158.最後の一撃


 動ける人間はなるべくゴブリンロードへ突撃し、死角からの一撃を淡々と狙いに行く。体がでかく力は強いがスピードに欠けるため、一撃離脱が有効だと判断した結果である。


 「うろちょろしやがって!」

 「うぎゃ!?」


 それでも、適当に振った棍棒にぶつかることもあり、また疲労で動きが鈍くなってきた人間もヒットアンドアウェイしきれずに背中を強く打ち付けられるなどして地面に伏す。

 そこへ俺が大声で場に居る全員に声をかける。


 「みんな一旦ひいてくれ!」

 「おほ、アルフェン頼むぜ!」

 「散開しろ!」


 全員の距離が取れたと思った瞬間、俺はゴブリンロードの目の前へ肉薄。瞳に動揺が見られるが、棍棒を振り下ろしてきた。


 「ガキが死にに来たか!」

 「あいにくとそういうわけじゃねえよ!」

 「んな……!? ま、また唱えない、だと!?」


 小柄な俺には当てにくいだろうな。

 そして足に向かってエクスプロードを発動させ、爆風の余波で距離を取る。


 「きゅうううん!?」

 「ぶは!? ……おお?」

 「なんて無茶をするんだ君は……!」

 「サンキュー、リンカ」


 意外と勢いがついてぶっ飛んだけど、リンカが俺の背後に回りクッションになってくれ、二人で地面を転がる。

 目を回しているクリーガーをカバンに詰め直しながらゴブリンロードへ目をやると、骨がむき出しになった足で膝をついていた。


 「あれで吹き飛ばないのか……!?」

 「ゴブリンロードは話でしか聞いたことはないが、人や獣人、エルフといった知的生物を食らうことでマナや知識を吸収してああなるらしい」

 「ふむ……」


 「死ねやこらぁ!!」

 「てめぇが死ねやぁぁぁぁ!」


 ここぞとばかりにオーフ達が攻め立て、どっちがゴブリンかわからない怒声と金属がかち合う音が響き渡る。


 傷は癒えていくのでエクスプロードのダメージも徐々に回復している。

 だけど俺はひとつ重要なことに気づき眉を顰める。


 「……あいつ治癒速度が遅れてないか?」

 「そういえば……」


 登場したてのころは斬ったそばから塞がっていたのに、今では少し間を置いてから塞がっていく。

 これは……勝てる兆しが見えて来たか?


 「今なら急所に当てれば殺せるはず……よし、行くか」

 「きゅふん」

 「君は疲労が激しい、私がやるぞ」

 「言っても聞かなそうだな。……なら、一緒に突っ込むぞ。味方の陰に隠れて掻い潜り、一気に心臓を突き刺す。身長が低いから小回りが利く俺達ならもしかしたらやれるかもしれない」

 「ああ!」


 まあ、ここに残していくとゴブリンにやられるかもしれないから近くに居てくれた方がいい。この子が危ない目にあわないように俺が先行すればいいだけの話。


 クリーガーをしっかり詰めてから剣を両手で握り前傾姿勢へ。

 リンカも小型の盾を前に出して構えるのが見えたので、目を合わせてから俺は軋む体を動かして走り出す。


 ……止まったらもう動けないかもなこりゃ。

 だけど、ゴブリンロードも苦しい状況なので踏ん張りどころはここだろう。

 ゴブリンは減って来た気がするけど魔物はまだいる。

 こいつが操っているなら倒せば好転すると期待して――


 「アルフェン君……!」

 「はあ……はあ……坊主か!」

 「行くぞおぉぉ!」

 「やぁぁぁぁ!」

 「おうおう、嬢ちゃんもかよ!?」

 

 額から血を流すロレーナに息の荒い親父さんが叫び、オーフが口笛を吹きながら俺達を隠すように前へ。

 意図に気づいたのかゴブリンロードはターゲットを俺達にしたようで、棍棒を振り抜いてきた。


 「馬鹿どもがぁぁぁぁ! 貴様ら、食らってやるぞ!!」

 「まだこんな力を……!? うおぁぁ!?」

 「オーフ!?」


 盾になってくれたオーフが弾き飛び、俺とリンカの前にいよいよ血を噴出させるゴブリンロードが現れる!

 フェイバンや兵士が食らいつき、止めようとするがものともせず突っ込んできた。


 「美味そうな女のガキ共からいくか!」

 「させるか!」

 「てめぇから死にたいか!」


 ここで避けたらリンカに行く、ここで止めないと!


 「でやぁぁぁぁ!!」

 「うらぁぁぁ!!」


 俺の突きが下からゴブリンロードの心臓を捉える。

 ヤツの突進と体重をカウンターで受け止めれば自爆させることができるはず……!

 俺が衝撃に耐えられたら、の話だが仮定を考えている余裕はない。


 そう考えていると、


 「な、にぃ……!?」

 「ガキの考えることなんざわかるんだよ! ぎゃははは!」

 「ぐあ!?」

 「きゅん!?」


 「アルフェン君!? この――」


 バックステップで攻撃を回避され、伸びきった体に棍棒が飛んできた。

 剣で受け流すことができたが、直後、刃が砕け散った。

 前のめりに倒れた俺の脇をリンカが突っ込む。

 向こうもバックステップをしたのでリンカの攻撃はゴブリンロードにヒットするが――


 「う、ぐ……ぬ、抜けない!? きゃあああ!?」

 「捕まえたぁ!  ぐははは、マナが減ってたからな若い娘を食って回復をするか」


 ゴブリンロードがリンカの頭を掴んで高らかに宣言する。

 他の人間の攻撃を甘んじて受けているが、食えば回復するからということらしい。

 足元に居るのは、俺。

 剣は砕かれ、マナも殆んど残っていない……助けるのは……不可能か……!?

 

 <アル様! 黒い刃を!>

 「!!」


 へたりこんでいた俺にリグレットの声が響き渡る!!

 そうだ、俺にはまだ武器がある!


 すぐに収納魔法を展開してそこからマチェットを取り出し、なぜか手になじむのと、これなら『いけるな』と直感的に思い、ゴブリンロードの腕を下から斬り上げた。


 「ぎゃははは! 当たってねえぞガキ! さて、と食事を……な、なんだと……!?」

 「あ、あれ?」

 「……」


 何の抵抗もなくリンカの頭を掴んでいた腕を切り裂き、彼女は俺の肩腕で支えることに成功。

 

 そして切断面から血を流れ出しながらゴブリンロードが目を血走らせて俺を見る。

 

 「な、なんで切れた……俺の身体は鉄よりも硬いはずなのに!! その黒い刃はなんなんだ……!? さ、再生しなぁうぃぃ――」

 「知るかよ……!」


 オーフがゴブリンロードの口に剣をぶっ差して口を封じると、俺に目を向ける。


 「よく分からんがアルフェン、その剣で首を――」

 「うおおおおお!!」

 「あががぁぁぁ!?」


 オーフが抑えている間に俺が首を落とす。

 そして再生をしないように、最後のマナを使ってファイアーボールを放ち、頭を爆散させることが、でき……た……


 「悪ぃ、後は……頼む……」

 「アルフェン君!?」


 ついに限界を迎えた俺は膝をついたまま、気絶するように意識を飛ばした――

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