120.決意
「……驚くべきことね」
「我が息子ながら恐ろしいです……」
どうあがいてもまだ実力不足だと感じた俺は、学校を卒業するまでの残りを修行と金稼ぎに費やした。
休みの日はギルドへ行き依頼を受け、学校では少し無理をした魔法を使い、剣術は父さんにガチでしごいてもらう形を取った。
両親は複雑な顔をしていたのが少々心苦しいが、結局手紙も迎えも無い状況のためこの目で確認したいのである。
なので、約一年という時間で稼いだ金は全て両親へ渡す予定。金じゃないことは重々承知しているが今の俺にできるのはこれくらいしかない。
そんな調子で生活して現在は卒業試験。
研鑽に研鑽を重ねて『エキスパート』クラスの魔法であるエクスプロードで並べた的を同時に10個破壊したところだ。
「流石はアルだね。僕は詠唱がないと発動すらできないよ」
「いや、王子もハイクラスまでならほとんど無詠唱でしょう……俺はミドルで精いっぱい……」
「でもイワンは剣が上手い。グノシス騎士団長の息子だけあるよ」
「アルに言われてもなあ。いや、嬉しいけどよ? 俺の26に対してランク40って化け物かよ」
イワンが口を尖らせるが、顔は笑みを見せてくれる。
ぶつくさ言っているが12歳でランク26は結構能力が高く、校舎に通っている子なら15くらいあればいい方だろう。
ちなみにラッドはランク24となっていて、剣より魔法の方が得意だということが分かっている。
「まさかハイクラスまで使えるようになるとは思わなかったわ。……頑張ったね、アル」
「ありがとうございますミーア先生。無理言ったのに教えてくれて助かりました」
「私ではあなたの復讐は止められない。なら、できるだけ死なないように、それと達成できるようにしてあげただけさね。死ぬんじゃないよ? それと卒業試験は三人とも合格だ」
「「「ありがとうございました!!」」」
揃って頭を下げると、ミーア先生は一人ずつ頭を撫でてくれ、同じく教員としてやってきてくれた母さんは涙ぐんでいた。
その横で苦笑していたミーア先生は最後に俺へ質問を投げかけてきた。
「ラッド王子はこのまま城で引き続き国政の勉強に入り、イワンは見習い騎士として活動することが決まっているんだったわね。是非、この国のために頑張って欲しい。後はアル、あなたはどうするのさね」
「俺は……お世話になった人たちに挨拶をしたらライクベルンへ帰ることにします。もちろん、落ち着いたら戻ってきますけどね」
「成人まで待たないのかい?」
ミーア先生の言葉に俺は頷く。
「……生きているはずの祖父母からの連絡が全くないんです。ツィアル国の船が別の大陸へ活発的に稼働が始まっているのにも関わらずです。もしかしたらその途中の国で止まっている可能性もあるので、元気かもしれません。……ですが、俺は嫌な予感がするんです」
「そうかい……。さっきも言ったけど私が止めることはできないから、好きにするといい。あんたなら無事に帰りつけるだろうさ」
そう言って俺の頭に手を置いて微笑む。
俺も笑い返すと、ミーア先生は目線を合わせてから口を開いた。
「……とりあえず今日で一旦アルとはお別れ。だけど、必ず一度は戻っておいで? あんたほど教えがいのある生徒はいなかったよ。……またね」
「……はい!」
元気よく返事をすると、先生は部屋を出て行き母さんとラッド、イワンが残される。しんみりした雰囲気の中、イワンが俺の前に来た。
「アルは最初はいけ好かないヤツだと思ってて突っかかってたけどちゃんと魔法を教えくれてありがとうな。おかげでクラスに居るより強くなれたし、王子と仲良くなれたよ」
「はは、そこはお互い様だろ? 俺だって面倒くさいヤツだって思ってたし。だけど、頭を下げて教えて欲しいと頼んできたからな。まあ、ついでだったけど」
「なんだよ!? ……死ぬなよ。次に会う時はお前から一本とってやる」
「楽しみにしてるよ、イワン」
イワンが歯を見せながら笑い、握手を求めてきたのでそれに応じる。
友人は必要ないと思っていたが、対人で切磋琢磨できたことは素直にありがたかった。
イワンが下がると、今度はラッドが目の前に立った。
「入学式の時に話しかけたこと、覚えているかい?」
「ああ。追われてたよな」
「あの時はお互い誰だったか分からなかったけど、その後で魔法の検査でアルを見た時素直に凄いと思ったんだ。自分で言うのは恥ずかしいけど、周りの子供に比べて僕は優秀だった」
ラッドはそこで言葉を止めて、少し考えてから再び話し出す。
「ちやほやしてくれるのは悪くないけど、王子って立場と周りが追いついていないから友人って子が居なかったんだよね。
そこで僕よりも数段上の魔法が使えるアルを見た時こいつだって思ったよ。で、話してみたら、王子だってのにちやほやもしてくれないどころかあっち行けって言うし、あ、面白いやつだって」
「そんなこと考えていたのか……」
「あはは、そうだったんだよ。でも嬉しかった、王子としてでも、優秀な子としてでもない扱いで接してくれたのはね」
ラッドは半泣きで俺の手を取る。
「本当は僕の側近にしたいくらいなんだよ? だけど、アルは帰るんだよね」
「……ああ。死ぬつもりはないし、戻ってもこっちへ顔を出すって」
「期待しているよ。イークンベルに来た時は必ず歓迎するよ。それにここは君のもう一つの故郷でもあると思うけどね」
ラッドはそう言って母さんを見る。
俺は頷いて肯定すると、まさかの言葉を口にした。
「エリベール様はどうするんだい? 婚約までしていたのに会ってないらしいじゃないか」
「あー……」
「たまに僕のところへ来てアルの様子がどうか聞いて来ていたけど、喧嘩でもしたのかな」
そういえば言ってなかったかと頭を掻いていると、なんとラッドのところには来ていたらしい。
まだ諦めてなかったのかと呆れるのと同時に、そこまで気に入ってくれていることは素直に嬉しいと感じた。
「僕は色々含めてアルとはお似合いだと思っているけどね? エリベール様はアルト……っと、これは僕が言っていいことじゃないか。シェリシンダに会いに行きなよ、最後に挨拶くらいはしても罰は当たらないと思うよ」
「そうだな……」
ラッドはぐっと握手の力を込めた後、出発前には声をかけてくれと言ってイワンと部屋を出て行く。
そこで母さんが俺の肩に手を置いて言う。
「さ、それじゃ帰りましょうか」
「うん」
「私も三人が卒業したらお役御免だから、この部屋に来ることが無いからちょっと寂しいわ」
「なんだかんだで賑やかだったもんなあ」
城の通路を歩きながら色々あったなと思いつつ屋敷を目指す。
こっそりラッドとイワンに頼まれて冒険者ギルドへ行ってめちゃくちゃ怒られたのもいい思い出だ。
そんな話しをしながら俺はエリベールのことを考えていた。
喧嘩別れをして一年余り……旅立つ前に挨拶をしておくかな?
突き放しておいてアレだけど、やっぱり気になるものは気になるな――
◆ ◇ ◆
「ラッド王子、エリベール様は大丈夫ですかね」
「まあ、そこは二人の問題だからねえ……だけど、上手く行って欲しいとは思っているよ。アルは急ぎすぎだ。口では死なないなんて言っているけど、多分相打ちで構わないと心のどこかで思っているような気がする」
「そう、でしょうか……」
「うん。だから、死にたくないと思わせる要因を足かせにしないといけないんだ。家族よりも恋人の方がいいと思っている。……アルに知られたら迷惑だろうけど、友人に死なれたくはないからね」
「はい。俺も手伝えたらいいんですが」
「イワンは僕のサポートさ。いつかアルを助けることがあるかもしれない。それまで腕を磨いておこう」
「承知しました!」
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