157.消耗戦


 でかい。

 少し離れた位置から見てもその大きさがわかる。

 今の俺は150cmくらいの背丈で2mといえばあと50cm程度足したくらいの大きさになるが、どうも目算を誤っていたようで、オーフからさらに頭一つ分身長がある。


 脅威なのは手にもった棍棒で、ザ・鈍器といえるほど重そうな見た目プラス、ゴブリンロードの攻撃自体も重いのだろう、オーフやフェイバンが苦悶の表情を浮かべていた。


 「チッ……女を盾にするとは……。ぐぅ!?」

 「こうすれば手出しできねえんだろ、知ってるぜ!」

 「あうあああ……!」


 フェイバンが剣を振ると、ゴブリンロードは人質で防御しようとし、彼は寸前で止める。

 その隙は格好の餌食となり力任せの一撃を受ける羽目になった。だが、そこは流石の騎士団長なのでしっかりと剣で受け止めた。


 それにしても捕まっている人の出血が酷い……倒さないまでも、早く救助をしないとまずいことになる。

 そんなことを考えながらフェイバンに追撃をさせないよう魔法で牽制。そこへオーフが脇へ斬りつける。


 「くらいな!」

 「ぐぬ……!? 人間が生意気な!!」

 「くっそ、かてえな!?」

 「オーフ、上!!」

 

 俺の言葉に即反応したオーフはすぐにその場を飛びのくと、つい1秒前まで彼の頭があった場所に肘鉄が空を切る。

 当たっていたら頭蓋骨が砕けるのではないかという勢いで空振りをしたので足元にファイヤーボールをぶっ放してやった。


 「うお……」


 うまい具合によろけが取れた。

 俺はすかさず周囲に目配せをしてから前進し、剣で足を狙いながら胴体へアイシクルダガーを連発する。


 「彼女達を放してもらおうか!」

 「ガキぃぃ!!」

 

 俺に棍棒を叩きつけようと腕を伸ばしてくるゴブリンロード。

 それを予測していた俺はバックステップで回避すると、フェイバンが女性の救出へ向かう。


 「ふん、目で合図していたのは見えていたぜぇ? おらぁ!」

 「む……!」


 ニヤリと笑い、ゴブリンロードは剣を振り下ろすフェイバンに人質を盾にしようと腕を動かす。

 

 だが――


 「――と、いうわけにもいかんぞ? ぬん!!」

 「な……に!? ウォルフ族だとぉ!?」

 

 コウ達の親父さんがゴブリンロードの肘に強烈な蹴りをおみまいし、メキッと軋む音が響き渡る。

 たまらず人質を取り落としたところで、他のウォルフ族がすかさず抱きかかえて俺の下へやってきた。


 「坊主これでよいのか!」

 「ありがとう! よく分かってくれたよ」

 「う、うう……あ、りが……」

 「喋んなくていい。オーフ、フェイバンさん、そっちは任せた」


 背中を見せたまま頷く仕草をみせ、それと同時に殺気が膨れ上がる。

 人質が居なくなった今、出し惜しみは無しだ。


 「酷い傷……ぽ、ポーションを……」

 「大丈夫だよロレーナ。【セラフィム】」

 「ふえ!?」


 手足を欠損した二人の女性冒険者にスキルを使うと、俺の中に流れるマナが急激に減っていくのが分かり手足が冷え、汗が噴き出してくる。

 だけどここで止めたら助からないと回復をイメージすると――


 「馬鹿な……」

 「て、手足が生えて来た……!?」

 「す、すごい……アルフェン君、いったい」

 「はあ……は、話は後で。気絶した二人を逃がさないと」

 「とはいっても、ねえ――」


 肩で息をしながらロレーナの視線を追うと、ゴブリンとの戦闘が激化している状況を目にする。

 技量はこちらが上だが、数の暴力というやつでやや苦戦気味のようだ。


 「あ!?」

 

 直後、あの尊大な喋り方をする女の子がゴブリンに押され、すり鉢状の斜面を滑り落ちてくるのが見えた。

 ゴブリンは好機と見たか一緒に滑り落ちながら覆いかぶさろうとする。


 「させるか……!」

 「フラフラじゃない、わたしが行くから……あ、待ちなさいって!」

 

 ロレーナの制止を振り切って走り出す。

 いつもより身体が重く、視界が狭いのは二人同時にスキルを使った弊害だろうな。


 それでもゴブリン相手に負けるほど弱っては無いかと手を前に出して魔法を放つ。

 

 「くらえ!」


 アイシクルダガーが覆いかぶさろうとしていたやつの眉間に突き刺さりごろごろと斜面を転がっていく。そこで女の子をキャッチすることができた。


 「あ、ありがとう」

 「まだだ!」


 残ったもう一匹の攻撃を防ぐため女の子を後ろに隠して剣を構え、ゴブリンの斧を受け止める。


 「……っく、バランスが!」

 「わ、私がやる!」


 体勢を立て直した女の子が、背後で動こうとしたところで、俺の頭上から影が飛んでいく。


 「きゅーん!!」

 「グギャ!?」

 「クリーガー!? でかしたぞ!」


 顔面に貼りついたクリーガーに視界を覆われたゴブリンが焦りながらもがく。チャンスは逃さないとばかりに俺は胴を切断。クリーガーを回収して胸に剣を突き立ててトドメを刺した。


 「ふう……。っと……」

 「大丈夫か!?」

 「ああ、ケガは無いか?」

 「う、うん。辛そうだけど……」

 「ちょっと大技を使ったからな。それより、ロレーナのところへ戻るぞ、ここで囲まれたら意味がない」


 女の子の手を引いてロレーナのところへ戻ると、群がるゴブリンを倒しながら手招きしていた。


 「アルフェン君、無事?」

 「なんとか。この子もね」

 「やるぅ! ……って言いたいところだけど、ちょっときついかも」


 懸念はやはりゴブリンロードか。

 オーフとフェイバル、そして冒険者や兵士も加勢に入っているものの他ゴブリンの邪魔もあって実質ダメージを取れているのは二人と数人のみ。

 さらに受けた傷はしばらくすると塞がっていくのでかなり状況は悪い。


 「たぁぁりゃぁぁぁ!!」

 「うおおおお!」

 「くたばれゴブリン野郎!」


 正直、オーフもフェイバルもかなり強い。

 ただ、傷の回復と驚くべきタフさのせいで、一進一退といったところだろう。

 ウォルフ族の親父さん、ザイクもしなる拳と蹴りを放つが、もう一つ、確実な一撃が欲しい。


 「……ふう、もうちょっとだけ動けるかな?」

 「そんな体で動かないの。わたしがオーフ達に加勢するからここで待ってて」

 「それなら、一緒に行くべきだ。できることなら、傷をつけたところが回復する前に火薬を擦りつけて爆発させたり俺の魔法、例えばエクスプロードで足を吹き飛ばすくらいしないと止まらないぞ」

 「うーん……」

 

 ロレーナが考えるが、ゴブリンは向かってくるのでその時間は無い。それを悟っていたか女の子が口を開く。


 「急ごう、時間が惜しい。私も行く、囮くらいにはなれるだろう」

 「きゅん」

 「そうね。一気に倒しにかかりましょうか!」


 ロレーナが頷きゴブリンロードへ向かう。

 俺と女の子も後を追うため駆け出し、ウォルフ族はゴブリンの相手をお願いした。


 「ひと踏ん張りだ、行こう」

 「ええ。よろしくアルフェン」

 「あれ? 名前……」

 「さっきあのお姉さんが言っていたのを聞いていた。私はリンカという、よろしく」

 「よろしく頼む!」


 リンカ、という名はどこかで聞いたような気がするな?

 しかし今はそれどころじゃないかと思い直して俺はエクスプロードの準備を始めた。

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