149.意外な情報


 「恐らく獣人というのはアイゼンの森に住む者達ではないだろうか?」

 「ええ、コウとセロからはそう聞いています。その二人がヴィダー……様の積み荷として樽に詰め込まれていたのも、ですが」

 「むう……」


 親父さんの問いに軽く頷いて答えると、難しい顔で口を開く。


 「ウォルフ族は私達家族が南にあるスリアン国へ旅行へ行った際に出会った種族でね。ここからなら航路ではなく陸路の方が近い。故に馬車で向かったのだ」


 話によると、ジャンクリィ王国とスリアン国の間にあるアイゼンの森はどっちの国でもない、ある自治区みたいな土地らしい。

 南へ向かうには山があるので西側にある森を通って抜ける必要があるが旅行中、そこで魔物に襲われ、そこで助けてくれたのがウォルフ族だった。


 それが二年くらい前の話で、その中にまだ小さいコウとセロも居たとのこと。

 しかし、だ。


 「それがどうして恩をアダで返すようなことをしたんだ、ヴィダー……様」

 「ええい、いちいち引っかかるな! ヴィダーでいい」

 「それは私から話そう。ここ最近、魔物が多くなっているのは知っているかな? 実はアイゼンの森も例外ではなく、近くのウルテン山もだが」

 「ええ、ということは彼等を助けるために誘拐を? 好意的な種族みたいですし、話せば逃げてくれるのではないでしょうか」


 俺がそう言うとベリモット氏はさらに渋い顔で返してくる。

 

 「確かに彼らは人族でも警戒せずに接してくれていた。だが、今は状況が変わっていてね……この魔物が多く、混乱している状況を利用してスリアン国が国土の拡大を画策しているようなのだ。そのためアイゼンの森が荒れる可能性が高い」

 「占領、ってことですか……!?」

 「うむ。それでヴィダーはこの二人だけでもと連れ出した、だな?」


 無言で頷くヴィダー。

 ここでようやく意図と行動がようやく結びついたな。

 しかしまさか国が侵略しようとしているとは……それと同時に、どうして航路を使ったのかが分かった。


 「なるほど、ウォルフ族の追跡を逃れるために船を使ったのか。あいつら、犬や狼と同じで嗅覚が凄そうだし」

 「そういうことだ。あいつらは僕がやられそうになった時に身体を張って助けてくれたんだ。まだ小さいにも関わらずにな」


 だからせめてと連れてきたかったらしい。

 気持ちは分かるし、俺もどうにかして助けるかもしれないが……


 「やり方がなあ……」

 「きゅふん」

 「私もそう思う……それに――」

 

 流石にベルモット氏も呆れて頭を抱えるが、その後の言葉で俺は目ん玉が飛び出た。


 「――それにどうしてあの二人だけなのだ。私に言ってくれれば陛下に進言して、ウォルフ族を匿うことも視野に入れられたろうに」

 「なにい……!? 規模がヴィダーよりでかいだと!? でも、連れて来るなら全くその通り……無理やり連れて来るより話し合いの方がいい……」


 俺が驚いているとオーフが含み笑いをしながら俺に言う。

 

 「くっく……旦那様はこういう話には弱いからなあ」

 「そういや優しい人だって聞いたことがあるよ」

 「優しいのはそうなんだけど、行動力もあるのがね。そう言う意味では暴走しがちだけどヴィダー……様と似ているわね」

 「おい、アルフェンの真似はやめろロレーナ!?」

 「まだ話は終わっていないぞヴィダー!」


 とまあそんな感じで真相が分かり、まあヴィダーも手段は悪いが、兄弟が気になったから故の行動だと思えばまあギリギリだがいいだろう。


 「皆さん、お茶が入りましたわよ」

 「おお、ミラリーか。では少しティータイムと行こう」


 奥さんがメイドを引き連れて戻ってきたところで、わーわー騒いでいた親子が鎮まり閑話休題となった。

 

 「それでコウとセロはどうするんだ?」

 「とりあえず私が事情を話してウチに連れて来るのがいいだろうな。その子達と一緒にウォルフ族に話をせねばならないだろうし」

 「陛下にお話は?」

 「もちろんする。魔物討伐の計画は進んでいるはずだから、ウォルフ族を我が国に連れてくる許可をもらわねばならない。こういう時の金だからな」


 なるほど、金の使い方を知っている人間か。

 だが、こっちはいいとして気になるのはスリアン国の動向だな……?

 とはいえ、俺が関わるわけではないので黙っておく。


 「まあ、あの二人を悪いようにしないというなら俺はいいかな? 仲良くやれよ」

 「ああ。お前に言われたことをやってみるさ。すぐに発つのか?」

 「報酬を貰ったら適当に宿を見つけてライクベルンへ向かうよ。いい加減もどりたいしな」

 「えー、折角だし手伝わない? アルフェン君、かなり強いし魔物討伐作戦に参加すればいいのに」

 「流石にそこまではしたくないなあ……」


 ロレーナが首に抱き着いてクリーガーを撫でる。

 すると怪訝な顔でベルモット氏が俺に問いかけてきた。


 「ライクベルン……? そういえばアルフェン、という名前だったね。まさか、ライクベルンのアルベール将軍が探しているお孫さん、だったりして……? ははは、そんなはずは――」

 「爺さんを知っているのか!?」

 「――あった!? ほ、本当にアルベール将軍の!?」

 「ああ! 爺さんは生きているのか!」


 お茶をこぼしてしまう勢いで詰め寄ると、ベルモット氏が目を白黒させて口を開く。


 「も、もちろん生きているはずだよ……!? 一年くらい前までは城に来ていたらしいしね。ただ最近、将軍を退任したと聞いた。それはアルフェンという孫を探すため、と」

 「退任……? まだ全然強いだろ爺ちゃん」

 「私もそう思う。だけど君を探す理由なら分からなくもない。私ならヴィダーが居なくなれば自分の足でも探すだろう」


 確かに俺でもそうするかと椅子に座り直す。

 手紙が返ってこないのはあちこちに出ているから、か? いや、それにしても執事やメイドもいるから届いたら返すアテはあるはず。

 一年前というとツィアル国を解放した頃だし、退任したなら手紙を読んでいてもおかしくない。


 「なんか嫌な予感がするな……」

 「そうなのかい? アルベール将軍はこの国にもよく顔を出していた方だ、こちらから馬車を出してあげよう」

 「いいんですか?」

 「もちろん。ここまでヴィダーを連れて来てくれた礼もあるしな。折角だ、泊っていきなさい」

 「わんちゃんもウチの子達と仲良くなれるかもしれませんものね」

 「きゅふーん……」


 あのドーベルマンもどきとは無理だろう。

 とりあえず一年前とはいえ、爺さんが生きているという情報が入ったのはありがたい。

 それにしても退任とは驚いた。あの爺さんなら国へ回った時に手伝ってもらうよう頼むくらいはするだろうに……?


 あ、いや、違うな。将軍の立場で部下ならともかく他国に孫を探させるようなことはしないかあの性格は。

 

 とりあえず馬車も出してもらえるみたいだし、ようやく国境を越えられるかと安堵する俺であった。

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