅん!?」
クリーガーと一緒に風呂浸かり、魔物と戦闘した疲れを癒していると、潜水してきたのか俺達の目の前にぬっと顔を出すオーフ。
驚いた俺が立ち上がると、湯船に浮かべた桶のクリーガーがひっくり返って沈んだ。
「うわあ!? クリーガー!」
「きゅふん……!!」
慌てて救出して頭に乗せるとぶるぶる体を震わせて鼻水を出すクリーガー。俺は無事を確認した後にオーフに文句を言う。
「驚かせるなよ、久しぶりにゆっくりしてたのに台無しじゃないか」
「すまんすまん。ロレーナの方が良かったか?」
「そういう問題じゃない……。エリベールに知られたら怒られる」
「はっはっは、彼女は怖いか! ……って、どこかで聞いた名前のような――」
「ああ、気にしないでいい! というかお前だって彼女を差し向けるのは止めた方がいいぞ」
俺が口を尖らせて俺の隣でくつろぎ始めたオーフへそう言うと、不思議そうな顔で目を細めた。
「彼女? 誰がだ」
「ロレーナだよ。随分仲がいいし、そうじゃないのか?」
「あー、お前はそう思ってたのか! だっはっは! あいつは妹だよ、い・も・う・と!」
「マジか……?」
そういえば髪の色と瞳の色は似ていると思ったがそうだったのか……
意外なことを聞いて驚くが、別にそれがメインの話ではないかと軌道修正することにした。
「で、相談ってなんだよ?」
「ああ、急いでいるところ悪いんだがちと魔物討伐を手伝ってくれねえかと思ってな」
「分かっているなら言うなっての。俺は爺ちゃんが心配なんだ、流石に連絡が全然来ないのはおかしい」
「ふむ」
「きゅん」
俺の主張に顎に手を当てて考えるオーフ。
しばらく目を瞑って考えていたが、目を開けてから少し真面目な口調で話し出す。
「恐らくあちこちで聞いていると思うが、ライクベルンは今、少々きな臭い。お前の爺さん、アルベール将軍が遠征に来なくなったころからだ。迂闊に戻るのは危なくないか?」
「でも俺の故郷だぞ? 国王様とも会ったことがあるし、問題ないだろ」
「どうかな……手紙を送って返ってこない、というのがどうにも気になる。孫が大事なら手紙は返すだろう。最悪の事態は考えないといかんってのが俺の思うところだ」
「最悪……死んでいるってか? 黒い剣士にやられた、とか」
しかしオーフは首を振りそうではないと告げる。
「将軍が死んでいると思っていない。だが、内部でなにかがあったとしたらどうだ? 月日がたてばアルフェンの知る国ではないかもしれない。
……そして、お前が生きていることを良く思わない人間がいたら、どうだ」
「……!?」
そこは考えていなかった。
言われてみれば家を襲撃された時、あいつらはなにかを探しているようだったが、そもそもウチの家系を潰すつもりだったとしてもおかしくはないのか……
そう思えば迂闊に『俺だ』という状態で帰るのは得策ではないのかもしれない。黒い剣士が実は国の身内だという可能性があるのだから。
「……それと魔物討伐をすることがどうつながる?」
「さすが、賢いねえアルフェン君は~」
「茶化すな」
俺が顔にお湯をかけてやると鼻に入ったらしく、せき込みながら答えてくれた。
「ぶぅふえ!? ……ふう、お前は詠唱無しで魔法を使えるし剣のランクも高い。特に無詠唱なんざ使えるやつが居たことに驚きだ。その力があれば俺達が楽できる。
んで、功績をあげりゃジャンクリィ王国の後ろ盾ができるかもしれねえだろ?
アルベール将軍の孫だって大々的に陛下にでも告知してもいいだろ」
「なるほどな」
悪くない案ではある。
ただ、どこまで親身になってくれるかだけども。
俺がそうだと言ってもいいのだが、情勢が分からないからなあ。もし下手にライクベルンの将軍の孫ですと言った後に拘束でもされたりしたら面倒だ。
オーフの言うように少しばかりでも手伝っておいた方が心象はいいだろう。
もしかしたらそれで護衛の一つや二つつけてくれるかもしれない。
「オッケー、その話のろう。でも、役に立てるかは分からないぞ?」
「お、助かるぜ! 獣人兄弟が懐いているから、ウォルフ族との交渉もお願いしたいところだな」
「なんか仕事増えたぞ!?」
「ひっひっひ、気にすんなよ! 魔物討伐が終わったら一緒にライクベルンへ行ってやるからよ!」
「きゅん!」
オーフは俺が協力することに満足したのか、頭の上に居たクリーガーを撫でてから風呂を出て行った。
ついて来てくれるのはありがたいが、ヴィダー達はいいのだろうか?
「てなわけで、アルフェンも手伝うことになりましたぜ旦那様。こいつは将軍の孫だけあって強いですよ。獣人兄弟も任せて、上手く行ったらライクベルンへの手続きもやりましょうや」
「おお、それは心強いな。アルフェン君、申し訳ないが頼むよ。オーフとロレーナはここで寝泊りしているから君もそうするといい」
「ありがとうございます」
というわけでそんな話が決まった日からしばらくヴィダーの屋敷に世話になることに。
<結局旦那さんは城へ行きませんでしたね>
「魔物が多いし、往復するのは危ないだろうから仕方ないさ。郵便は定期で移動する商人と一緒みたいだからそれが頼りだな」
<商人さんも大変ですね>
まあ、武装した護衛も居るからそこは安心ではあるけどな。
じゃなきゃ危なすぎて行商人なんてできたもんじゃないし、それを職にしている人もいるので持ちつ持たれつである。
と、そんな異世界ならではの職はいいとして、問題はスリアン国の国土拡大が問題だな。
シェリシンダ王国とイークベルン国の間に大森林があったが、あそこもエルフが住んでいてお互い不可侵の約束をして領土にはしていない。
ただ、大森林に魔物がはびこるようなことがあれば二国で協力するという話にはなっていたりするが。
地図を見た限り南は山も多いので領地にするにはあまり向いていないと思うが、アイゼンの森を抑えることで移動の制限をかけることができる。
むしろそれくらいしかメリットがないが、魔物の討伐以外になにを考えているのかってところだ。
まあ、とりあえず俺のやることは魔物を倒すことなのでそっちはジャンクリィ王国の人達に任せよう。
そんなことを考えながら屋敷に滞在している間、ヴィダーに剣を教えたりしていたりする。
「ヴィダー、無理に片手で持たない方がいいぞ。非力なら両手で押し切ることも考えないと」
「だけどアルフェンは片手だろう、年下にできて僕にできないはずは……」
「そうじゃない。俺はこれでも学校でも家でも鍛えていたからこれくらいはできるよ。だけどヴィダーはそこまで訓練はしてないだろ? 見栄えよりも自分の実力を見極める方が重要だから、できることをするべきだ」
俺がそういうとヴィダーは再び素振りを始める。
他には――
「兄ちゃん! クリーガーこっちこっち!」
「きゅんきゅん♪」
「あんまりはしゃぐな」
「……」
――コウとセロも屋敷に招かれ、来るべき時まで一緒に居ることになった。
目論見通り、俺が話をすると納得してくれ、親たちに話をする時は一緒に居てくれるそうだ。
ドーベルマンみたいな番犬もクリーガーには優しく、なんだかんだと仲良くなれていた。やはり子犬にはつっかからないのが大人なのだろう。
そして五日ほど経った頃、魔物討伐隊がこの町へと集結したのだった。
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