239.もう一つの我が家へ


 「グラディス!!」

 『アル、久しぶりだな! どうした、こんな大人数で?』

 「それはこっちのセリフだよ。なんでツィアル国に?」

 「大きい……!? この人がアルの言っていた魔人族のグラディスさん?」


 俺の頭に手を置いて口元に笑みを浮かべるグラディスに、リンカがひょこっと横に出てきて見上げる。

 

 「そうそう」

 『俺は依頼で来ているんだ。ツィアル国との国交が良くなってお互いの国のギルドが救援に人員を貸してくれと言われるんだよ』

 『へえ、ちょっと見ないうちに活発になったなあ』

 『ルイグラスから直接依頼があったりな。で、お前はどうした?』


 首を傾げるグラディスに俺はやるべき復讐が全て終わったこと。倒したラヴィーネの子孫でもあったから国を出てきた話をする。

 

 『……なるほどな。複雑な話だが、人間を亡ぼそうと思った者が自身の子孫に倒されるとは皮肉なものだ。それでアル達はシェシンダへ行くのだな』

 『そういうこと』

 「アル、なにを話しているの?」

 「魔人族は言語が違うからな。ここまで流暢に話すアルフェンにの驚きだが」


 不満気に口を尖らせるリンカに爺さんが感心しながら彼女の横に立つと、グラディスがそれに気づいて口を開く。


 「はじメマシテ、俺はグラディス。アルとこのクニ、助けた。キケンなことをサセタ、すまナイ。俺のクニもタスケテ、モラッタ」

 「おお、話せるようになってる!?」

 「初めまして、リンカです!」

 「アルベールだ。アルの危機を救ってくれたこと、感謝する」


 お互い頭を下げて礼を言い合うと、同じ宿に泊まるところだったので一旦チェックインをしてから俺達はくつろげるロビーで話をする。


 あれから両国で問題はないようで、ガリア国王も建て直しに心血を注いでいるとのこと。お互いの貿易が復活し、魚を魔人のザンエルド国へ輸出して果物などをツィアル国が輸入など上手く活かせているようで安心だ。

 

 ……結局、あいつの話ではあやふやなことばかりだったのでこの大陸もラヴィーネが手を貸したのかは不明のままだ。

 今となってはどうでもいいことだが、あれだけの強さがありながら直接手を下さなかったのは、まだ人間を信じていたのかなと思う。


 俺にもし力があればきっと皆殺しにするだろう。それは前の世界でヤツの取り巻きを殺したので証明できる。

 それをしなかったということは、彼女はまだ人間だったのかもしれないな……。


 『ガリア殿には合わないのか?』

 『別にいいんじゃないか? わざわざ会いに行く用事もないし』

 『そうか? この大陸だとお前は英雄扱いだから歓迎してくれると思うがな。宿じゃなくて城のベッドの方がいいんじゃないか?』

 『はは、現状は貴族でもないしこれくらいがちょうどいいよ』

 『相変わらずおかしなヤツだ。……助けに行けなかったのは残念だが、無事でなによりだ』

 『ありがとう』


 そんな話をしてグラディスと夕食をともにし、俺達一家と楽しくおしゃべりをしながら夜が更けていった。


 「ま、魔人語は難しいわね……」

 「ずっと話していたら慣れるけどね。さて、それじゃ」

 『ああ、また会おう』


 グラディスは仕事があるにも関わらず俺達が出発する時まで残って見送ってくれた。


 「落ち着いたら遊びに来て欲しい。お子さんも生まれたと言っていたしな」

 「カならず行く。また、テガミ、書く」

 「はは、それは楽しみだな」


 爺さんが握手をしながら笑う。

 リンカもグラディスと話すのは楽しかったようで、魔人語で挨拶をして握手を。

 息子が産まれて約束どおりと言うのも変だけど俺の名前の一部を使って名付けたらしい。


 ニーナ達も元気に暮らしているとのことなので、会いに行きたいからこっちから出向くこともあるかもしれないと告げてグラディスと別れ、俺達はさらに北にある港町へ。

 樽づめにされたあの苦い港町からイークンベル王国行きの船へ乗り込むと数時間で大陸へと到着。


 当日はイークンベルンの港町で一泊し、そこから二日かけて――


 「ふう、やっと到着した。あそこがイークンベル王都だよ」

 「ライクベルンと同じくらい大きなところね。あそこにカーネリアさん達が住んでいるのね? ゼルガイドさんのご両親にも挨拶をしないと。後は双子ちゃん達に会うのが楽しみね」

 「ベイガン爺ちゃんはいつも別のところに住んでいるから居ないかもしれないけどね」


 婆さんが双子のことを思い出して笑う。

 屋敷ですごく構っていたので子供が好きなんだなとリンカと二人で苦笑したものだ。


 「ありゃ、相変わらず門番のおっちゃんか」

 「あん? ……おお!? アルじゃないか! か、帰って来たのか!」

 「父さん達には話をしてあるけど、通してもらってもいいかい?」

 「なんか大勢いるが?」

 「俺の家族なんだ。これからシェシンダへ行こうと思っている」

 「あー、いよいよか。ま、無事でなによりだ! 通りな。おい、ラッド王子にアルが帰って来たことを報せろ」


 別にいいのに……と思ったが、門番はさっさと城へ駆け出していき俺はため息をつく。


 そして懐かしい街並みを進んでいく。


 「キレイな町ね、ここでしばらく過ごしていたんだ」

 「だな、学校にも行ってたけど途中から城で授業を受けることになってたんだよな。ルーナ達も誘拐されそうになったり、色々あったよ」

 「大変だったのね……あら、どうしたのペル?」


 ラクダのペルが急に立ち止まって首をキョロキョロと動かし、俺達が訝しげに眉を顰めると突然鳴きだした。


 「ブルベェェ!!」

 「きゃ!? どうしたの!?」

 

 すると――


 「きゃー!」

 「どうしたのペラ!」


 ――通りの角からルーナとルークを乗せたラクダがとっとこ走って来た!?


 「あ! お前達!?」

 「ああー! アル兄ちゃんだ!! リンカおねえちゃんも居る!!」

 「ペロとペラもだ!!」


 どうやら気配で分かったらしく、仲間を呼んだらしい。魔物みたいなことをするラクダである。


 「おばあちゃんたちも居るのー?」

 「ええ、居ますよルーナちゃん」

 「やったー!! お家に行こう! ペル、案内しなさい」

 「ブルベェェ」

 「あはは、すっかりご主人様になってるわね……」


 ルーナの見事な手綱さばきを見てリンカが呆れた笑いをする。

 まあラクダも嫌がっている様子は無いので相性はいいのかもしれないなと、俺達はもう一つの我が家へと足を運ぶのだった。

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