44.アル、留守番をする


 「ふーん、ツィアル王国って湾岸沿いにあるだけで、残りは魔人の領地なんだな」

 <たまたま空いていた地域を間借りしているみたいな感じですかね>

 「まあ、大陸へ押し込めたのは人間らしいからなあ」


 とまあ、部屋でブック・オブ・アカシックを読みながらリグレットとあーでもないと話をしていた。

 いつもなら双子が入り浸っているのだが、今日は静かなものである。


 何故か?

 今日は国王の35歳の誕生日で、両親と双子はそちらに赴いているためだ。

 俺は呼ばれていないので、屋敷で留守番となった次第。


 <そういえばご両親と双子ちゃんが行ったパーティ、王様の誕生日らしいじゃないですか>

 「ああ、キリのいい35周年記念ってやつだな。次は40歳にやるんじゃないかな」

 

 そのころには俺はもうこの国には居ないと思うけど。

 ラッドの誕生日も近いみたいで、風の噂で同じ中級生の子達を呼んでパーティをするのだと。だけど、そっちも出る予定は無い。

 

 「さて、そろそろお腹が空いてきたな……」

 <学校から帰ってなにも食べていませんしね>


 パーティの準備で大忙しだったのでカーネリア母さんお手製のおやつもなかった。メイドさんももう帰ったので、屋敷には俺一人である。


 よほど急いでいたのか、俺のご飯は、用意されて、いない。


 「……小遣いはあるし、なにか外に食べに行くかな」

 

 確か誕生祭とかいって町の商店も露店を出していたりするので、散歩がてら行くのもアリだ。

 俺はブック・オブ・アカシックを覚えた収納魔法で片付けて部屋を出る。


 するとそこで玄関ホールに知った声が響いてきた。


 「アル、居るか!」

 「あれ? ベイガン爺ちゃんだ、どうしたの? パーティは?」


 なんと屋敷を訪ねて来たのはベイガンの爺さんとモーラ婆さん。ゼルガイド父さんの両親だった。

 驚きつつも階段を下りながら目的を尋ねると――


 「お前ひとりで留守番をしていると聞いてこっちへ来たんだ。うちの家からはゼルガイドカーネリア、それにルークとルーナが出ているから問題ない」

 「双子に構ってあげればいいのに」

 「ふん、お前もワシの孫だからな。ひとり寂しく置いておくわけにもいかん。食事はまだなのだろう?」

 「レストランにでも行こうかと思ってるの」


 なにげにこの二人もかなり丸くなって、今ではカーネリア母さんとも和解を果たしている。


 よそ者の俺に対しても『なんか不思議な力』で双子を授かったのは俺のおかげだといい、普通に孫として扱ってくれる。

 色々と面倒な立ち位置の俺だけど、それでもきちんと接してくれるのはありがたい。ファーストコンタクトが最悪だっただけに。


 「レストラン! 行こう行こう! 外食ってほとんどしないから楽しみかも」

 「カーネリアは料理をするのが好きですからね。では行きましょう」


 モーラ婆さんが微笑み、俺と手を繋ぎ並んで歩く。

 外に止めていた馬車に乗り込むと、ゆっくり道を進み始めた。


 「わ、町中がこんなに明るいのは初めて見た!」

 「ふふ、生意気な物言いをするが、アルもまだ子供だな。誕生祭は滅多にやらないからな。今回はラッド王子の誕生パーティ前の余興でもあるみたいだがな」

 「学校の同級生を呼ぶみたいだけど……どうしてラッドって同じ学校なんだろう」

 「ああ、あれは陛下の方針だ。友人や能力のあるものを発掘する目的もあるようだぞ」


 青田買いってやつか。

 そういう意味ではラッドが俺に構っていたのは分かる気がする。

 ……まあ、寂しいじゃないかなんていうくらいだから他にもなにかあったのかもしれないが。


 そんな会話を交えつつレストランへ向かい夕食をとった。

 なんだかんだでカーネリア母さんの飯は美味いと思った瞬間でもあったが。


 「それじゃ屋敷へ帰るか。しばらくパーティは終わらないだろうから、露店などを見てもいいがな。どうだ、ウィル」

 「馬車を置いてから歩くならというところでしょうかね」


 御者兼用心棒を務めているウィルという男が肩を竦めて爺さんの言葉を返す。

 この男はずっと仕えている人らしく、ウチの屋敷に祖父母が来るとき必ず一緒だったりする。


 「歩くのたまにはいいかもしれませんね、双子にお土産でも――」


 モーラ婆さんが口を開いた瞬間、通りの向こうで爆発が起こった!

 

 「なんだ!?」

 「分かりません! ただ嫌な雰囲気です、このまま屋敷まで戻りますよ! ……っく、人が……!?」

 

 爆発の後、悲鳴を上げながら通りを逃げていく人に巻き込まれて馬車が停止してしまう。ウィルの言う通り確かに嫌な予感がすると、御者台から身を乗り出してみる。


 「アル坊ちゃん、危ないですよ!?」

 「……血の匂い……!? 一体なんだ?」

 「アル、待たんか! 危険だ!!」

 「アル!?」


 本気で心配する祖父母の声が背後から聞こえてくるが、俺は構わず爆発のあった方へ走っていく。

 前世で仇を取った山小屋、あそこで嗅いだことのある血の濃厚な匂いが漂ってきたからだ。

 恐らくなんらかの傷害事件が起きている……!


 「<フリースペース>!」


 俺は収納魔法からマチェットを取り出し、現場へ向かった――

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