148.兄弟との再会
「終わりだ!」
「おおう、ナイスナイス~♪」
「結構多かったな、馬車も大事ないみてえだ」
「そりゃなによりだ」
魔物の群れを蹴散らし、なんとか二つの馬車を守り抜くことが出来てホッとする。いや、シザークラブとギガントリザード、ヘルムセンチピードといった、種別がバラバラな奴らが一斉に襲い掛かって来たのはちょっと驚いたけどな?
本来ならフェンリアーやドラゴンスネイルのように同種族で獲物に近づくものなので、取り合いみたいな状況は相当ヤバイ時期、例えば向こうの世界で言う冬なんかにしかこういう光景にはお目にかかれないものなのだ。
魔物が増えて餌が無いから取り合うという図式が成り立つためこっちはかなり深刻なのかもしれないな。
「大丈夫ですかー? お金くださいー」
そんなことを考えていると、ロレーナがドストレートでゲスい要求を口にする。
すると、馬車から見知った顔が……
「あー、やっぱるアル兄ちゃんだ!」
「お前セロか!? なんでまたこんなところに……」
「アルか? お前こそどうしてこっちへ?」
馬車から飛び出してきたのは獣人兄弟だった。
お互いなぜここに? という顔を突き合わせていると、荷台からさらに人が降りてきて俺はもう一度驚くことになる。
「あれ、あんたはギルドの」
「おお、坊主か。ライクベルンへ行くんじゃなかったのか?」
「なんか魔物が増えすぎているから調査のために乗合馬車がストップしててね。そこの町に住んでいる貴族の護衛をしているんだ」
オーフとロレーナを見てなるほどと頷く港町のギルド員。
彼がなにか言おうとしたが、ヴィダーが馬車から顔を出して叫ぶのが聞こえて来た。
「おい! もう魔物は居ないのだろう? 町に入ってから話したらどうだ」
「……確かにそうだな。それじゃ、また後で」
「またねー」
再び馬車に乗り込んでからさっさと町へ向かい、ヴィダーが居るので顔パス状態の門を抜ける。屋敷へ向かうようだがその間に俺はヴィダーに尋ねてみることにした。
「……獣人の兄弟が乗ってたぞ。お前の差し金か? なんだかんだでここまで連れてくるよう手配したとか?」
「そこまで考えてはいなかったな。この町で合流できたのは偶然だ。しかしこの辺りを通るだろうことは分かっていたから、どちらにしても国境を越えてアイゼンの森に行く前には確保するつもりだった」
「なんだって……?」
ここでは偶然出会ったという。
だが、獣人の兄弟は森へ帰すつもりはないらしいことを仄めかし、俺は訝しむ。
こいつのことも『ブック・オブ・アカシック』で聞いておくべきだったかと胸中で舌打ちをしつつ、その意味を聞く。
「なあ、結局あの二人をどうしたいんだよ? 友達にしたいなら誘拐なんてせずに森へ行って挨拶をすればいいだけだろ。ここから近いみたいだし」
「そう、できればいいんだけどな」
「?」
歯切れが悪い返事をした後にヴィダーは黙り込み、オーフとロレーナも特に言及しないまま目を瞑って背をシートに預けていた。
よく分からないが兄弟がここで捕まるというのであれば考えないといけないな。
そんなことを考えながら外の景色を眺めながら馬車に揺られていく。
「きゅんきゅん!」
よく眠って元気なクリーガーが俺の頭の上で外の景色に一喜一憂する声を聞いていると、いつの間にかヴィダーの屋敷に到着したようだ。
ヴィダーを降ろしていいると、正面玄関から紳士と婦人が慌てた様子でこちらへ駆けてくるのが見えた。
「ヴィダー!」
「か、帰ってきましたのね!」
「やあ、父上に母上。しばらく旅行へ出ると言っていたじゃない……か!?」
得意気な顔で説明していたところに親父さんらしき人から拳骨をもらいその場で蹲った。
あっけに取られていると婦人が俺達へ声をかけてくれる。
「立ち話もなんですから皆さん、中へどうぞ。お茶を用意させますわ」
「あ、お構いなく」
「わんちゃんも美味しいソーセージを用意してあげましょうねえ」
「きゅん?」
俺に抱っこされているクリーガーが首を傾げる。
一応、魔物だけど連れていいのか聞いてみると足を拭けばいいらしい。
番犬を飼っているので、犬の扱いには慣れているらしい。
庭に目を向けてみると――
「……」
「きゅん!?」
「おお、強そうだな……」
ドーベルマンみたいな細身の犬が数匹、俺達から数メートルの距離まで近づいて来ていた。なるほど、訓練されているな……。
クリーガーが怯えるので頭の上に置いてやり、そのまま屋敷へと入り、応接間へと通された。
「オーフ君とロレーナさん、ご苦労だった。それと――」
「俺はアルフェンと言います。一応、冒険者でヴィダー殿と契約を交わしてここまできました」
「ほう、小さいのに。私はオルソン家の当主でベリモット。妻はミラリーだ、よろしくなアルフェン君。それに引き換えウチのヴィダーは剣も魔法も並み程度だというのに危険な旅をするなど……」
確かに噂通り優しそうな人だな、顔と態度を見れば分かる。
そんなベリモット氏と握手をしていると親父さんの隣に座っていたヴィダーが頭を抑えながら口を開く。
「無事に帰ってこれたんだからいいじゃないか……」
「アホか! 今の魔物が蔓延っているご時世に旅に出るヤツがあるか!」
「ちょっと事情があったんだ。父上、町に獣人の兄弟がいるんだけど、出ないように通達して欲しいんだ」
「獣人……だと? まさかお前……」
怒り顔から一転、スッと考える顔になる親父さんは獣人のことを知っているらしい。そこへオーフが手を上げて言う。
「すみません旦那様、俺達が居るから大丈夫と思いましてね。このまま森へ返すのは危険だと判断します。誘拐じみた方法は、まあ、あんまり褒められたもんじゃありませんがこの国に入れたことが重要ってことで」
「なに? どういうこと?」
「ま、色々あるってことかな。すぐにあの二人と会えるから、アルフェン君が居ると助かるわ~」
ロレーナが笑顔で俺の頭を撫でてきたので、それを払い続きを待つと、親父さんが首を振りながらため息を吐く。
「確かにあの兄弟には助けられた。お前のやったことは恩を返したことになるだろうが、他の獣人たちが蹂躙されて居なくなったらそれはそれで悲しいことにならないか?」
「それでも死なれるよりはいいと思ったんだよ」
「ごめん、話が見えないんだけど詳しく聞いてもいいか? あの二人、友達になるため誘拐したんじゃないのか?」
「そんなことを言っていたのかヴィダー? うむ、彼らはな――」
親父さんが語る真相は『ブック・オブ・アカシック』の面倒ごとの一端みたいな……?
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