238.また再会


 感動の再会。

 マイヤは記憶を完全に取り戻し、失う前と失った後の両方の記憶を合致させることができ、混濁する様子は無さそうでなによりだ。

 親子の会話と旦那を紹介し合い、ハーリィが頭を下げる様子に苦笑する。


 「アル様、本当にありがとうございました。まさか生きてお母さんにまた会えるなんて……。息子も見せることができて……」

 「そうね。私もあの時はもうだめかと思ったもの。孫も出来て嬉しいわ、二人目も頑張るのよ」

 「あ、はい、こちらこそ……! か、必ず幸せにしますっ!」

 「もう、ハーリィったら。今も十分よ? あの時、アル様に言われたことを守っているんですよこの人」

 「そりゃ言っておいて正解だったな。これからも頼むよ」

 「は、はい……」


 ガチめの貴族だと判明したハーリィがしどろもどろに汗を拭く様子に、俺はしっかりしなよとケツを叩く。


 「それで、アル様達は私に会いに来てくれたんですか?」

 「まずはそれが目的ではあったかな。でさ――」

 

 イリーナはライクベルンへ戻ること。

 俺がシェリシンダ王国へ行って王女との結婚をする可能性があることを説明。

 爺さん達がここに居る理由も話すと、なにから驚いていいか分からない顔をするマイヤ。


 「ちょ……ライクベルンが襲撃されて、それが旦那様の先祖でアル様が追放……!? でもシェリシンダ王国で王様になるんですか!?」

 「……凄い子供だったんだな……あの、ご無礼をいたしました……」

 「いいって、まだ結婚してないし。というわけだから、ライクベルンの屋敷にイリーナが住む。いつでも会いに行けるぞ。サンディラス国も大橋を修復中で、イークンベル王国と和解を勧めているはずだ」

 「アル様が遠くに行っちゃいましたね……」

 「それでもマイヤは俺のお姉さんだよ」


 俺がそういうとマイヤは抱きしめてくれた。赤ん坊のころから流される時まで一緒だったし。


 「シェリシンダならまだ近いし、たまに遊びに来てくれると!」

 「おいそれといける場所じゃないわよ……」

 「あら、あなたは?」

 「私はリンカと言います。アルフェンに助けられて今は居候の身ですね」

 「可愛い子……! 呼び捨てということはこの子もアル様の恋人ですね!」

 「え!? いや、その……」

 「まあ、それでいいよ。それじゃ、お腹もすいたしご飯にしよう。どこか広いレストランあるかな」


 言葉に詰まるリンカの手を握って俺は食事を所望し、ハーリィが知り合いの食堂へと案内してくれ、そこでマイヤは爺さん達と久しぶりに会話を楽しんでいた。

 

 そして昼を過ぎたところでイリーナとスチュアートを置いて俺達は出発を決める。


 「それじゃ、イリーナ達はゆっくりして帰るといい」

 「はい、ありがとうございます。アルベール様。一泊して観光した後に帰ります。お屋敷は守りますから、必ずまた旦那様と奥様のお墓へいらしてくださいね」

 「ええ、よろしく頼むわね。スチュアートも」

 「ハッ、お任せください!!」


 「また遊びに来るよ。ウェイもまたな」

 「あーい! くりーがー、ばいばい!」

 「わふわふ」


 ラクダは怖いようだがクリーガーは気に入ったようで、終始もふもふしていた。

 半日も遊ばせていないからそれほど情が移らなかったのは幸いか?


 手を振って見送る一家を後に、俺達は町を出て北へ向けて出発する。

 泊っても良かったが、移動距離は稼いでおいた方がいいだろうとツィアル王都へ。


 前は魔人族の国からルイグラスの屋敷を経由したから時間がかかったけど、真っすぐ進むと1日半で到着することができた。


 「なんか懐かしいな」

 「ここでも活躍してたんでしょ?」

 「ああ、エリベールの【呪い】やらツィアル国の崩壊をもくろんでいたエルフを倒したんだよ。城の壁を作るアルバイトをグラディスとやってたな」

 「ああ、魔人族の人だっけ」


 リンカの言葉に頷き、グラディスのことを話す。

 そういえばエルフを倒した話はしていたけど、グラディスのことは詳しく言って無かったな。

 あいつとは親友と呼べる仲でもある、と勝手に思っている。

 魔人族の国はここからだと遠いので会いに行くには大変だから一度落ち着いてから行こうと考えている。


 「リンカにも紹介するよ。エリベールもまだ会ったこと無いしね」

 「うん! 私はエリベール様が気になるけどね……」

 「ま、気さくな王女だから大丈夫だと思うけど」


 そんな会話をしながらラクダを歩かせて宿へ向かう。

 途中、物珍しいと人が遠目で見ていたがさすがに豪華な馬車を見ておいそれと近づいてくる人はいなかった。


 「それじゃチェックインをしてくるから爺ちゃんは厩舎に馬とペロ達を連れて行ってよ」

 「うむ」

 「あ、あの、当宿をご利用で?」

 「そうですよ。空いてますか?」


 擦り手揉み手で声をかけてきた人は前にも見たことがある店主だ。俺のことは覚えていないようだけど騒ぎになるよりはいいかと対応する。


 すると――


 『アル?』

 「え? あ!? グラディス!!」

 『やっぱりか!!』


 ふいに魔人語で話しかけてきた相手は、グラディスだった!!

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